第43話


 俺が幼児化してから、三日後の朝。



「今まで、お世話になりました」


「こちらの方こそゼオユーラン殿には本当に世話になった」


「ゼオユーランくん、色々ありがとうね」



 護衛依頼の終了日となったため、俺は荷物を纏めて伯爵邸の玄関前に立ち、そこで、伯爵とクレアフィーネと別れの挨拶を交わしていた。



「それにしても、ゼオユーラン殿は最後まで特異なことをしてくれるな……」


「あぁ、この身体のことですか……」



 伯爵が、俺の全身に一通り目を向けて言った。



「ゼオンくん……護衛依頼、延長して受けてくれないの?」


「すみません、お嬢様。気が向いたら、いつか受けますよ」


「……本当ね?」


「はい」


「分かったわ———またねっ!」


「ええ。また会いましょう」



 俺は続けてお嬢様に短く別れを告げると、伯爵邸を後にした。




   ♢



 俺はクラードル家の方々と別れたあと、冒険者ギルドに来ていた。



「指名依頼の報酬を受け取りたいんだが……」


「えっ……君、冒険者ですらないでしょ?」



 俺が受付に報酬を受け取りにくると、受付嬢が訝しげな目で見てくる。



「うーん、これでいい?」


「……。……ダメでしょ、ボク? 盗んだ物は持ち主に返してきなさい?」



 冒険者カードを見せてみたが、盗品を疑われるのであった。



「これは俺の物だから大丈夫です」


「……ゼオユーランさんは、11歳と聞いているわ。君はどう見ても5歳にもなってないでしょ?」


「若返ったんです」


「へー、若返ったと……ってそんなわけあるかい! 若返られるものなら、私が若返りたいわっ!」



 受付嬢が突っ込みを入れてくる。



「えー、どうすれば、信じてくれるんですか……?」


「そうね……これでも私、昔はCランク冒険者として活動してたのよ」



 唐突に受付嬢の自分語りが始まった。



「へぇー……??」


「だから、私に実力の一部でも見せてくれれば———ッ!?」



 並みの冒険者ならギリギリ気絶しない程度の《威圧》を受付嬢に放つと、受付嬢は顔を真っ青にさせて、黙り込む。



「わ、私の勘違いだったようですね。あ、あはははは……。では、指名依頼の報酬をお渡しします……」


「ああ」


「……Aランク冒険者、ゼオユーラン殿、指名依頼の達成報酬、白金貨一枚と金貨八枚です。ご確認下さい」


「へっ? 白金貨!?」


「はい、そのようです」



 伯爵様、太っ腹だな……


 俺は報酬を受け取ると、依頼は受けずにギルドを出たのだった。




   ♢



 俺はギルドを出てから、王都の人気のない路地裏の奥へと突き進んで行く。


 ふと、足を止めて、後ろに振り向く。



「出てきなよ、君たち」


「———ほう? よく分かったな?」



 俺が誰も居ないように見える曲がり角に向かって声を掛けると、そこから、二人の男が現れる。



「バレバレだったよ? ギルドから付いて来てたよね?」


「ふん……ガキの癖に、探知系のスキルを持っているようだな」


「だが、その判断は間違いだ。気付いていたのなら、お前は誰かに助けを求めるべきだったな」


「それで、おっさんたち、何が目当てなの?」


「勿論、お前が持っている白金貨だよ」


「大人しくよこせば、命だけは……いや、どちらにせよ、助ける気はないがな!」


「うん? これを渡しても助けてくれないの?」



 俺は先程、受け取った報酬の入った袋を男たちに見せびらかすように片手で振る。



「どうやら、お前はAランク冒険者の知り合いのようだからなあ……念の為、生かしてやるつもりはない」


「んー……ここは街中だし? 盗賊なら問答無用で殺すけど、おっさんたちは一応、殺さないでおいてあげるよ」


「テメー、状況が分かってないようだな! そろそろ、死ねっ!」



 沸点が低そうな方のチンピラ冒険者が、風魔法を俺に向けて放つ。



 カンッ



 だが、俺の張った光魔法の結界がそれを完璧に防ぐ。



「なッ————!! グワァアアッッ!!」



 俺が間髪入れずに風魔法を放つと、チンピラ冒険者の右腕が飛ぶ。



「ハッ!? す、すみませんでした! 大人しく帰るのでどうかッ!!」



 もう一人の男は俺との間に圧倒的な力の差を感じたのか、一転して謝罪し、片腕となった男を担ぎ、立ち去ろうとする。



「———待てよ」


「は、はい?」


「お前、俺を殺そうとした対価も支払わずに何処に行くんだ?」


「え、そ、そんな……ギャァァァアッ!」



 最初の男と同様に右腕を失った男は、担いでいる男を取り落とす。



「さっさと失せろ」


「ッ……!!」



 男たちは一瞬、悔しそうに顔を歪めたが、すぐに去って行った。



「んー、宿を探すか」



 護衛依頼が終わり、伯爵邸に留まるわけにもいかなくなったため、俺は泊まる場所を探すことにした。




   ♢



「すみませーん」


「はーいっ」


「取り敢えず、一週間泊まりたいんですけど……」


「食事は?」


「朝と夜で」


「それなら、一週間で銀貨九枚よ」


「分かりました」


「毎度っ!」



 そんな感じで、王都中層の宿に泊まることにしたのだった。




   ♢



 翌日の昼。


 俺は、王都近辺の何もない平原で様々な魔法を使いまくっていた。



 ズガガガガッッ!!


 ゴォォオオオオッ!!


 ズババババッ!



「ハァハァハァ……」



 魔力を使い切り、強烈な眠気に襲われた俺は、側に置いてある小さな瓶の中身を飲み干す。



「ほぅ……」



 俺は一息つくと、考えを巡らす。



 (どうやら魔力を使い切っても、魔力回復のポーションを飲めば、疲労感を無くすことができるようだな……)


「……ステータス」



~~~~~


 ゼオユーラン・ルクーツド(男)

 種族 : 人間  称号 : なし

 

 Lv : 58

 魔力 : 27/1359

 

 スキル

  剣術(上級)

  格闘術(上級)

  気配察知(超級)

  魔力感知(超級)

  魔力操作(上級)

  火魔法(中級)

  水魔法(中級)

  地魔法(中級)

  風魔法(上級)

  光魔法(超級)

  威圧

  隠密(中級)

  状態異常耐性(超級)


 固有スキル

  時空間魔法

  成長促進


~~~~~



 (魔力量が増えてる……!!)


「よっしゃぁああっ!!」



 俺は期待通りの結果に、嬉しさから思わず声を張り上げるのだった。




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