第41話 裏オークション


「ええっ! ゼオユーランさん、暗殺者に襲われたんですか!?」


「ああ。誰の差し金か分かるか?」


「すみません……その時間は寝ていました……」



 俺は伯爵邸を出ると、ウルムンドの家へとやってきて、夜の出来事について尋ねていた。



「ま、そうだろうな。……他に聞いてもいいか?」


「僕に分かることならなんでも」


「魔力を増幅させる魔道具が売っている所を知っているか?」


「魔力を上げる魔道具、ですか。……それは、普通に店に並べてあるような物じゃなくて、ということですよね……?」


「ああ。王都に来てから、いくつか魔道具屋を回ったんだが、俺が求めているくらい効果の高い物は一つも無かったんだよ」


「うーん……あっ。それなら、裏オークションに参加してみてはどうでしょう?」


「裏オークション?」


「ええ。非公式のオークションで、かなり貴重な物ばかりが競りに出されます。今回、そのような魔道具もリストにあったと記憶してますよ」


「……リスト?」


「あぁ、主催者らしき者の様子を視ていたら、出品物のリストが偶々、視界に入ったんですよ」


「なるほどね……」



 絶対、偶々じゃないだろ、と思ったが、口には出さないでおく。



「それで、何処で開催されるんだ?」


「あぁ……それは————」



 ウルムンドは裏オークションについて詳しく説明し始めた。




   ♢



 二日後の夜。


 俺は王都のとあるチェーン店の雑貨屋の前に立っていた。



 (えーと、確かここだよな?)



 昼間、下見に来た時とは違い、その店の明かりは完全に消えており、陰鬱とした雰囲気が漂っている。



「……おじゃましまーす」



 取り敢えず、開いていた店の扉から中に入ると、闇の中に向かって呼びかける。



「何だね? 今は営業時間外だよ」



 すると、店の奥から何処にでも居そうなお婆さんが現れて、追い払うような仕草で手を振ってくる。



「———杭を打つ村人に猛虎は復讐する」


「どうぞこちらへ……そろそろ開始時刻です」



 俺がウルムンドから事前に聞いていた合言葉を言うと、老婆は一転して曲げていた腰を伸ばし、しっかりとした足取りで店の奥へと俺を招く。

 そこで老婆が地下への扉を開けると、通路の先を指差す。



「こちらは会場へとつながっています。帰りは別の道が準備されています。……ごゆっくりどうぞ」



 それだけ言うと、老婆は俺から離れて行った。


 俺は通路に沿って前へと進み、扉の前に立つと、何処かの店で買った、量産品の仮面を付ける。


 裏オークションでは、金さえあれば全ての出品物を手に入れることもできる。

 誰かに競り落とされて、望む物を得ることができなくても、オークション後に恨みを抱いて襲撃する、といったことが無いように仮面を付けて個人の特定をできなくする、とのことだ。


 中は大学の講義室のように段差ごとに机が立ち並んでいた。

 そこには、仮面を身に付けている五十人くらいの人が既にバラバラに座っていて、競売が始まるのを待っていた。


 俺は真ん中辺りで着席すると、机が向かう先のステージ上へと目を向ける。



「皆様、本日はお越し頂きありがとうございます」



 少し待っていると、司会者が出てきて競売のルールを説明し始めた。


 要約すると、入札時は手元の札に値段を書いて掲げること、落札された物に関しての争いの一切の禁止、自らの身分を利用した落札の禁止等々。



「それでは早速、始めさせていただきます!

 一品目は大陸の最北端の国、ミナネート王国にだけ生息する討伐ランクがBランクの魔物、ブリザードタイガーの素材を使った胸当てです。そして、この防具は水魔法と風魔法に強い耐性を持っています! では、金貨一枚からどうぞ!」



 ふーん、Bランクの魔物の素材で作ったヤツでもそんなに高いんだ……俺もいつかオークションに出品してみようかな?



「金貨二枚!」


「金貨三枚」


「金貨三枚と大銀貨一枚!」


「……金貨四枚!」


「「「「「……」」」」」


「他にいませんか! ……では、金貨四枚で3番の方の落札です! 二品目は———」



 そんな感じで進行するオークション。中盤に差し掛かると、漸く目的の物が現れた。



「———続いて、十品目と十一品目は、共に魔力を上昇させる腕輪です! こちらは、魔力を100も上げる魔道具となっております! 一方、あちらは魔力を20パーセント上昇させる効果がございます。まぁ、これは前者の劣化版としか言えませんが……とにかく! まずは魔力が100上昇する腕輪から、銀貨八枚から始めさせていただきます!」


「……銀貨九枚!」


「金貨一枚!」


「金貨二枚……!」


「金貨三枚と大銀貨一枚!!」


「「「「「……」」」」」


「では! 金貨三枚と大銀貨一枚で12番の方の落札となります! えー、あちらの腕輪は、銀貨五枚からどうぞ」


 (少し様子を見るか……)


「銀貨六枚!」


「銀貨七枚!」


「銀貨八枚!」


「「「「「……」」」」」


「えー、では、銀貨八枚で……」


「———金貨二枚!」


「「「「「……??」」」」」


「え……あっ、金貨二枚! それ以上の方、居られますか!? ……居ないようですね。では、金貨二枚で22番の方の落札となります!」


 (ふっ。突然、大量のお金をかけた俺に恐れをなしたか!)



 ゼオンは急に静かになった周囲を見てそんなことを思い、心の中で笑っていたが、実際は、会場の人々はこんな物にどれだけお金をかけてんだコイツ!? と思っていただけだった。

 誰もが、この腕輪に金貨一枚以上をかける気は無かったのである。


 しかし、ゼオンにとっては先の腕輪よりも大きな効果を発揮する魔道具となる。


 一般的に、人の生まれ持った魔力数値は200前後だが、ゼオンは幼い頃、魔力を使い切って回復してを繰り返していたため、魔力数値が1320に達している。


 それによって、ゼオンがこの腕輪を付けた時、この腕輪は魔力を264も上昇させてくれるのだ。


 ゼオンが魔力上昇の魔道具を手に入れようと思ったのは、もう少し魔力が増えれば、感覚的に、《時空間魔法》を使えるようになる気がした、というのもあるが、単純に、魔力が増えると肉体が強靭になるからだ。


 同レベルの者がスキル無しで殴り合った時に、より高い攻撃力と防御力を持つのは、魔力数値が高い方なのだ。



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