第38話


「ほうほう……それで、グレイン・ガドルカットスを何とかしたいと……」


「ああ。ヤツはどうやら子爵家令嬢と頻繁に会っているようだし、叩けば埃が出ると思ってな……お前の力なら、尚更」


「ふふふ……」



 ウルムンドが妖しい笑みを浮かべる。



「……なんだよ?」


「ふふふ……それに関する詳しい情報なら既に持っておりますよっ!」


「おおっ! 本当か!?」


「勿論です。僕は何か情報を得るために、定期的に王都を視ているんですよ? 貴族は多かれ少なかれ後ろめたいことを隠しています。なので、貴族街は特に入念に、ね」


「伊達に『天下一の情報屋』って呼ばれてるわけじゃないんだな」


「やめて下さいよ……その異名だけは……」



 ウルムンドは露骨に嫌そうな顔をする。


 あっ、やっぱりこれ、ウルムンドも恥ずかしいと思ってるんだ。



「それで、その情報は幾らだ?」


「えっ……?」


「情報屋なのは間違いないんだろ? だから、俺はその情報を買いたいんだが……もしかして、駄目なのか?」


「いえいえ! そうではなく、僕は貴方に助けてもらったんですから、その情報くらいタダで差し上げますよ!」


「あー……ありがとう」


「それくらい当然ですよ。……確かに、グレインはキルシュフ子爵令嬢と肉体関係を持っています。何度も、です」


「おおー、予想通りだな。……ところで、その光景を《投写》で紙に写せるか?」


「勿論ですよ!」



 スキルを披露するのが嬉しいのか、ウルムンドは張り切って一枚の大きな紙を持ってきて、直ぐ様、スキルを発動する。



「はいっ! どうですか、僕の固有スキルは!?」


「……」



 俺は失念していた。王都の中央広場近くで見た、『天下一の情報屋』専用掲示板の絵。それは前世にあった写真と同じと言っても過言ではないほどの精巧な絵だった。


 まぁつまり、何が言いたいのかというと、その紙には裸の男女が汗だくでベッドの上に居る姿が写し出されているということだ。



「はっ……! すみません! まだ子供のゼオユーランさんの教育に良くないですね!」


「いや、別にいいが……」



 元々知識は持ってるし、そもそもこの子供の身体はまだ第二次性徴を終えてないから、これを見ても特に興奮はしない。



「……そういう話題の時に公開する絵ってどうしてるんだ?」


「新聞社でぼかしを入れてもらいますよ〜」


「ま、それはそうか。それより、子供が居るんなら、居間でこんな光景を写すなよ」


「やだなぁ……普段は流石に、僕の書斎でやってますって」



 ウルムンドは然も心外そうに言う。



「これのぼかしを入れたのを貰ってもいいか?」


「……三日後のパーティーで利用するおつもりで?」


「ああ」


「それよりも効果的な方法がありますよっ!」


「? なんだ?」


「ふっふっふ……中央広場のあの建物の掲示板に貼るんですよ!」


「……いいのか?」


「はい! 僕はあまりこのような話題には触れてこなかったのですが、丁度いい機会ですからね!」


「でも、それだとパーティー中に参加者たちに情報を届けるのは難しいんじゃないのか?」



 俺は至極当然の疑問を投げかける。



「いやいや、僕はこれでも『天下い———』……として有名ですからね。あの建物内には常に多くの貴族や商人たちの情報伝達係の者たちが居ることは確認済みです。彼らは情報が命みたいなものですし……自分たちの主が参加中のパーティーに関することなら尚更、どんな手段を使っても情報を届けようとすることでしょう」


「なるほど……」


 (俺が直接その情報を公開するのではなく、参加者たちが自分の部下から情報を受け取った方が確かに効果がありそうだな……)


「それなら、お願いするよ」


「分かりました、任せて下さいっ! 僕がパーティー会場を視ながら、丁度いいタイミングでストゥード新聞社の掲示板担当の人に記事を貼ってもらいますよ!」


「あ、ああ」



 鼻息が荒く、威勢の良いウルムンドの様子を見た途端に、失敗しないか心配になってきたが、当日の流れに任せるしかないか……


 その後、俺はウルムンドと世間話をしたあと、伯爵邸への帰路に着くのだった。




   ♢



 はい、回想終了。



 俺はお嬢様の相手をしながら朝食を摂ったあと、一週間ぶりに冒険者ギルドへと足を運んでいた。



「この依頼を受けます」


「……その依頼は、君にはちょっと早いかなぁ……最低でもDランク冒険者になってから、またよろしくね?」



 お嬢様から今日一日の外出の許可を得たので、ギルドの依頼を受けることにしたんだけど、掲示板にあった最高ランクのCランク帯の魔物の討伐依頼の紙を受付に持っていったら、案の定、周囲からの奇異の視線が刺さった。



「———これで、いいですよね?」


「え……あっ、す、すみません! 今すぐ依頼を受注いたします!」



 しかし、俺が金色に輝く冒険者カードを提示すると、受付嬢は慌てて作業をし始める。


 王都周辺は王宮騎士団が定期的に巡回して、魔物を間引いたり、治安を維持したりしているため、この王都の冒険者ギルドには依頼が少ないらしい。

 必然的に、王都には高ランク冒険者が少なく、Aランク冒険者が来るのは驚くべきことだったみたいだ。

 まぁ、受付嬢が驚いた理由に、俺が子供だから、ということもあるだろうが……


 この人は善意で話してくれたのに慌ててる姿を見ると、なんか申し訳ない気持ちになるな……


 俺は「Aランク冒険者だってよっ!」「あんな子供が!?」という驚きの声が聞こえてくる中、ギルドを出て、魔物討伐をしに行くのだった。





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