第32話 テンプレイベント発生……?
「オイ、ガキ、いつまでそこに突っ立ってやがるんだ?」
「……ん?」
俺が振り返ると、そこに立っていたのは、身長が180cmはあろう三十代前半くらいの男で、細身だが筋肉質なのが肌の露出している部分から窺える。
「ああ、すみま———」
「オメェ、ちょっと面貸せや」
「えぇぇ……」
一方的に告げられ困惑していると、周りから此方の心配をする声が聞こえてきた。
「おい、あれ見ろよ。今回はあんな子供が犠牲になるみたいだぞ」
「可哀想に……」
「諦めろ……ああやって連れて行かれた者は例外なく、スレグストさんに従順な犬のようになってしまうんだ……」
スレグストって言うんだこの人。
俺は特に暴れる理由も無いので、男に付いて行ってみる。
やがて、人気のない路地裏に到着する。
「オメェよぉ……」
次にどんな言葉が続くのか———俺はゴクリと唾を飲み込み身構える。
「あんな所にずっと居たら、他の冒険者に絡まれて危ないぞ!!」
「へっ?」
……あれ? 心配してくれてるのかな? 普通この場面だと肉体的な語り合いが発生するんじゃないの?
「オメェみたいな子供は特に、周りの冒険者の様子を気にする癖を付けた方がいいぜ。初心者冒険者いびりってヤツが多いらしいしな」
俺はまさにそれを貴方から受けると思ってました。ごめんなさい。
「もしかして……俺が絡まれる前に話しかけて助けてくれたんですか?」
「へっ、そんなんじゃねぇやいっ!」
ツンデレいただきました。ありがとうございます。
「……ところでお前、ギルドで見ない顔だと思ったが……王都は初めてか?」
「はい」
「そうか! それなら、俺が王都を案内してやるぜ!」
「えっ? いいんですか?」
「おうよ!」
「じゃあ、お願いします」
「分かったぜ、俺はスレグストだ。お前は?」
「ゼオユーランです」
俺たちは今、王都の中心部に向かって、多くの露店が挟む広い道を歩いている。
「あの屋台の裏の道の右手側にある宿は安くて食事も美味いぜ。俺はそこに泊まっているぜ。
あぁ、そっちの道には行くなよ。ガラの悪い連中が彷徨いてるからな
この店の武器は良い物ばかりだから、その剣を買い替える時はここに来るといいぜ」
「ほうほう」
一緒に行動していると、スレグストさんは凄く面倒見がいい人だということが分かった。
嗚呼……なんていい人なんだ……
そんなことを考えていると、スレグストさん曰く、王都の丁度中心部にあるという広場に到着した。
「カップルが多いですねー」
「そうだな。残念ながら……俺は独り身だがな……」
スレグストさんは哀愁漂う雰囲気を醸し出し始める。
「だ、大丈夫ですよ! スレグストさんはまだ充分若いじゃないですか!」
俺はスレグストさんにフォローを入れる。
「俺なんかを好きになってくれる物好きなんかいないと思うぜ……お前はいいよな。将来はきっと、引く手数多だぜ」
「あ、アソコに沢山、人が集まってますけど、何かあるんですか?」
俺はフォローし切れず、露骨に話を逸らした。
そうして俺が指差す先では、大勢の人が広場の端に建つ一つの建物の前に並んでいた。
「あぁ、あれはな、ストゥード新聞社の所有する建物なんだが、『天下一の情報屋』が仕入れた記事が貼ってある掲示板が中にあるんだよ」
ストゥード新聞社はこの国で最もメジャーな新聞社だけど……
「『天下一の情報屋』……?」
「ああ。噂では、得るのが困難な情報ばかりを手に入れ、時折、ストゥード新聞社に渡してるヤツがいるらしくてな。しかも現実と全く同じ精巧な絵も添えて、だ。ソイツのことを世間では『天下一の情報屋』って言うんだぜ」
「そんな人がいるんですね」
「俺たちも見に行こうぜ」
「分かりました」
列に並んで暫くして辿り着いた入り口の警備員に銅貨一枚を渡すと、中に入る。
そこには、掲示板を見ようと背伸びしたり、人混みの中で前に出たりしている人々が居た。
俺たちはその人混みを掻き分けて、掲示板の前まで移動した。
「えーと、なになに? 『ブングート伯爵領、とうとう負債が白金貨10枚に到達!?』だってよ」
そこには、そのような見出しと共に、いくつかの借用書の一部が書かれた新聞が貼ってあった。
「そんな貴族を馬鹿にしたような内容……大丈夫なんですかね?」
「ストゥード新聞社が無くなったら、国民への情報伝達速度が平均で4日も遅れるって言われてるからな……ヤツらには国すらも容易に手出しは出来ないんだよ」
「へぇー、そうなんですね」
この世界にはネットなんて無いしな……情報だけを遠くの場所に飛ばすことは出来ない。
ストゥード新聞社は余程優秀な足を持っているんだろうな……
「ここから王城までの道には日用品店とか、服飾店とか、貴族街とかがあるが、俺たち冒険者がお世話になることは少ないから気にする必要はないぜ」
「貴族からの依頼を受けたりしないんですか?」
「普通は貴族が出した依頼を受けても、俺たちは貴族の代理人と少し遣り取りするだけで、貴族と実際に会う機会なんて無いぜ。態々、貴族様の屋敷に招かれるのは、指名依頼の時ぐらいだからよぉ、貴族街に縁があるのは高ランク冒険者の中でも極一部だろうよ」
「ふむふむ」
そんな話をしながら、暫くスレグストさんに付いて行くと、やがて辺りの雰囲気が一風変わった、城壁近くの一帯に来た。
「ここは……?」
「色街だぜ」
俺の目の前に広がるのは、そういうお店が密集している区画だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます