第31話 王都


 翌日、クラードル家一行の馬車は、王都が見える位置まで来ていた。


 この三週間、盗賊に襲われることも無く、快適な旅だった。態々、騎士が守っている馬車を襲おうとする盗賊なんて普通は居ないし。



 (あれがこの国の王宮、シュッペルゼ城か……デカいな)



 王都を囲んでいて端が見えないほどの長さの高い城壁が見えてくるが、それよりも存在感を放ち、嫌でも目に入ってくるのは、巨大な城だった。


 少しして、王都の南西にある門の前に到着する。門の前には様々な人々が並んでいるが、俺たちの馬車は人が並んでいない貴族専用の門に向かい、そこから王都に入った。


 王都は今まで見てきた街とは比べ物にならないほどの人で賑わっていて、俺たちの馬車が広い道の真ん中を通ると、大勢の人がそれを避けて行き、馬車が通り過ぎるとすぐに道が人で埋まっていく。


 馬車が王都の中を進んで暫くすると、周りに密集していた建物が落ち着き、大きな屋敷が間を空けて建ち並ぶ、貴族や大商人たちの邸宅があるエリアに入る。



「そろそろね」


「あぁ、お嬢様は何度かこちらの屋敷に来たことがあるんでしたっけ」


「ええ、今までに三回よ。最後に王都に来たのは確か五年前だったわ」


「へぇー」



 お嬢様と軽い会話を交わしていると、馬車が止まった。



「おおー、ここが伯爵家の王都別邸か……この周りの家と比べても充分広いけど、ヒュライゼンの街の屋敷よりは小さいみたいだな」


「王都は土地代が高いわ……お父様は伯爵といっても使えるお金には限りがあるしね」


「なるほど」



 そんな感じで俺たちはクラードル家の王都別邸にやってきました。



「皆の者、長旅ご苦労。暫く休暇を与えるので、しっかり旅の疲れを癒してくれ」


「「「「「はっ」」」」」



 伯爵が、屋敷の庭で今回の旅に同行した騎士と使用人たちにそう告げると、皆んなが散り散りになって去って行った。



「さあ、メルとゼオユーラン殿は中に入ってくれ」


「分かったわ」「分かりました」



 俺たちは正面玄関でこの屋敷の管理を担当している使用人たちに出迎えられながら、屋敷へと足を踏み入れた。


 使用人さんに又もやお嬢様の私室の隣の部屋に案内され、そこで荷物を整理してから、お嬢様と共に居間に移動する。

 そこでは、伯爵とクレアフィーネがソファーに座って俺たちを待っていた。あと、伯爵の後ろにはフルムートさんが待機していた。



「……来たか。二人とも、座ってくれ……あと、君たちは下がっていてくれ」



 伯爵は俺たちに着席を促すと、使用人たちを部屋から退出させた。



「さて、これからの予定なんだが、その前に一つ気になる報告を聞いたんだが、それを共有しておく」



 伯爵が深刻そうな顔をする。



「……悪い話ですか?」


「ああ、その通りだ。メル、お前に関することなんだが……どうもメルの婚約者のグレインくんのガドルカットス侯爵家の邸宅にキルシュフ子爵家の令嬢が毎夜、行き来しているらしくてな……」


「「……」」



 部屋の中に何とも言えない空気が漂う。


 侯爵家という家柄上、妾を作るのは珍しくはない。

 しかし、正妻となる予定のお嬢様の実家———クラードル家に報告もしない上、先に妾と関係を持つのは非常識だと言わざるを得ない。



「ま、まぁ、それだけで何かを決め付けるのは良くないから、様子を見ようと思う。幸い、明後日、メルがグレインくんと会う機会を作ってあるのでな」


「そうですね……」



 その場の皆んなが頷いて伯爵の言葉に同意する。



「では、それも含めて今後のゼオユーラン殿の予定を話そう」


「お願いします」


「まず、今言ったように、メルとグレインくんがガドルカットス侯爵家の邸宅で明後日、会うことになっている。これには、俺たちは別に面会の予約があって、付いて行くことが出来ない。

 その五日後には、メルの15歳の誕生日パーティーがここで行われる。つまり、メルが成人するということだ。

 ゼオユーラン殿には、これらに護衛として同行して頂きたい」


「なるほど……」


「今のところ、ゼオユーラン殿の予定はこんな感じだ。あと、メルがこの屋敷に居る時は警備は万全だから、ゼオユーラン殿は王都を歩いて回ってもらって構わない」


「ああ……それは有難いですね」



 一人で王都を散策してみたいしな。



「では、解散だ」



 そこで俺たちは部屋を出て行った。


 王都に繰り出そうにも、もう夜遅く、眠気が襲ってきたので、今日は大人しく部屋で寝ることにしたのだった。




   ♢



「————今日はずっと屋敷に居る?」


「うん。ゼオンくん、王都に来るのは初めてなんでしょ? 偶には護衛を休んで遊んで来なさいよ」


「それなら、俺は王都を散策して来ようと思います。多分、夕食はここで食べます」


「分かったわ」



 王都に来ても、俺の行動原理は一緒だ。

 まずは冒険者ギルドに行こっと。


 というわけでやってきましたシュッペルゼ王国王都、冒険者ギルド支部。


 因みに、冒険者ギルドの本部は帝国の帝都にあるよ。


 まぁそれは置いておいて、王都の冒険者ギルドの建物はラキートの街のギルドより少しだけ小さいようだ。人の出入りはヒュライゼンよりは多い、といった感じか。


 俺はそれだけ確認すると、ギルドの中に入る。


 取り敢えず、掲示板の前に来てみたのだが、今回はどんな依頼があるか見るだけだ。


 そんな感じで掲示板の前に居座っていると、



「オイ、ガキ、いつまでそこに突っ立ってやがるんだ?」



 と、乱暴な言葉遣いで声を掛けられた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る