第29話
次の日、俺はいつも通りの時間にギルドに来ていた。
「ゼオユーランさん、クラードル伯爵から指名依頼が来ています」
「ああ。一応、内容を聞こうか」
「一応……?? は、はい、依頼内容は、伯爵の娘メルシアーネさんの護衛で、期間は三ヶ月。尚、その期間の衣食住を保障する、というものです」
「その指名依頼、引き受けましょう」
「はい、では、依頼を受注致しました。……伯爵邸に今日の昼過ぎに集合とのことです」
「分かりました」
俺は受付に呼ばれ、そこで例の指名依頼を受けると、ギルドを出て、時間潰しに暫く街をを散策するのだった。
♢
「すみません、伯爵様の依頼で来た者です」
「ああ、ゼオユーランさんですか?」
「はい」
「分かりました、どうぞお入り下さい」
俺は伯爵邸の門番に話しかけて、正面の門を通してもらった。
「ゼオユーラン殿、よく来てくれた。さぁ、中に入って」
門から伯爵邸の敷地内に入って、案内人に徒歩で付いて行き、伯爵邸の正面玄関に到着すると、伯爵自ら出迎えてくれた。
伯爵と共に広い屋敷の中を移動すると、やがて一人の部屋に辿り着く。
「メルー、俺だ。ゼオユーラン殿をお連れした」
「あーっ! 少し待ってー」
扉越しに伯爵が中に声を掛けると、お嬢様の返事が返ってきた。
「えっと、ここは?」
「俺の可愛いメルの私室だ」
「は、はぁ。何故ここに俺を?」
「それは————」
「もう大丈夫、入っていいわよ」
伯爵が何か言いかけた所で扉の取っ手を片手で掴んだお嬢様が部屋から顔を出す。
「———ゼオユーラン殿、貴方は光魔法の扱いも驚異的だという噂を聞いた。この話が本当なら、どうかメルの傷を治してくれないか……?」
お嬢様の部屋に入って少し経つと、伯爵が俺に頭を下げて頼んでくる。
「お嬢様の傷、ですか?」
「ああ、今回の護衛依頼を出した理由なんだが、メルは最近、暗殺者に狙われてね……フルムートが偶々近くに居て、その暗殺者を撃退できたのは良かったものの、メルは背中に深い傷を負ったんだ。これがヒュライゼンの街の最高位の神官でも完全には治せなくてね……王都に行って、聖女様か大司教に頼ろうと思っても、余りにもメルが不憫だから、早く治してあげたい、というわけだよ」
「なるほど……」
「勿論、護衛とは別に報酬は出来るだけ多く払うつもりだ……だから、どうか頼まれてはくれないか?」
「お父様、私は大丈夫だと言っているのに……」
「メルが常に痛みに耐えているのは知っているんだぞ」
「分かっていたのね……」
俺も時々、苦しい顔をするお嬢様が気になってはいたのだが、そういう理由だったのか。
「分かりました、やれるだけやってみます」
「おおっ、よろしく頼む!」
「……お願いね、ゼオユーランくん」
「ええ、では、患部を見せて下さい」
「分かったわ……お父様は出て行ってよ」
「え、俺、一応家族……」
「さよなら」
「そ、そんなぁ……っ」
伯爵がお嬢様に部屋から追い出される。
「じゃあ、よろしくね」
「え、ええ……」
お嬢様が反対側を向いて服を脱ぐと、お嬢様の背中が外に晒される。俺はその様子を確認する。
うん、これは酷いな……傷痕が大きく残っている。
無理に治療したせいなのか、痕が残っていても、傷は塞がっているので、治療の難易度が上がっている。
「どう? 治せそうかしら?」
「ええ。少し時間はかかりますが……」
「構わないわ」
だが、俺の超級の光魔法なら出来る———
俺はお嬢様の治療を開始した。
♢
30分後、お嬢様の背中の傷は綺麗に消えていた。
「これは見事なものね……本当に光魔法も使えるのね……」
治療が終わって、部屋に呼ばれたクレアフィーネが娘の傷が癒えたことを確認し終える。
「本当にありがとう!」
「いえいえ、それより、伯爵様を呼ばなくて良いのですか?」
「あぁ、そうだったわ……お父様ー、もう入ってもいいわよ」
伯爵が部屋に押し寄せてくる。
「ああっ、メル、傷はっ!?」
「治ったわよ」
「おおっ、本当か! ゼオユーラン殿、ありがとうございます!」
その後、皆んなが落ち着くと、護衛依頼について話を聞く。
「———要は暗殺者からお嬢様を守って欲しい、ということですね?」
「ああ、いつメルが狙われるか分からないしな。……それにそろそろ我々は王都に行く。慣れない所での生活では隙を見せやすいしな」
「王都には何の用事で行くんですか?」
「貴族は定期的に国の中央部に集まる必要がある上、面会やパーティへの出席などの予定があるのだよ……」
「なるほど」
「これは他言無用だが……メルの婚約者は侯爵様のご子息なんだが、彼には女癖が悪いとの噂が立っていてね……それを調査する、という意味でも、王都に行くのは必要なことなんだよ」
「へぇ……」
お嬢様の婚約者が怪しい、と。
因みに、この国の貴族に公爵家は無い。
昔、二つの公爵家が王家に反乱を起こして大規模な戦いとなったらしく、その後、公爵家は取り潰され、それからは侯爵家が貴族の最高位となったそうだ。
「ああ、それと、ゼオユーラン殿の泊まる場所だが……」
「……うん?」
(俺の宿代を負担してくれるってことじゃないの?)
「私の部屋の隣ね」
「……へっ?」
「当然じゃない。貴方が私の近くに居なかったら、私を守れないでしょ?」
「あっ……それもそうですね」
そんなわけで俺はお嬢様の私室の隣の部屋で生活することになったとさ。
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