第28話 模擬戦


「ど、どうしたの、メル。急に大きな声を出して……」


「君、そんなに凄い人だったの!?」


「凄いのかなぁ……」


「ちょっと、待ってくれ。まさか……君がゼオユーラン、なのか??」


「……まぁ、一応? そうですね」


「何だって!? こんな偶然……いや、Cランク冒険者を倒したのなら、本物ということか……」



 俺が冒険者カードを見せると、伯爵は執事と何やら相談し始めた。



「ゼオユーランくんはどうやってAランク冒険者になったの?」



 クレアフィーネ様が問い掛けてくる。



「ドラゴンを倒して、ですね」


「ドラゴンっ!? ドラゴンって強かったの!?」



 お嬢様がドラゴンという言葉に過敏に反応する。



「強かったですよ。めちゃくちゃ鱗が硬かったですし。きっと俺一人じゃ勝てなかったですね。まぁ、今なら一人でも勝てると思いますけど……」


「レベルが上がったから?」


「おー、よく分かりましたね、お嬢様」


「お父様が私に過剰にパワーレベリングをさせたから、レベルに関することはすぐに分かるようになったのよ……」


「そうなんですね」



 なるほどね……パワーレベリングをしたから、身体能力は上がってもスキルが強化されてなくて、あの素人の動きしか出来なかったわけか。



「ゼオユーランくん、俺は伯爵家当主として君にメル———メルシアーネの護衛の指名依頼を出すつもりなんだが……受けてくれるか?」


「……期間はどれくらいですか?」


「三ヶ月だ」


 (丁度、最近暇だったし、折角だからやってみるか)


「分かりました。ギルドを通して依頼が来たら、引き受けましょう」


「ありがとう。とはいえ……君を疑うわけじゃないんだが、フルムートと模擬戦をしてくれないか?」


「そこの執事の方と、ですか?」


「ああ、フルムートは今では執事をやっているが、昔は騎士だったのだ。それも、Bランク冒険者並みの強さだ」



 俺の実力を測るってことね。



「いいですよ。やりましょう」


「いつからにいたしましょうか?」



 フルムートが訊ねてくる。



「今からでいいですよ」


「貴方は武器を持ってきていませんでしたが……」


「ああ、俺は基本的に剣を使いますが……折角なので、素手で戦ってみることにします」


「……後悔しても知りませんよ?」


「大丈夫です」




   ♢



 そんなわけで俺たちは屋敷の敷地内の騎士団の訓練場に来ていた。敷地が広すぎて、ここに来るまでにかなりの時間がかかった。



「おい、あんな子供がフルムートさんと戦うのかよ……」


「アイツ、終わったな……可哀想に」



 俺は距離を置いて細剣を構えたフルムートと向き合う。

 周りには、クラードル家の三人と、今まで訓練場で鍛錬していた騎士たちが集まって見学している。



「用意はいいですか?」


「いつでもどうぞ」


「———ではッ!」



 始まりは唐突だった。


 フルムートは最短距離でゼオンに迫ると、細剣で突きを放つ。


 騎士たちの中には辛うじて見えた者もいたが、彼らはこの攻撃が自分に来た場合、防ぐことは不可能だと解っていた。


 彼らはゼオンの敗北する姿を幻視した。



「なッ……!」



 だが、ゼオンはそれを素手で掴んでいた。


 その上、ゼオンはワザと細剣を掌から解放すると、気を取り直したフルムートが放つ高速の連続突きを全て躱す。


 そして、ある時、ゼオンは細剣から大きく後ろに逃れると、



「終わりか?」



 と、煽る。



「どうやらAランクというのは本当だったようですね……」


「まだ疑っていたのか?」


「悪かったと思っていますよ」


「そうか……だが、そろそろ終わりにするぞ」


「私では貴方には勝てないようですが、全力で抗わせて頂きましょう!!」



 フルムートがその歳とはかけ離れた獰猛な笑みを浮かべる。

 ……戦闘狂だったのか??



「いいや、その暇も与えるつもりはないよ」


「なにっ! どういう意———ッ」



 俺は全力の速さでフルムートの前に移動すると、その細剣を奪い取り、そのまま両手で構えてフルムートの首元に剣先を向ける。



「———俺の勝ちだ」


「……降参です」



 フルムートは両手を上げて負けを認める。



「う、うぉおおおおッ!?」


「なにぃーッ!!」


「あの『鬼騎士』が負けただと!?」


「そんなバカな!?」


「あの子供、Aランク冒険者だってさ!!」



 騎士たちがこの結果に驚いているけど、この執事、そんな物騒な異名があったのかよ……



「凄〜い、ゼオユーランくん! 私、殆ど見えなかったわ〜」


「いや、俺は何も見えなかったよ……でも、フルムートに圧勝したのは分かった。試すようなことをして悪かった、ゼオユーラン殿」


「いえいえ、伯爵様。娘の護衛を任せる親なら当然、皆んなそうするでしょうし、気にしなくていいですよ」


「そう言ってもらえると助かる……では、なるべく早めに依頼発注の準備をしに行くとするよ。ゼオユーラン殿、護衛の件、よろしく頼む」


「ええ。その時は、こちらこそよろしくお願いします」



 その後、俺はお嬢様とフルムートに正面の門まで見送られて、そのまま宿へと帰った。




   ♢



 さて、宿に来たのはいいが、俺は宿に入る前、チェルルさんを避けるために、態々いつも光魔法で俺の存在の認識阻害を行っている。

 相変わらず光魔法は万能だ。


 認識阻害中の俺が宿の食堂で食事を摂ると、モブ冒険者Dくらいの認識がされていると思う。



「はい、どうぞ。……。……?」



 チェルルさんが料理を運んでくる。

 彼女だけは毎回、俺を見ると首を傾げてくるけれども……まぁ、バレてないから大丈夫。


 俺は部屋に戻って魔法を解除すると、ベッドに沈むのだった……



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る