第27話
「———お嬢様! ここに居られましたか!」
そう言って、少女に話しかけたのは、執事服を纏った初老の男性だ。
「フルムート」
「お嬢様、一人で出歩かれては困ります! ただでさえ今、貴女は……いえ、ここで話すことではありませんね。さぁ、帰りましょう」
「帰るのはいいけれど、この子を連れて行くわ」
「こちらの子は……?」
「私を助けてくれたの」
「そうですか……分かりました。さ、どうぞこちらにお乗り下さい」
男性が指し示すのは、いつの間にか道の真ん中にある馬車だ。
「ほら、貴方も乗りなさい」
「……えっと?」
「遠慮しないでいいわよ」
そう言われ、半ば強引に馬車に乗せられた俺。
少女の対面に座らされ、急に少女が喋らなくなったため、少し気まずい感じがする。執事が御者をやっていて、馬車の中で二人きりなので尚更。
やがて馬車の揺れが収まったため、馬車の外を見ると、一つの見覚えのある屋敷が目の前に建っていた。
「ここは……」
「言い忘れてたわね。私はメルシアーネ・クラードルよ。……貴方は?」
クラードル家———ヒュライゼンの街の周辺一帯を治める領主の家系———の屋敷の門の前に馬車が止まった。
貴族に多いとされる特徴的な容姿に執事の迎え……薄々気付いてはいたが———
「えーと、貴族様でございましたか……」
「そんなことどうでもいいじゃない。それで、貴方の名前は?」
うーん、押しが強い……この気の強さも貴族だと判れば納得だ。
「ゼオユーランと申します、お嬢様」
「……お嬢様って言い方辞めてくれないかしら」
「いえ、そういうわけには……今までのお嬢様への非礼お詫び申し上げます」
そう言って、俺は頭を下げる。
「あーっ! お嬢様でいいから、謝るのは辞めなさい!」
「はい、分かりました、お嬢様」
そんな遣り取りをしていると、屋敷の敷地内の広い庭を通過し終えて再び馬車が止まり、俺はお嬢様———メルシアーネと共に馬車を降りた。
「メルっ、居なくなったって聞いていたけど無事で良かったよ!」
すると、メルシアーネの元に一人の金髪に翡翠色の瞳の男性が両腕を広げながら駆け寄ってきた。
「お父様、私は無事だから近寄らないで」
しかし、もう14歳になった、年頃のメルシアーネはそれを拒絶する。
余程その反応に傷ついたのか、男性は絶望の表情で地面に沈んでいた。
「と、ところで、メル。その男の子は誰なのかな?」
「この子には街で助けてもらったの」
「そうか……君、ありがとう。お礼に、この後一緒に食事でもどうだい?」
「では、ご一緒させて頂きます」
♢
俺は今、クラードル伯爵家の食卓を囲む一員となっていた。
ここでメンバー紹介!
まず、俺の左隣にはお嬢様が上品に座ってらっしゃいます。
そして、長いテーブルを挟んでお嬢様の正面に座るのはお嬢様の母親のクレアフィーネ・クラードル様です。彼女はお嬢様と同じく金髪碧眼で若々しい様子でいらっしゃいます。
最後に、上座に座るのは娘が大好きなご当主のダルグート・クラードル様です。さっきのお嬢様の拒絶を気にしているのか、彼の視線は食事中の今もチラチラとお嬢様の方に向いています。
因みに、さっきの執事や屋敷のメイド達は俺たちの後ろの方に控えています。
「おほんっ。ところで、二人はどのように知り合ったのかね?」
唐突に伯爵が話を振ってきた。
「お嬢様がチンピラに襲われそうになっているところを止めただけです」
「そうよ、そういえばアイツ、チンピラにしてはCランク冒険者とか言ってて強かったわ」
「Cランク冒険者に襲われたの!? 本当に大丈夫だったの、メル?」
クレアフィーネがお嬢様に心配そうに質問する。
「この子が助けてくれたから大丈夫だったって言ってるじゃない」
「こんな子供……いや、この子が……??」
執事やメイド達も含めた皆さんが俺に訝しむ目を向けてきます。
「フルムート、此方へ」
「はい」
伯爵が執事を側に呼ぶと、周りに聞こえないほど小さな声で何やら話し始めた。
『フルムート、あの子供をどう見る?』
『本物のCランク冒険者ならば、勝つことはほぼ不可能かと』
『だよなぁ……』
俺のレベルだと聴力も上がりすぎてて普通に内緒話も聞こえてしまったよ……
「冒険者といえば、俺は冒険者にメルの護衛を依頼しようかと思っているんだが……」
「あら、あなた、メルの護衛はフルムートに任せるって言ってなかったかしら?」
「ああ、それなんだが……これから王都に行く時、メルに危険なことが起きる可能性が高いからな。それに、フルムートも俺の手伝いとか護衛とかで、メルにずっと付き添うわけにもいかないしな」
「それもそうね……じゃあ、冒険者の誰に指名依頼を出すつもりなの?」
「最近、ヒュライゼンの街で活動しているAランク冒険者がいると聞いた。信じられないことだが、彼は11歳らしい」
……俺じゃん。
「ふーん、Aランクって凄いの?」
「そうだぞ、メル。Aランク冒険者なんて今までこの街に一人も居なかったぐらいだからな」
「へー、そうなんだ。私より若いんだね。どんな人なのかなぁ……」
「確か、ゼーナラン? いや、ゼクーユランだったかな?」
「ゼオユーランですよ、ダルグート様」
執事がフォローを入れる。
「ああ、そうそう、それだ」
「えーーーーーーーっ!!」
お嬢様の大声が食堂に響き渡った。
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