第26話


「うーん、今日は何の依頼にしようかなぁ……」



 低ランク冒険者失踪事件の解決後、二ヶ月が経った。


 俺は基本的に毎日、高ランク向けの依頼を受けているが、元々Aランクが適正ランクの依頼など未だ未踏破の地域がある魔の森付近のラキートとは違い、ヒュライゼンの街にはない。

 また、俺が高ランク向けの依頼を達成しすぎて元からヒュライゼンを拠点としていたB、Cランク冒険者たちの仕事を無くすわけにもいかない。


 金も十分に持っている。結果、最近の俺は掲示板と睨み合いをし、悩んでいることが多いのだった。



「今日は休むか……」



 俺は冒険者の仕事をするのを諦め、一度宿に戻って荷物を整理し、部屋に剣を置いてきた。

 そして、今日は休みの日と同じく、街の散策をすることにしたのだった。


 いつも通り屋台が立ち並び、通りは活気に満ちていた。



 ガシャーンッ



「おい、待てよ! テメェ今、俺にぶつかっただろ!? 俺の陶器が壊れたじゃねぇか! これ、高いんだぞ?」


「えっ……? い、いえ、僕は……」


「アニキがそう言ってんだから、お前がやったんだろ!?」


「オラ、弁償しろや!」



 何やら揉め事が起こったようで、男三人に一人の青年が絡まれている。



「俺は王都でCランク冒険者やってたんだがよぉ、俺が頑張って稼いだ金でやっと買えた物を壊すとはいい度胸してんじゃねーかぁ?」


「全くだぜ! 早く払えよ、テメー!」


「ガハハハハッ! そうだぜ! 早くしろよッ!」



 その青年が今にも泣きそうな様子で周りを見渡すと、誰もが関わりたくないようで、皆がその視線から目を逸らしていた。



 (はぁ……面倒だが、明らかに三人組が悪そうだし可哀想だから助けてやるか……)


「おい、そこの———」


「———貴方たち!」


 (……ん?)



 俺が仲裁に入ろうと彼らに近づいたその時、俺の隣から割り込む声がした。



「なんだテメェ!」


「貴方たちっ! 嘘を吐くのは良くないわよ!」


「ああんッ!? 何のことだってんだ!」


「貴方が自分でそれを落としたの、私、見たんだからっ!」



 そう言って、男たちを非難するのは、普通の町娘の格好をしているが、帽子などでは隠しきれていない美貌を持つ金髪碧眼の美少女だ。



「俺らが嘘吐いた証拠でもあんのかよ!」


「そうだそうだ!!」


「ガキはすっこんでろッ!!」


「何ですって!? 貴方たち、ふざけないでっ!」



 その少女は顔を真っ赤にして怒る。



「ふざけてんのはテメェだ! 俺らに逆らえないようにしてやろうか!!」


「やれるもんならやってみなさいっ!」


「アニキ、やっちまいやしょう!!」


「そうだな、ちょっと躾けてやれ」



 アニキ、と呼ばれた男に指示されて、二人の男がその少女に殴りかかる———



「「ゴベェッ!?」」



 だが、男たちはその少女からボディブローを喰らい、地面に沈んだ。



 (おおー、速いな。こりゃあ相当レベルは高そうだな)



 俺は思ってもみなかった結果に驚く。



「……ん? やってくれるじゃねーか、ガキがよぉ……」


「フン! 私に勝てると思ったら大間違いよ!!」


「お前は俺に勝てる、と思っているようだが———」



 そう言ったかと思うと、次の瞬間、男はその少女の前に肉薄する。

 少女はその動きを目で追えてはいるようだが、反応は出来ていない。


 男の右ストレートが少女に迫る———



 パシッ



 だが、俺はそれを片手で受け止めていた。



「あ? 誰か知らんがこのCランク冒険者の俺の拳を受け止めるとはやるじゃねーか」


 (Cランクってチンピラしかいないの?)


「Cランクってチンピラしかいないの?」


「何だと!?」



 あっ、声に出てたか……



「お前、少しはやるようだが……んんんんん??」



 そこで漸く男は自分の腕がピクリとも動かないことに気付いたようだ。



 (えっ……全く動かせねェッ! なんだコイツは!?)


「……いえ、何でもありません。……ですが! このガ……女が嘘を吐くんですよ!」


「……。……はぁぁぁあ!? アンタがワザとあれを落としたんでしょ!!」



 急に話を振られた少女が少し固まったあと、復活し、壊れた陶器を指差して言う。



「ああ……。俺が頑張って仕事をして稼いだお金で買った大事な陶器が……ッ!」


「……そんなに大事な物だったのか?」


「はい! それは勿論!」


「なら、何故お前はその壊れやすい大事な物を持ったまま人混みの中を歩いてたんだよ?」


「……」


「嘘を吐いたヤツは躾けるらしいな?」



 俺は男の手を離すと、ワザとらしく指をポキポキ鳴らす。



「ちょっと待っ———グヘェッ!?」



 俺が男の鳩尾を殴ると、男はあっさり気絶した。



「よし、終わりっと」


「……貴方、若いのに強いわね! ちょっと私の家に来ない!?」


「えー……まぁ、暇だからいっか」


「分かったわ! なら、行きましょっ!」


「あ、あのー」


「「……ん?」」


「ヒッ、あ、ありがとうございました〜……」



 最初に絡まれていた青年がお礼を言ってきたが、俺たちが反応するとすぐに去っていった。



「あ、あれ? 行っちゃったわね……」


「アンタが怖かったからだろ」


「何でよ! どちらかと言うと、絶対貴方でしょ!」


「アンタは二人、俺は一人だ」


「貴方、ああ言えばこう言うわね!」


「———お嬢様! ここに居られましたか!」



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