第25話 指名依頼 達成
折れた剣の刃が宙に舞う。
「うぉぉぉぉおおおッ!!」
ゴルラッティがその隙を逃さずに再び剣を振りかぶって、俺目掛けて落とす。
だが、俺はそれを半身になって避けると、そのまま腕を伸ばしてゴルラッティの顎を掌底で打ち抜く。
「ウゲッ……」
ゴルラッティは白目を剥いて気絶し、その場に倒れた。
「あーあ……遊んでたら剣が壊れてしまったな。まぁ、ドラゴン戦の時に使ってた剣だからなぁ」
俺は冒険者になってから今までに剣を二回新調した。
そして今、三本目の剣が壊れたということだ。
「というかコイツ運ぶの怠いなぁ……」
俺はゴルラッティを事件の首謀者として連れて行くことにしたのだった。
♢
「おい……あの子供が運んでいるヤツ、ゴルラッティじゃねぇか?」
「ホントだな……アイツ、寝てるみたいだが、何かあったのか?」
俺がギルドの中に気絶したゴルラッティを持ち運んでいると、冒険者たちから奇異の目で見られた。
「ゼオ……ゼノスさん、ちょっと奥の方に来て頂けますか?」
「ああ、はい」
ギルドの受付の側にいたギルドマスターのスタッドがそう話しかけてきたので、後に付いて行く。
「あのぉ、ゼオユーラン殿、一体これは……?」
ギルドの奥の部屋に入ってすぐに俺が抱えているゴルラッティを指差して言うスタッド。
「コイツは今回の事件の元凶だ……多分」
「……若者三人のパーティーがゼノスさんに助けられた、と言ってましたが、何があったんですか?」
「ああ、実はな———」
俺はスタッドに今日の出来事を詳しく説明した。
「なるほど……ゴルラッティは自供したということですね……」
「ああ」
「分かりました。ゴルラッティは私たちギルドが預かって今回の事実確認が取れ次第、指名依頼の報酬を渡したいと思いますが、よろしいですか……?」
「ああ、それでいいが……どれくらいかかる?」
「一週間くらいかかるかと」
「何故だ?」
「嘘看破の光魔法を使える神官がこの街には一人しか居ないので……約束を取り付けるのに時間がかかるんですよ」
「嘘看破……光魔法って色々と便利すぎないか……」
「……ゼオユーラン殿?」
「ああ、いや、何でもない。まぁ、どちらにせよヒュライゼンには暫く居るつもりだったから、問題はない」
「では、そのようにいたします」
そこで会話を切り上げると、俺は部屋から退出した。
♢
あれから一週間———まだ事件が解決していない可能性もあるため、俺は引き続き偽名と偽のギルドカードを使い、初心に返ってEランク冒険者ライフを満喫していた。
その間、特に低ランク冒険者が不自然に失踪する話などを耳にすることもなく、丁度一週間が経った今、ゴルラッティが事件の首謀者だという事実確認が取れたことを伝えられたため、ギルドの受付に報酬を受け取りに行く。
俺は受付の前に立つと、本来のギルドカードを提示する。
「———Aランク冒険者、ゼオユーラン殿への指名依頼の報酬、金貨4枚です。ご確認下さい」
「ああ、確かに」
「なに! Aランク冒険者だと!?」
「聞き間違いか!?」
「いや、でも、指名依頼って言ってたし……!」
受付嬢の言葉に、周りの冒険者たちがどよめき始める。
「今、ギルドに居る者ども! ギルドマスターの私から伝えるべきことがある」
スタッドがそう話を切り出す。
「ここ一週間ほど前まで続いた低ランクの冒険者の失踪を起こした犯人が分かった」
冒険者たちが一斉に黙り、ギルドマスターの次の言葉を待つ。
「それはCランク冒険者のゴルラッティだった! ヤツは盗賊を従えて、依頼先に来た低ランク冒険者を殺し、装備品を奪っていた……」
「何だとっ!?」
「あの野郎ッ! 許せねぇ……ッ!」
特に、被害にあった人と関係があった冒険者たちは強く憤りを覚える。
「だが、安心してくれ。ゴルラッティは既に街の衛兵に引き渡した。そして、ゴルラッティを捕まえてくれたのがこのゼオユーラン殿だ。彼には、犯人にバレないよう、この街でEランク冒険者として活動してもらっていたが、ゴルラッティを捕まえたことでそれも終わった。今日からはAランク冒険者として活動してもらうから、そのつもりでいてくれ」
それだけ言うと、スタッドはギルドの奥へと帰っていった。
「アイツらの仇を打ってくれてありがとう!」
「ゼオユーランさん、俺のパーティーに入ってくれ!」
「いやいや、俺のパーティーの方が———」
すると、冒険者たちからの感謝とそれぞれパーティーへの誘いの言葉が俺に降り注ぐ。
「いえいえ、依頼をこなしただけなので……あっ、俺はソロで冒険者やってるので、すみません」
俺はそれらを軽く往なすと、早めにギルドを後にした。
「すみませーん。これ、いくらですか?」
「銀貨4枚だ」
俺は新たな剣を求めて鍛冶屋へとやってきていた。
「じゃあ、それで」
「……そんな簡単に決めていいのか?」
そう言って、忠告してくるのはドワーフのおっさんだ。
ドワーフは亜人の内の一種族で、どの鍛冶屋にも大体居るため、それほど珍しくはない。
もう一つのテンプレ種族のエルフは排他的で基本的に身分制度はなく、それぞれ里に篭っている。元々、外への関心が薄い種族だと言われているが、ハーフエルフは偶に見かける。
「別に、素手でも戦えるんで」
「まぁ、それで死んでも冒険者は自己責任だからいいがよぉ……」
俺のレベルで他者に傷つけられることはないだろうし、俺に剣へのこだわりはない。正直、剣の良し悪しなんて分からないし、魔物を斬ることが出来ればいいだろうと思っている。
俺は迷わず剣を購入すると、鍛冶屋を出ていった。
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