第24話


 現在、俺は逃げた賊を追っている。


 ……え? どうやって、見えない所にいる敵を追うのかって?


 魔力には個人ごとに特徴がある。探知系スキルを駆使しながら、それを感じ取ることで、相当離れた距離まで人探しができるのだ。


 ということで、さっきの賊の魔力を追っていると、木々に囲まれた場所に一軒のボロ屋が見えてきた。



「魔力反応はこの中……いや、下か?」



 扉を開けてボロ屋の中に入ると、中央にテーブルがあり、その上に様々な工具が置かれていた。ボロ屋の中にはただそれだけしかなく、生活感がない。

 だが、《魔力感知》に集中している俺は、部屋の隅のカーペットの下から僅かな魔力を感じ取った。



「うぉぅ……随分と古典的な隠し場所だなぁ」



 その床には、鍵穴付きの重厚な扉があった。


 魔力の流れを見ると、どうやらこの扉は鍵を使わない場合、登録された魔力を流してやると、開くようだ。つまり、この扉は魔道具だな。



「うーん、魔力回路を壊すか……」



 俺は膨大な魔力を注ぎ込んで、無理矢理この扉の魔力回路を破壊する。

 すると、プシューという間抜けな音がしたかと思うと、ロックが外れて扉を自由に開閉できるようになった。


 扉を開けた先には、梯子があったため、それに手足を掛けて地下に降りていく。



「明るいな……」



 地に足がつくと、正面に伸びた広い通路があった。その両脇には、等間隔にいくつかの通路と光源の魔道具があった。


 扉を潜ってから強くなっている魔力反応を追い、その通路を真っ直ぐに進んで三分ほど経つと、二つの人影が見えてきた。



「なっ……お前、何故ここが分かったんだ!?」


「貴方の魔力が余りにも臭かったんでね」



 その人影の元に辿り着くと、さっきの賊のリーダーが俺に驚愕の視線を向けてきた。

 因みに、魔力に匂いなどない。



「ふん……お前の言う通り、Eランク冒険者というのは嘘だったようだな」


「あんたは確か……ゲロラット?」


「違う! ゴルラッティだっ!」


「……どっちでも良くね?」


「良くねぇよ! ふざけやがって……このガキがっ!」


「ふーん、それが本来の口調か? 粗野なお前にお似合いだぜ」


「この僕をっ、虚仮にしやがって!」


「ぼ、ボス、落ち着いて下さい……」



 この場に居たもう一人の人物で、ボスと呼ばれているこの男は、ギルドで会ったCランク冒険者のゴルラッティだ。



「くっ、まぁいい……お前はどうせ今日、死ぬんだしな」


「え? 誰が誰を殺すってぇ?」


「僕が、お前を、だッ!」



 もしかしたら、俺の《成長促進》は煽りの能力にも働いているのかもしれない。いや、単にコイツが乗せられやすいだけか……



「……早速だが————死ね」



 俺は風魔法の刃を二人の首目掛けて放つ。


 だが、いつもとは違い飛んだ首は一つだけだった。



「クッソぅ……ちょっと痛ぇじゃねぇか!」


「……あれ? なんで?」



 ゴルラッティに風の刃は当たりはしたが、首から少し血が出ているだけに留まった。



「僕に傷を付けたことは褒めてやろう……」


「はぁ……」



 いつもの攻撃が通じず少し焦ったが、ゴルラッティの小物感溢れるセリフに俺は落ち着きを取り戻した。



「だが残念! 僕のレベルは30だ! そんな貧弱な魔法で勝てると思うなよ! フハハハハ!」


「ん? お前が30レベル……??」



 俺が言うことではないが、一般的に二十代後半でこのレベルの高さは異常だ。



「ふんっ、どうせお前は死ぬから教えてやろう! 人間はなぁ……経験値が多いんだよ! 装備品もいい金になるしな!」


「……なるほどな。やはり、低位冒険者の失踪はお前の仕業のようだな」


「ハッ、そうだぜ! だが、知ってどうする? 見ての通り、お前の攻撃は効かなかったぞ? あの扉を破った時点でそれなりにデキる魔法師なのは分かっているが、地下では大規模な魔法も使えまい!」



 別に、大量の魔力を込めれば、さっきの風魔法も充分通用するだろうが、ここはコイツに合わせてみるか。



「魔法が使えないなら、剣で戦えばいいだろ?」



 俺はそう言いながら腰にある剣を鞘から抜き放つ。



「は、ハハハハッ! 冗談が上手いな? 教えてやろう……僕の剣術スキルは中級だ。魔法師のお前には万に一つも勝ち目はない」



 スキルの段階が同じ相手が戦った場合、勝敗は数の差、魔力量、地形や武器、その他のスキルや身体の調子などにも影響を受けるが、数値化していて最もよく差を表すのは、レベルだ。つまり、剣術スキルが上級で、レベルも圧倒的に優っている俺は余裕がある。そのため、もう少し遊んでやることにした。



「やってみないと分からないだろ?」


「ふん……今、この場ではBランク冒険者だろうと僕には勝てないよ」



 そう言ってゴルラッティも剣の刃を晒す。



「……」


「ほら、先手は譲るから来なよ」


「そうか? なら遠慮なく」



 刹那、俺はゴルラッティの前に高速移動した。ゴルラッティが反応できていないのを確認しながらも、わざと構えてある剣の方に自分の剣を合わせにいく。



 ガキィィイン



「ぐっ……な、何だと!?」


「どうした? 見えなかったのか?」



 俺は煽りながら一度ゴルラッティとの距離を取ると、今度は少し手を抜いて剣を振る。

 結果、ゴルラッティと何度か斬り結ぶこととなった。



「ぐ、ぐぅぅうッ」


 (一撃一撃が重すぎて腕が痺れる……! 何故だ、何故こんなにも……まさかッ!!)


「貴様ッ! Aランク冒険者だとでもいうのかっ!」


「おっ、当たり〜」


「くっ、長命種だったか……見た目に騙されたわ!」


「うん? 俺はただの人間だよ?」


「こんのッ、化け物め!」



 そう言って、ゴルラッティが大きく剣を振りかぶって渾身の一撃を放つ。



 パキッ!



「あっ……」


「ッ……!」



 すると、俺の剣がその衝撃に耐え切れず折れてしまった。




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