第23話


「ボスによると、さっきここを通った三人は前衛の男がDランク、後衛の男女が魔法師でEランクらしいぜ」


「あそこにいるガキは?」


「ああ。ヤツは見失わないように気を付けろよ? 隠密の固有スキルを持っているらしいからな」



 森の草むらに紛れ、声を潜めて会話する七人の男がいた。



「とは言っても、Eランクらしいし、あの若さだ。お前ら二人でアイツをやれ」


「ああ、分かったぜ」「りょーかい」



 軽薄そうな二人の男が返事をする。



「ということで、俺を含めた残りの五人は三人組の所に向かうぞ」


「「「「分かった」」」」



 この集団を仕切っている人物がそう言うと、男たちは別れて行動を始める。


 二人組は、奇襲をかけるためになるべく慎重に移動していた。



「あーあー、何で俺らがこんな面倒なことしなきゃいけねぇんだよ」


「ああ、全くだ。だが、固有スキルは厄介だからな。慎重に行くしかないだろ」


「ま、報酬がいいから仕方ないか……っておい。アイツ、どこに行ったんだ!?」


「えっ! いつの間に居なくなったんだよ!? 魔物を見つけて隠密でも使ったのか? ……。あのガキは諦めるか……」


「ああ、そうだな……」



 ゼオンがどこにいるのか分からなくなったことで、この男たちは諦めて仲間と合流することにしたのだった。




   ♢



「……ん? お前ら、もう始末し終えたのか?」


「すみません、ガキを見失いました」


「ったく……分かった。なら、お前らはこっちを手伝え」



 二人は、低位冒険者たちを少し離れた草むらから見張っている五人の仲間と合流して、小声で話した。



「アイツらが最後のゴブリンを倒したところで、矢を放つんだ。……Dランクのヤツを重点的に狙え」


「「分かりました」」



 そう言っている内に、Dランク冒険者の男性が剣で最後のゴブリンにトドメを刺した。



「————やれ!!」



 リーダー格の男の合図で、男たちが一斉に矢を射る。




   ♢



「よし! これで最後……だ!」


「ゴブリンって数だけは多くて困るよね〜」


「全くだ……。……っ! おい、リュクス避けろッ!」


「なっ……ぐぅぅぅ」



 冒険者三人組は幼馴染同士で、六年間一緒にパーティーを組んで依頼をこなしてきた。

 今日も彼らはいつも通りに冒険者としての仕事をしていた。


 六年前、ゴブリンに苦戦した頃とは違い、今となっては、慎重に挑めば無傷で勝てる相手である。

 今回も楽に倒せると思っていた。

 実際、少しゴブリンの数が多くても、本番のキラーウルフに向けて、体力を温存するように立ち回ることができた。

 だが、戦闘終了時の緊張が抜けた際の不意打ちに反応が少し遅れた。


 直前に注意があったと雖も、急な攻撃を全て回避するのは不可能だった。咄嗟に剣で急所は守れたものの、集中的に狙われた前衛の剣士は両足を負傷して地面に倒れた。


 パーティーの要のDランクの剣士が倒れたことで動揺した二人は、走り寄ってきている剣や戦斧を持った賊たちに魔法を放つことができなかった。


 賊たちの得物は彼らの胴体へと向かって———


 土の壁へとぶつかった。



「「「「「は?」」」」」



 冒険者に飛び掛かった賊たちは呆けた声を上げる。

 何故なら、自分たちの前に一瞬で土の壁が形成されたからだ。



「誰だッ!!」



 この壁を作ったのは、今自分たちが襲っていた者の誰かではないと理解していたリーダー格の男は辺りに呼びかける。



「ほう? ソイツらの誰かがやったとは思わないのか?」



 そんな声がしたと同時に、何もない虚空から一人の少年が姿を露わにした。



「なっ!」「お前はさっきの!!」


「ああ。そこの二人が俺を監視?していたのは分かっているぞ?」


「……チッ。顔を見られちゃしょうがねぇ……! まずはコイツからやるぞ、お前ら!」


「「「「「おお!」」」」」



 その言葉を皮切りに、男たちが一斉にその少年———ゼオンの方へと大声を上げながら突撃した。



「ギャァァァッ!」「グワァァァァーッ」



 しかし、ゼオンの元に到達する前に、先頭の二人の手首が切断されて武器と共に地面に落ちると、思わず残りの四人がその場で踏みとどまる。



「な、何をした!?」


「風魔法を使っただけだが?」


「ふざけるなっ! そんなに離れた場所から当てれるわけねぇだろ!」


「んー? そうなのか……?」


 (《魔力操作》があればそんなに難しくないと思うが……)



 実際、《魔力操作》のスキルを持っていれば、感覚で当てれる人はいる。

 ただ、ゼオンの魔力量は常人の6倍以上のため、威力が増幅されて、一定レベル以下の者には恐るべき攻撃力を発揮するのだ。



「くっ……だが、魔法師とはいえ、連続では打てまい!」


「そうか……そうだよな! よし、今のうちにやっちまえっ!!」


「———お前らに構っている暇はない」



 同じ要領で、魔法の発動への集中を終えたゼオンが風魔法を刃の形で放つと、今度は後ろの方の賊にも届き、一斉に六人の男の首が飛んだのだった。

 

 それを目視すると、ゼオンは最初に発動した土壁を土魔法で崩した。

 そこには、未だに足に穴が空いた剣士と焦った顔をしている二人がいた。



「どけ」



 魔法使いの二人は、ゼオンの方を見ると、その後ろの血溜まりが視界に入った。


 低位冒険者の彼らは、人間の死体を見る機会など今までに一度も無かったため、その見るに耐えない光景に恐怖を覚え、ゼオンの言葉にただ黙って従うだけだった。



「足の内部の鏃は全て取り出したか?」


「「……」」



 二人は沈黙したまま頷く。



「よし、それなら、今から治療するから、周囲を見張っていてくれ」



 そう言ってゼオンは傷口に手を向けると、光魔法を発動する。


 2分後、負傷した剣士の傷は完全に消えていた。



「「「本当にありがとうございました!」」」


「いいよ、でも、君はまだ安静にしててよ? 身体に血は戻ってないからね」


「はい!」



 ゼオンが剣士を治療し終えた頃には、三人はすっかりゼオンを信用し切っていて、会話が可能になっていた。



「じゃあ、俺は逃げたリーダーっぽいヤツを追うから、君たちは帰ってギルドに報告しといてね」



 そう。賊のリーダー格はゼオンの最初の土魔法を見るとすぐにその場から逃げ出したのである。





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