第22話


 俺は早めに目を覚ますと、チェルルさんが起きてこないうちに食堂で食事を済ませ、宿を出た。


 冒険者ギルドは既に開いているが、まだ初心者冒険者たちの出入りは少ないので、街を散策することにした。


 暫く表通りを歩いていると、随分と奥の方まで来てしまった。

 すると、一際大きな屋敷が見えてきた。



「門番が居るな……ああ、ここの領主の家か」



 《気配察知》で壁を超えたところを探ると、屋敷の敷地内の奥の騎士っぽい人達のシルエットが頭に浮かんだので、そんなことを呟くと、そろそろ冒険者ギルドに行く時間だということに気付き、来た道を引き返した。


 冒険者ギルドに着くと、今度は普通に正面から中に入る。

 初めてギルドに来たからか、俺に視線が集まっていると、誰かが俺の元に来ているのが感じ取れた。



「君、冒険者ランクは?」



 おおー、ラキートで俺が初めてギルドに行った時は、帯剣していても冒険者だとは思われなかったのに。一応あれから一年経って身長が伸びたからか……?


 と、思いつつ振り向くと、そこには矢鱈と豪華な装備を身につけた、二十代後半くらいの男が立っていた。



「えーと? ここって人にランクを聞く時は自分から……みたいな風習無いんですか?」


「あぁ、これは失礼したね。僕はCランク冒険者のゴルラッティだよ。僕はね、将来有望な冒険者だと言われてるんだ」


「は、はぁ。そうですか……」


「それで、君は?」


「Eランク冒険者の……ゼノスです」


「ほう! その若さで! まぁ、僕ほどではないがね」



 それだけ言うと満足したのか、男は去っていった。



「……アイツはな、ソロで冒険者やってるんだが、自尊心の高いヤツなんだよ」


「……貴方は?」



 50代に到達してそうな年齢の男が、急に俺の隣に来て小声で話しかけてきた。



「俺はサイマン。こんな年齢まで死なずに冒険者続けて高レベルになったお陰で運良くBランクになっただけの男さ」


「へぇー」



 事前情報によると、ヒュライゼンにはBランク冒険者が二人いる。

 気のいい近所のオジサンみたいな雰囲気を漂わせているけど、その内の一人ということか。



「ところで、お前さんは何の依頼を受けるんだ?」


「ああ……俺は……コボルトでも倒そうかな」



 コボルトは、犬の顔と尻尾を持ち、全身が毛で覆われている亜人に近い容姿の魔物だ。

 少しゴブリンより強いと言われていて、5、6匹の集団で行動するらしい。



「えっ? お前さん、ソロのようだが……」


「え、あっ……。……隠密系の固有スキルを持ってますので?」


「あぁ、なるほど。固有スキルだったか。済まないね。固有スキルは隠したがる人がほとんどなのに」


「いえ、気にしてませんよ」


 (だって嘘だからね……でも、これは誤魔化したい時のいい言い訳になるな)



 固有スキルは一握りの人しか持ってないだけあって、強力なモノが多い。

 俺の固有スキルの《時空間魔法》は一度も発動できてないんだけどね。あともう少し魔力があればな……まぁ、使えるようになる目処は付いている。



「そういえば、高ランクの冒険者たちが依頼を受けている時間帯、とっくに過ぎてません?」



 俺は何故まだギルドに居るのか、言外に聞いてみる。



「あぁ……自慢じゃないが、稼ぎはそれなりにあるんでな。今日は仕事は休みなんだよ。それに、ギルドに居る新人冒険者たちを眺めるのが結構好きなんだ」


「なるほど……」



 やっぱりこの人は善良なオジサンだな。俺もこんな物腰の柔らかさが欲しい……



「おっし、このキラーウルフってやつにしよーぜ!」


「そうだな!」「うん、そうしよっか!」



 20代を超えたくらいの年齢の低位冒険者たちが掲示板に貼ってある依頼書を受付嬢の元に持って行って、依頼を受けていた。

 その時、彼らが提示していたギルドカードの色は、Dランクのモノが1つ、Eランクのモノが2つだった。



「———では、そろそろ依頼に行ってきます」


「ああ。スキルが有っても気を付けるんだぞ?」


「分かってますよ」



 俺は予め確保しておいたコボルトの討伐依頼を、例の偽ギルドカードを提示して受けると、キラーウルフを倒しに行くらしい低位冒険者たちがギルドを出るのを横目で見てから少しの間をおいて、ギルドを後にした。




   ♢



 現在、俺はヒュライゼンの南の森で《気配察知》と《魔力感知》を同時に強く意識して、さっきの低位冒険者たちを探知している。

 先程、彼らはキラーウルフの討伐依頼を受けたが、丁度キラーウルフの主な生息地がコボルトの生息地と被っていたので、俺は調査する対象を彼らに決めたのだった。


 どうやら、彼らはゴブリンのちょっとした群れと接敵しているようだが、背後を取られないよう上手く立ち回っているのが感じられた。



 (キラーウルフを倒すつもりだったらしいし、ゴブリン程度には苦戦することはないようだな……ん?)



 探知した情報から、冷静に彼らの状況を予測していると、少し離れた場所から俺の方を見ていた七人の男が別れて、此方に二人、低位冒険者たちの方に五人、忍び寄ってきていた。



 (んー? アイツら、さっきから怪しい動きしてたけど……最初からか?)



 俺は安定の光魔法で姿を消すと、息を潜めるのだった。



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