閑話 フィリナリア・シュッペルゼ
真夜中、一人の少女が天蓋付きの豪華なベッドで身体を起こしていた。
「居るのは分かっています。出てきなさいな」
「……何故分かった?」
一人の男が暗闇から現れる。
「魔力をそんなに漏らしていて気付かないはずがないでしょう」
「これでも、《魔力操作》には自信があるのだがな……流石は『王家の神童』というわけか」
「暗殺者にしては意外とおしゃべりなんですね」
「ああ。何故なら、お前はすぐに死———グボォッ……」
「……フィリナ様は今も、これからも天才だ」
気付けば、一人の女が侵入者の首に短剣を突き立てていた。
「もうっ! リーゼっ、どうして部屋を汚すのよ!」
「この無知な男は苦しんで死ぬべきだと思いましたので」
「グハッ、ゲボォ……」
侍女服を纏った女が淡々と返答する中、男がその血で床を汚していく。
男は必死にもがいていたが、次第に力を失った。
「はぁ……仕方ないなぁ。浄化っと」
少女が血で汚れた床に手をかざすと、少女の手から光が溢れた。
徐々に光が収まると、その床の汚れは綺麗さっぱり消えていて、ついでに男の遺体も綺麗になっていた。
この世界には魔法の詠唱という概念はない。ただ、この少女は声に出すことで魔法の効果をイメージしやすくしたのだ。
「フィリナ様、ありがとうございます。この不届き者を処理しやすくなりました」
「ところで、今回は誰の差し金なの?」
「第一王子派のブングート伯爵です」
「あのハゲか」
「あのハゲですね」
「今度会ったら、あの男の毛根燃やし尽くしてあげようかなぁ」
「薄い髪を気にしているらしいですから、完全に無くなったら気にするモノがなくなって、きっと泣いて喜んでくれますよ」
二人の身分はかけ離れているが、二人の間には軽口で話せるほどの信頼関係がある。
勿論、ふざけ合うのは周りに人が居ない時だけだが。
「ふふふっ。そうでしょうね。———ふわぁ……そろそろ寝るわ」
「分かりました。これで失礼します」
そう言って、侍女の格好をした女性は男の死体を持ち上げて、部屋を後にした。
暗闇の中でも目立つ蒼銀色の髪。静かに寝息を立て始めたその少女の名はフィリナリア・シュッペルゼ———シュッペルゼ王国の第四王女だ。
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