第20話
何度か野宿したり村に寄ったりを繰り返していると、ようやくヒュライゼンの街の城壁が見えてきた。
「ここでお別れだ」
「———この度は盗賊から身を守って下さり、ありがとうございました」
「依頼分の仕事をしただけだ……それより、俺がこの街に来たことは誰にも言うなよ?」
「はい。それは勿論」
「なら、いい」
「では、これで失礼します」
「ああ」
俺は街に入る前に門から離れた場所でヤットさんと別れる。
「……お前は?」
「あぁ……そろそろ僕も行きます。———僕は貴方に助けられた身です。僕は基本的には王都に居るので、何かあったら頼って下さい」
「ああ、分かったよ」
「では、僕はこの辺で」
そう言い残し、ウルムンドは街の方向へと去っていった。
「あっ……アイツ、王都のどこに居るか言ってないじゃん……まぁ、いいか」
程なくして俺は門に向けて歩き出した。
♢
今、俺はヒュライゼンの街中を歩いていた。
冒険者ギルドのカードは身分証として有効であるが、今回は指名依頼の関係でAランク冒険者だというのを隠したかったので、普通の身分証を門番に見せて門を通過した。
一年を過ごしたラキートの街と比べて、道行く亜人の数が非常に少ないので、違和感を感じる。
また、ヒュライゼンはラキートよりも少し狭い街だが、伯爵領の領都なだけあって人々の活気にあふれている。
軽く食事を摂ってから、冒険者ギルドへと向かう。
そこは、ラキートの冒険者ギルドよりは小さく、二階建ての建物であるが、人の出入りは多いように感じる。
俺はその流れには従わずに、冒険者ギルドの裏へと回る。
「……ゼオユーランさんですか?」
「ああ」
そこに居た、ギルドの職員の服を着ている女性が話しかけてきた。
「お待ちしておりました。ギルドマスターの元へ案内します」
俺がギルドカードを提示すると、そう言って、その女性が裏口からギルドに入り、ギルドの中を先行する。
女性に付いて行くと、二階の一室の前に着いた。
「イリナです。ゼオユーランさんをお連れしました」
「分かった。入ってくれたまえ」
ガチャリ
俺はその部屋の中に足を踏み入れた。
真ん中にあるテーブルの前に一人の男が座っていた。その男が着席を促してきたので、俺も対面に座る。
女性が一礼して退出すると、男が口を開く。
「私はここのギルドマスターのスタッドです。今回は指名依頼を受けて頂き、感謝いたします」
「ああ。……それで、状況は?」
「———これまでに、Dランク冒険者が7人、Eランク冒険者が16人がパーティー単位でも行方不明になっています」
「俺がラキートで聞いた時よりも5人も増えているようだな」
「はい……」
ここで、女性がお茶を持ってきてテーブルの上に置くと、再び部屋から退出する。
「ズズズ−ッ……それで? 俺は何をすればいいんだ? 大体予想はついているが……」
「ゼオユーラン殿には初心者冒険者になりすまして、彼らを見守ってほしいのです。そして、この事件の元凶を発見したら、対処していただきたい」
「なるほどな、魔物だったら討伐をということか……」
「はい」
「だが、貴方も分かっているだろう? 低ランク冒険者ばかりがこの事件に巻き込まれている……これは人為的なモノに思えるな?」
「はい……」
「それで、高ランク冒険者だが知名度が低く、まだ子供の俺に依頼したということだろ?」
「は、はい。そうです」
(こんな子供がAランク冒険者など疑っていたが、こうも頭が切れるとはな……強さは未知数だが、この人ならこの事件を解決してくれるかもしれん……)
冒険者ギルド、ヒュライゼン支部のギルドマスター、スタッドはゼオンへの認識を改める。
「それで、例のモノは?」
「……こちらは冒険者ランクEの偽物のギルドカードですが、機能は普通のギルドカードと変わりはありません……依頼中にご活用ください。あと、偽名を設定してありますので、ご確認下さい」
スタッドはそう言って、俺の冒険者ランクEの頃と全く同じ情報が書き込まれた、茶色のギルドカードを渡してきた。ただし、名前の欄は偽名となっているが。
つまり、ラキートで活動していた低ランク冒険者がこちらのヒュライゼンへと冒険者の活動の拠点を移した、という設定だ。
因みに、『例のモノ』は言ってみたかっただけである。スタッドは一瞬、困惑の表情を浮かべていたよ……
「———まとめると、D・Eランクの冒険者たちをバレないように観察して、彼らの周辺に気を配るということだな」
「そうですね」
「今日はもう遅いから、明日から調査を始める。俺は今から宿を探しに行くから、今日はそろそろ帰るぜ」
「よろしくお願いします……ですが、今の時間帯は仕事帰りの冒険者たちが多いですので、もう少し待っていただけると……」
「……こうすれば、問題ないだろ?」
その時、俺は盗賊の拠点で使った光魔法で姿を消した。
「え……どこに……い、いえ、問題ありません……」
「分かった。じゃあな」
その言葉と共に扉がひとりでに開き、
ガチャン
と、閉まった。
スタッドが呆然としていると、再び職員の女性がノックして部屋に入ってくる。
「失礼します……あれ? ゼオユーランさんは?」
「あぁ……あ、ハハハハハ……」
その質問に対し、スタッドは乾いた笑みを浮かべるしかなかった。
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