閑話 ウォルク


 物心ついた時には、俺は孤児院で過ごしていた。

 俺はサラや他の子供たちと仲良く遊んで、時には喧嘩した。

 俺に親は居なかった。

 強いて言えば、俺の、俺たちの親は孤児院の院長のサーナだった。


 ある程度成長すると、俺はただ養ってもらう現状を良くないと思うようになったため、一番仲の良いサラに相談した。



「———それなら、私たちでお金を稼げばいいじゃん!」


「でも、どうやって……」


「冒険者になろうよ! 孤児院出身でも、冒険者の仕事なら簡単にさせてもらえるはずだよ!」


「そうか……そうだな!」



 それからは、俺は剣の訓練をして、サラは魔法の練習をするようになり、必然的に遊ぶことが少なくなった。

 俺とサラは年長者なこともあり、子供たちを守らなければという使命感が大きかった。


 そして、13歳になる頃には、俺は剣術、サラは火魔法と風魔法のスキルを得ていた。そして、漸く冒険者ギルドに行くことにしたのだった。


 いつもの訓練のように孤児院の倉庫から剣を借りて、帯剣した。ギルドに着いてサラと冒険者登録を済ませると、いきなり体格の大きな男に絡まれ、討伐依頼を受けるのは無謀なことだと言われた。

 正直、怖くて心が折れそうになったが、何とか言い返した。


 そんな時だった————ゼオンに出会ったのは。


 アイツは俺たちより明らかに若いのにスキルを10個も持っていると言い、冒険者たちに馬鹿にされていた。だが、アイツは全く気にした様子もなく、討伐依頼を受けているのが見えた。



 (10個も持っているはずはないが、あんなに堂々としているんだ。きっと1個は持っているだろう)



 その考えをサラと共有した結果、アイツをパーティーに誘ってみることにした。


 ……何度かゼオンと一緒にパーティーで討伐依頼を受けて分かった。


 ゼオンは強い。俺たちは常にパワーレベリングをしてもらっているかのような状況だ。

 俺たちがゼオン抜きで同じ魔物たちと戦ったら間違いなく死んでいるだろう。


 俺はゼオンに少し劣等感を抱いていたのかもしれない。


 あっという間に一年が経ち、俺たちがギルドに行くと、ドラゴンが現れたという知らせを聞いた。


 迷いを断ち切るためにも、ゼオンのドラゴン討伐に参加するかどうかの質問に衝動のまま、返事をした。


 だが、後になってドラゴン討伐で死ぬかもしれないという考えが頭に浮かんできた。どうせなら後悔しないようにと、俺は以前から好きだったサラに告白した結果、恋人関係になることができた。

 そうして、俺はなおさら死ぬのが怖くなった。

 サラも同じような気持ちだったらしく、その日、俺たちは初めてだったが、恐怖を紛らわせるように体を重ねた。

 少しは、余裕ができた気がした。



「そうだな! この勢いで俺がドラゴンを倒してやるぜ!」


「魔物との戦闘がなくて楽だなー」



 わざと尊大な態度をとり、不安な気持ちを知られないようにしていた。

 しかし、ドラゴンを見てからはそんな軽口を叩く余裕もなくなり、殆ど無言で必死に戦った。それでも全く攻撃が通らず、ゼオンに守られなければ死んでいたという散々な結果に終わった。


 サラは俺たち三人が生き残れたことを素直に喜んでいたが、俺はさらにゼオンへの劣等感を募らせていた。



「『夜明けの君主』に入らないか? ウォルク、サラ」



 そんな時、ガルフさんがクランへと誘ってきた。



「俺みたいな、歳下のゼオンにも勝てないヤツをクランに入れても、きっといいことないですよ」


「お前は勘違いをしてるぞ、ウォルク」


「勘違い、ですか……?」


「ああ———お前は強いぜ」


「は……。ゼオンの戦いを見ましたよね? 俺は強くなんかないですよ……」


「それだぜ。何故、お前がゼオユーランと比べる必要があるんだ?」


「だって、アイツは俺の歳下で……」


「何を言っているんだ。お前がそんなことを言ったら、俺は、俺たちラキートの冒険者たちはどうなるんだ?」


「え? あっ……」


「分かったか? アイツと比べたらそこらのヤツなんか全員弱くなっちまうぜ。だから、ウォルク、お前はお前だ。アイツは気にするな。俺がお前の歳の時はお前より弱かったぜ。俺はゼオユーランとパーティーを組んでるお前らを誘ってんじゃねぇ……ウォルク、お前とサラをクランに誘ってんだ。」


「俺たちを……」



 あぁ……確かに俺は勘違いをしていたな。



「———分かりました。『夜明けの君主』に入れさせていただきます」


「おう、よろしくな、お前ら」


「「よろしくお願いします!」」



 俺とサラは話し合い、『夜明けの君主』のメンバーになると決めた。


 その時、俺は新たな一歩を踏み出したんだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る