第18話 哀れな盗賊たち


 翌朝、街を出る準備を終えると、チェックアウトしに行く。

 しかし、受付にいた従業員がノーラさんは体調不良で会えないと言っていたので、仕方なく俺は別れの言葉を残して宿を出た。

 宿の前でウォルクとサラと別れを惜しみながらも、最後に「また会おうぜ」と言い、一人で歩き始めた。


 その後、俺はラキートの街中の東門付近にいた。



「まさか、今話題の最年少Aランク冒険者、ゼオユーランさんに護衛をして頂けるとは! 私はとても運がいい!」



 ヒュライゼンに向かうのにあたり、今俺の前で感激している、商人のヤットさんに護衛を兼ねて同行させてもらうことにした。



「いやぁ〜、それにしても、ゼオユーランさんに護衛をしてもらえるのにあんな安くていいんですか?」


「俺もあちらに用がありましたからね」



 Aランクといえば冒険者の中でもほんの一握りの人間しかなれない。そもそも俺を除いて、この街に現役のAランク冒険者が二人もいるのは、ここが魔の森に近く、高位冒険者が活動しやすい場所だからである。


 Aランク冒険者への護衛依頼を出す時、用意する報酬は非常に高くなる。

 だが、今俺はお金に困ってないし、ヒュライゼンには早めに向かいたいので、格安で護衛を引き受けることにしたんだ。


 そんな感じで馬車に乗ったまま、身分証明をして門番に驚かれたが特に問題もなく、門をくぐる。



 時折、別の馬車とすれ違いながら、俺たちは街道を進んでいる。通過している草原地帯の周りには森林が広がっている。

 初めてラキートに向かった時と同じく変わり映えしない景色が続く。



「ゼオユーランさんが居れば、盗賊が出てきても安心ですね〜」


「盗賊なんて出てこない方がいいですがね」



 偶に御者台にいるヤットさんと話して退屈を紛らわしている。


 因みに、俺がCランクになる時、条件として最低一回は護衛依頼を受ける必要があったので、ウォルクとサラとパーティーで護衛をしたことがある。

 護衛中に盗賊が出てきたため、返り討ちにして人を殺したことがあるが、その時に人を斬る不快感はあったが、特に忌避感は抱かなかった。ウォルクは暫く気分が悪くなっていたが……


 まぁ、そんなわけで俺は盗賊が出てきても対処できる。


 ———なんて考えていたら、俺の《気配察知》と《魔力感知》に反応があった。



 (森の中から此方を見ているのは三人か……十中八九、盗賊だろうな)


「ヤットさん、どうやら盗賊が出たみたいです」


「えっ……本当ですか!?」



 俺が居て安心だと言っていても、本当に盗賊が居ると聞き、心配そうな顔をするヤットさん。



「大丈夫ですよ、そのまま進んで下さい」



 俺が御者台のヤットさんの隣に移動して少し経つと、目の前にいかにも盗賊っぽい装備の男三人が立ちはだかる。



「おい、通行料身ぐるみ全部だ。寄越せ」


「大人しく渡した方が身のためだぞ? この馬車にお前ら二人しか居ないのは分かってるんだぞ?」


「ギャハハハッ! そんなこと言ってないで早く殺しちまいやしょうぜ、アニキ!」



 三人が下卑た笑みを浮かべて脅してくる。



「貴方たちは盗賊ってことでいいんですか?」


「ハッ、ガキが……そうだ、殺されたくなければ———」



 ここで、話している盗賊の首が飛んだ。



「なッ! アニキ!」


「ガキ、いつの間にここに———」



 そして俺が再び剣を振るうと首がもう一つ地面に転がる。俺のレベルで本気で動くと、常人には気付くことすら出来ない。



「……誰を、殺すって?」


「ヒッ、ヒィィイイイッ!」



 残った男は怯えて腰が抜ける。



「黙れ」


「……っ!」


 (手持ちの荷物が少ないようだから、近くに拠点があるだろう)


「他の盗賊の居場所を吐くなら、見逃してやる」


「……」


「ああ……有益な情報なら喋っていいぞ」


「わ、分かったっ。お、教える、ます……場所はし、知ってますが、説明が難しい、です」


「ここから近いか?」


「は、はい。近いです」


「分かった。なら案内しろ……ヤットさんは、馬車に居てください。結界で囲うので」


「あっ……ぼ、僕か」


「待っていて下さい……すぐ戻ってきます」


「わ、分かりました」



 ヤットさんが馬車を街道脇に移動させたのを確認すると、俺はクルトさんが使っていた地魔法の土壁発動時の魔力の流れを真似て練習した、光魔法の結界で馬車を囲う。


 その後、俺は残った盗賊に案内させ、森の中を進んでいく。

 やがて、洞窟の穴が見えてきた。



「あ、あそこです」


「ああ、上出来だ。そして、さよならだ」



 俺は洞窟に人が居るのを感知すると、盗賊の首を刎ねる。

 ああいうヤツはどうせ同じことを繰り返すから、殺しておくに限る。



「おいおい、お前ら人を攫ってきたのはいいが、男じゃねぇか!」


「すみやせん、お頭……でも、コイツいい物ばかり持ってやすぜ」



 光魔法で光を屈折させて姿を消し、洞窟内の盗賊たちの様子を見る。

 因みに、この隠密法は光魔法が超級になってから出来るようになった。



「くっ、俺に何かあったら、ストゥード新聞社が黙ってないぞ!」


「ハッ、何言ってんだお前。新聞社なんか誰が怖がるんだよ!」


「はははっ、脅すならもっとマシなこと言え、よっ!!」


「ガハッ———」



 そこでは、四人の盗賊が居て、一人の男が縛られて暴行を受けていた。



「おいおい、そんなヤツでも奴隷として売れるんだから、なるべく傷を付けるなよ」


「そうですね、お頭……え———」



 捕まっている男に近い三人組の首がほぼ同時に空に舞う。



「……っ、なにッ! 何者だ、どこにいるッ!」



 一番奥に居て、お頭と呼ばれていた男が腰に携えている剣を抜く。



「死ね」



 そんな言葉を聞いたかと思うと、男の視界はズレていた。





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