第17話
現在、俺は『夜明けの君主』の拠点前まで来ていた。
(Aランククランなだけあってデカいな……)
『夜明けの君主』は少人数のクランなのだが、その建物はこの街のギルドの2/3ほどの大きさで、三階建てであった。
中に入ると、受付と思われる場所に明らかに戦闘職の出で立ちではない女性がいた。
(少人数クランなのに受付嬢まで雇ってんのかよ!?)
その事実に驚きながら、受付の前に立つ。
「ん〜? ボク、誰の依頼を持ってきたのかな?」
「いえ、ガルフさんに会いにきました」
「うーん、うちのクランマスターは忙しいからねぇ……紹介状とか無いの?」
「えー、紹介状なんて無いですよ?」
「それだと厳しいかなぁ……ごめんね?」
「……それなら、ギルドでゼオユーランが待っているとだけでもお伝え下さい」
「……ゼオユーラン? どこかで聞いたことある気が……?」
受付嬢が何か呟いている中、俺は外へ出ようと一歩目を踏み出そうとした。
「……ゼオユーランか?」
「ん? あっ、グラーンさんですか! 調子はどうですか?」
「お陰様でいいぞ。あの時はありがとう……今日は何しに来たんだ?」
「ガルフさんに話をしにきたんですけど……やっぱり忙しいですよね……?」
「いや、多分大丈夫だ。付いて来い。」
俺は階段を上がっていくグラーンさんの背中を追いかける。
「あの無口なグラーンさんが自分から話しかけるなんて……ゼオユーラン……あっ、まさか……Aランクになったっていう……」
二階に上がる直前、受付嬢の驚く声が聞こえてきた気がした。
コンコンッ
「グラーンだ」
「……入っていいぞ」
部屋の中から野太い声がした。
中に入ると、部屋の中央奥で書類が積み重なっている机の前に座ったガルフが此方に視線を向けていた。
「ゼオユーランを連れてきた」
「おー。ゼオユーラン、来たのか」
「はい。こんにちは、ガルフさん」
「俺は出るぞ」
「分かった。案内、ご苦労様」
グラーンは部屋から退出していった。
「座ってくれ。ここは執務室———俺の私室みたいなもんだからゆっくりしていいぞ」
「では、遠慮なく」
俺は部屋の中央のテーブルの前のソファーに座る。すると、ガルフさんも立ち上がり移動して、俺の正面の席に着いた。
「———何の用事で来たんだ?」
「ガルフさんが予想していた通りのことですよ」
「あぁ、やっぱりラキートを出るんだな……」
「はい」
俺は即答する。
「ラキートは魔の森があるからな……他と比べて、高ランク冒険者にとっては過ごしやすい街なんだがな」
「ここでの生活は気に入ってますが、ずっといる気は元々無かったですし……」
「まぁ、人それぞれだからな」
ガルフさんは納得した様子で腕を組みながら、首を振り、話を続ける。
「どこに行くんだ?」
「依頼で東にある街、ヒュライゼンへと向かう予定です」
「そうか……久しぶりに二人で食いに行こう。今日は俺が奢るぜ!」
その後、俺たちは夕食を共にしガルフさんと別れた後、宿へと戻ってきた……が、俺はいつも泊まっている部屋の床で正座していた。
俺は宿に帰ってきて、受付にノーラさんがいるのが見えたので、明日去ることを伝えたらそのまま部屋に追い込まれたんだ。
それから、ノーラさんの有無を言わせぬ迫力で何となく床に屈した俺であった……
「なんで私に相談もなく、明日出ていくことになってるんですかっ!」
「それは……」
「一年の付き合いなんですから、一言くらいあっても良かったじゃないですかっ!」
「そうですね……」
何故か激しい剣幕で捲し立てられる。
「———で、何故なんですか?」
暫くすると、ようやく発言権を与えられる。
「あ、あぁ……冒険者らしく生きたいから?」
「冒険者らしく、とは?」
「ただランクを上げるのも良かったけど、もうAランクになったし……俺の理想の冒険者像は一定の場所に留まって冒険するのとは何か違うんだよ」
「……というのは?」
ここは正直に言う場面だと思ったので、誠実に答える。
「こういうのは理屈じゃないんだよ。だから、理由は分からない」
「そうですか……」
暫く沈黙が続く。
「———ずっとこの宿に居てはくれないんですか?」
「……? すみません……」
ノーラさんは俯くと表情を見せずに後ろへと振り返り、
「分かり、ました……では、また明日……」
と、言って部屋から出ていった。
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