第13話
「ガルフにこれをッ!」
そう言ってクルトがポーションを近くの冒険者に渡すと、その冒険者が慌てながらもガルフの方へと向かう。
再びドラゴンの方に意識を向けると、グラーンとハンクが長剣で斬りつけようとするが、ドラゴンの猛攻により回避に専念するしかない状況であるのが見えた。
「あの二人が危ない! 俺たちもヤツに攻撃するぞ!」
「お、おう!」
俺とウォルクを含む冒険者たちが様々な武器で攻撃を仕掛け、魔法師たちも後方から攻撃魔法を放つ。
だが、その鱗を突破することは叶わない。
やはり魔法師たちが最初、ドラゴンの翼を傷つけることができたのは、ドラゴンが巣に帰ってきて安心しきった瞬間だったからだろう。
ドラゴンの周りで武器を振るっている大勢の冒険者たちにドラゴンの尻尾が迫る———
「うぉおおおおお! ———ガッ!」
冒険者二人が盾で同時に尻尾を受けるが、二人とも後ろに飛ばされてしまう。
「なッ……あの二人が一撃で!?」
「そ、そんな……ッ」
タンクとして有名な『深赤の霧』所属の二人組がやられたことで多くの冒険者たちが呆然とする。———ドラゴンはその隙を逃さない。
一気に冒険者たちが蹴散らされる。それは俺たちも例外ではない。
ドラゴンの尻尾が俺とウォルクに迫る。
「伏せろッ!!」
俺がウォルクにそう言うと、何とか二人で前足を躱す。
その時、咄嗟に剣を上に持っていくと、肉を斬った感覚がした。
一度下がってドラゴンの尻尾を見ると、血が出ているのが見えた。
(———あっ、ヤツの尻尾の裏に鱗はない……なんで気が付かなかったんだ!)
「尻尾の裏、胴体の地面に近い側の鱗のない部分を狙って下さい!!」
俺は全体に指示を出す。
俺は一応Bランク冒険者だからか、皆んなが素直に指示を聞き入れた。
「なるほどな、分かったぜ!!」
皮肉にも、他の冒険者が蹴散らされている間に余裕ができたハンクが逸早く実践する。
「オラオラオラァッ!! いけるぜこりゃあ!」
『ぐ、グギャーーーー』
続いて他の冒険者たちが同じことをすると、ドラゴンが悲鳴を上げる。
———このままいけば倒せると多くの人が思った時
『グルァァアアアアッッ!!』
ドラゴンが咆哮を上げ、大きく息を吸い始める。
(ま、まずい!)
俺は反射で水魔法を使い、ウォルクと自分の周りに水の壁を展開する。
その水の壁は無差別に放たれたブレスによって一瞬で蒸発して爆発が起きる。
自分のブレスなだけあってか、将又火に対する耐性が高いのか、自身の身体にもブレスが当たったが、ダメージはないようだ。
俺とウォルクは少し飛ばされるものの、何とか生き残る。俺は一年間魔物と戦ってきて、36レベルに達しているため頑丈だが、ウォルクは重症で再び戦うのは不可能だと判断し、時間がないので光魔法で自分とウォルクに応急処置をし、ウォルクをサラに預けてから戦線に戻る。
そこでは、ポーションである程度は回復したガルフが大剣で受け流しながらドラゴンの攻撃を一人で耐えていた。そして、大火傷を負った、グラーンやハンクを含む冒険者たちがドラゴンの周囲に倒れ伏していた。中には、身体が炭化して明らかに死亡した者もいた……
「加勢します!!」
「おお! ゼオユーラン、助かるぜ!!」
俺が加わったのはいいが、ドラゴンは学習したのか鱗がない部位を俺たちから庇いながら攻撃してくるようになり、こちらからドラゴンを傷つけるのが困難になってしまった。
(だが、このままだと勝つ未来は見えねぇな。俺も怪我が完治してねぇし、撤退しようにもコイツが逃してくれるわけねぇしな……畜生、トカゲ野郎め)
ガルフは心の中でそう悪態を吐く。
「ガルフさん! 試したいことがあるので、少しの間ドラゴンの注意を引きつけて下さい!」
俺はガルフさんにそう伝える。
ガルフさんの了承の返事を受け取ると、俺はドラゴンに肉薄して魔法を発動しながら剣で胴体を斬りつける。
『グギャーーーーッッ!!』
ドラゴンが胴体を深く斬られ、絶叫する。
俺がどうやって硬い鱗の防御力を破ったのかというと、剣に風魔法を纏わせたのである。
そんなに攻撃力が上がるなら皆んなやってるだろって?
俺は《成長促進》のお陰で剣術、風魔法、魔力操作のスキルを持ってるからこんな芸当が出来るってわけだ。名付けるなら魔剣術かな?
そんな感じで、ガルフさんが俺への攻撃を防いでくれている間に何度も胴体を斬りつけていると、ドラゴンがの血が周囲に散らばる。それを他の冒険者たちは固唾を呑んで見守る。
魔剣術に切り替えてから約1分後、遂にヤツはその場で倒れた。
あ、ドラゴンの周りに倒れていた重傷者たちは既に風魔法を使える魔法師たちが転がして回収しているよ。
「「「「「———うおおおおおおおおッッ」」」」」
ドラゴンが倒れたことで、冒険者たちから歓声が上がる。
「ゼオユーラン、流石だな。もうお前には勝てないぜ……」
「いやいや、ガルフさんがアイツの注意を引いてくれたから倒せたんですよ!」
実際、俺だけじゃ勝てなかったしな。
俺はそんな会話をしてから、重傷者たちの元へ向かう。
「ポーションが足りねぇっ! 金なら払うから、誰か持ってないか!!」
「こっちもポーションが尽きた! 街に戻って教会に行くしかない!」
どうやら、重傷者たちを回復する手段がないようで、未だに緊迫した雰囲気が漂っている。
「大丈夫です! 俺は光魔法を使えます!」
「ゼオユーランさん、ホントですかい!?」
ドラゴンを倒したおかげか、なんか歳上の冒険者に敬語で話される……
俺は返事の代わりに、実際に近くの冒険者に治癒を施す。
淡い光が重傷者を包み込み、10秒後には傷が回復していた。
「おおっ!」
「こいつは凄ぇや!」
「聖人様……」
次々と重傷者を回復させていると、感嘆の声とともに崇拝するような声までも聴こえてくる。
聖女みたいなノリで聖人はやめろよっ!
因みに、グラーンを治療した時にはっきりと分かったが、どうやら光魔法が上級でも古傷までは治せないらしい。
俺は生きている者は治せても、死んだ者はどうしようもない。今回の討伐では戦士が15人死んだそうだ……
「ゼオン、やっぱ俺とは違ってお前は凄いよ」
「ん?」
「いや、何でもない……」
ウォルクを治療した時、あまり活躍出来なかったからか、戦いの前とは打って変わって自信喪失していたが、俺は励ます言葉が出てこなかった。
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