第12話 ドラゴン
冒険者の大規模な集団は、魔の森を行進していた。
先頭では、Cランクの冒険者たちが付近の魔物を倒してくれているため、後続の俺たちを含む冒険者たちは消耗なく進めている。
「魔物との戦闘がなくて楽だなー」
「油断するなよ、ウォルク。これから俺たちはドラゴンと戦うんだからさ」
「分かってるって」
「……事前に聞いた情報によると、距離的にそろそろ例の大穴に到着するはずだ」
「おっ、ちょうど着いたみたいだな」
前にいる冒険者から、目的地に到着したことを知らされた。
この周辺に魔物はいない。なぜなら、既にドラゴンの巣に近く、その縄張りとなっているからだ。
目的地到着の報告を受けて、ガルフさんがこの集団の先頭付近に移動する。
「よぅし、ここからはギルマスの指示にあったとおり、俺が指揮をとる……異存はないな?」
少し抑えた声量でガルフさんが言うと、冒険者たちが無言で頷く。
「今、斥候に大穴を偵察させたが、ドラゴンは不在のようだ……これから俺たちはヤツが現れるまでここで待機する。戦闘時、ヤツを飛べなくするのが最優先だ。打ち合わせ通り、ヤツがそこの大穴に入ったら速やかに周辺に集まって魔法師17名は一斉に魔法を打ち込め」
ガルフが、離れた位置にある大穴を指差しながら言う。
俺は寝てる時ににやればいいじゃんと思ったんだが、ドラゴンは睡眠時に危機察知能力が格段に上がる種族特性があるらしい。不意打ちは許してくれないようだ。
あ、因みに、魔法師の17名にはサラとクルトさんも入っている。
「その後、ヤツが大穴から上がってくるまでに魔法使いは戦士たちの後ろに下がり、後方支援に切り替えろ。戦士はヤツのブレスに気を付け、隙を見て攻撃しろ……分かったな?」
ガルフが話し終え、冒険者たちが再び了承の意味で頷こうとしたその時
———俺たちの頭上から影が射した。
「ッ……!!」
その場の多くの者が声にならない悲鳴のようなものを上げた。
その影を形成するのは———勿論、件のドラゴンだ。
俺たちがはっきりと視認できる場所に、影が降り立つ。
ドラゴンは翼をたたむと、ふと周りを見渡す。
「「「「「……」」」」」
俺たちが隠れている森の中に目線がいくが、幸いにしてほとんどの人がその迫力に圧倒されて身体が硬直したことで、バレずにすんだ。
程なくして、ドラゴンは翼を広げて大穴へと降りていった。
「おい、お前ら、行くぞッ! 魔法師をヤツの巣まで連れて行けッ!!」
ドラゴンの雰囲気に呑まれなかったうちの一人、ガルフが作戦実行の音頭をとる。
すると、冒険者たちが我に返って自分の役目を果たし始める。
「よし、サラをあそこまで送るぞ、ウォルク」
「……っ! あぁ、分かった!」
「う、うん、よろしくね」
俺の言葉に、他の人と同じくウォルクとサラがはっと気づかされると、大穴に向かって走り出した。
静かに大穴がある地上の一方向に移動を終えると、魔法師たちの魔力を感じる。
「全員揃ったな……翼を狙え———今だッ! 放てッ!!」
多種多様な魔法がドラゴンを狙って大穴へと撃ち込まれる。
『ガァアアアアアアッッ』
それを受けて、耳を劈くような悲鳴が響き渡る。
その間、魔法師はその悲鳴に恐怖を覚えながらも後方へと下がっていく。
「よし、構えろッ!」
ガルフが指示を飛ばす。
『グゥルルルル』
ドラゴンが大穴から大きな前足を使って這い上がってくると、唸り声を上げる。
その翼はボロボロになっている。
(で、デカい)
口には出さなくとも、皆んなが思ったであろう。自分たちと比べて、圧倒的な大きさだった。
そして、その思考が判断を遅らせた。
「ブレスが来るぞ!!」
気付いたときには、ドラゴンが首を後ろに傾けて既にブレスの準備を終えていた。
ゴォオオオオッ!!
圧倒的な熱量が固まっている俺たち冒険者に襲い掛かる。
だが、音が収まらない中で、冒険者たちが燃やされることは無かった。
「くっ、これは強力ですね……」
Aランク冒険者のクルトが地魔法で前方に壁を構築し、ドラゴンの炎の息を防いでいたからだ。
「流石です、クルトさん!」
周りの冒険者たちが感嘆の声を漏らす。
「……ですが、このまま防ぎ続けるのは難しいですよ———えっ?」
脂汗をかいたクルトが土壁を維持するのが厳しいと伝えた直後、驚きの声を上げる。
「俺も手伝います、クルトさん」
なぜなら、ゼオンが土壁の魔力に干渉したおかげで、維持が楽になったからだ。
「……ありがとうございます、ゼオユーランくん」
(ゼオユーランは剣で戦うと聞いていたんだが……)
普通の人は、剣術か魔法のどちらも実践レベルまでスキルを得るのは難しいが、ゼオンはここ一年、《成長促進》の効果でさらにスキルを強くし続けた結果、魔法も十分に扱えるようになった。
炎の勢いが収まると、自慢のブレスを受けて倒れていない俺たちを不快に思ったのか、ドラゴンが一際大きな声を上げる———だが、ブレスが止まってすぐに動き出したガルフとグラーン、そして『深赤の霧』のクランマスターのハンクは既にドラゴンとの間合いを詰めていた。
刹那、三本の剣閃が空中を走り、ドラゴンの胴体に向かう。
キィィイン
「は?」
誰が発したのか分からないが、間抜けな声が漏れる。
ドラゴンの鱗は高ランク冒険者の攻撃すら完全に防いで———否、ガルフの大剣は鱗を破り、胴体に食い込んでいた。
「クッソ、抜けねえ!!」
剣を弾かれた二人と違い、ガルフは自身の得物がドラゴンの強靭な身体に挟まれてしまったようだ。
「ガルフさんッ!!」
「なん———グハッ」
俺の警告への返事をする前にガルフさんがドラゴンの前足を食らってしまい、勢いよく飛ばされていくつかの木々を倒していくのが見える。何とか大剣はその手に握っているが、殴打された場所からは多量の血を流している———
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