第11話
「これだな……現時点では、Aランククラン『夜明けの君主』から3人、Cランククラン『深赤の霧』から15人、パーティーやソロでの参加は合わせて28人だ。けど、この人数からはそんなに増えないと思うぞ」
書類漁りを終えたおっさんがそう告げる。
「どうしてですか?」
「お前らはそんなに依頼を選り好みしないだろ? それで依頼の取り合いをしないお前らは人が少ない時間を狙って、いつもギルドに来る時間が少し遅いからよぉ……他の冒険者たちは既に討伐依頼の参加表明をして、準備を始めている頃だと思ったんだよ」
「なるほど……というかよく俺たちのこと見てますね」
「おうよ、なんたってお前らは期待の冒険者だからな! ……それで、お前ら三人、ドラゴン討伐に参加するんだったな?」
「あ、聞いてたんですね……参加しますよ」
「了解だ、依頼を受注したぞ。お前らは準備を始めろ。五時間後に南門に集合だ」
「分かりました」
俺たちは特殊な魔道具やポーションは使わないから特に変わった準備は必要ない。そのため、空いた時間でお世話になっている人たちへ俺たちの状況を教えに行った。
まぁ、俺たちの知り合いは冒険者以外には孤児院の人たちとノーラさんぐらいしかいないんだけど……
♢
ギルドを出てから約四時間後、俺たち三人は南門の前に集まっていた。
「うわぁ……凄い人数だねぇ」
サラが思わず感嘆の声を漏らす。
まぁそれも無理ないか……
今、この南門の前には俺たちも含めて50人を超える人が武装状態で武器の手入れなどを行っている。
辺りの空気は張り詰めていて、自然と身が引き締まるような思いがする。
「このピリピリした空気、慣れないなぁ……」
「それだけ、皆んなドラゴン討伐が簡単なことじゃないと分かってるんだろうよ」
「そりゃあな。この街で最高位の冒険者の俺でAランクだが、ドラゴンは討伐ランクがSの強敵だからな」
「ハイオークでさえBランクだしなぁ……ってガルフさん!?」
「そんなに驚くなよ、ウォルク。ガルフさんがいるのはいつものことだろ?」
例のごとく俺たちの会話に入ってきたのはガルフさんだ。
今日のガルフさんは大剣を背に装備しているうえ、その巨漢も相まって威圧感のある風貌を備えている。
「ゼオンが優秀だからだろ……」
ウォルクが呆れたような顔を向けてくる。
「いや、俺はウォルク、お前やサラの腕も買ってんだぜ?」
「え? 私たちも、ですか?」
「他のヤツらもお前らを高く評価しているはずだぜ。お前らはゼオンと一緒にいるから自覚してねぇんだろうが、もうCランク冒険者なんだぞ? 注目されてるに決まってるだろ?」
「で、でも俺たち一度も勧誘されたことなんて……」
「それはガルフが君たちと親しいから、他の人が遠慮しているんだと思うよ」
ここで、聞き慣れない声が響いた。
「え、えっと……?」
「あぁ、これは失礼。まだ名乗っていませんでしたね。僕は『夜明けの君主』の副マスターのクルトと申します。初めまして」
「は、初めまして」
「続けますが、君たちは十分に優秀な実績を残していますから安心していい、ということですよ。それこそ、引きこもることが多い僕がいくらか耳にするくらいには」
「ありがとうございます……?」
「おいおいクルト、初対面でそんなに捲し立てるなよ。ウォルクたちが困ってるだろ」
「なに、ガルフが目をつけている彼らの卑下するような態度が気になったものでね」
そんな調子で俺たちの前に現れたのは、ここラキートの街でガルフさんに加えてもう一人しかいないAランク冒険者で、魔法師のクルトさんだ。
本人の言にもあったとおり、一日のほとんどをクランの拠点で過ごしているらしく、俺たちが会うのは初めてだ。
「そういえば、グラーンのヤツはどこにいるんだ?」
「あぁ、彼ならあそこで戦いの準備をしてますよ」
そう言ってクルトさんが指差す方向に俺たちの視線が向かう。
そこでは、歴戦の猛者といった言葉が良く似合う、全身に無数の傷を持つ獣人が装備品の確認を行っていた。
彼は俺たちと目が合うと、軽く会釈してから再び作業へと戻った。
「すまんな。アイツは無口なヤツなんだ」
「いえいえ、全然気にしてませんよ」
その後、ガルフさんとクルトさんはクランメンバーの獣人の元へと帰って行き、少しすると、俺たち冒険者から見て魔の森の方向に一人の男が立った。
「諸君、今日はよく集まってくれた! 知っている者もいるだろうが、俺は冒険者ギルド、ラキート支部のギルドマスター、ロッカスだ!」
よく通る声が冒険者たちを振り向かせる。強面の多い冒険者たちは依然として威圧感を纏っているが、彼は臆さずに話を続ける。
「今日、お前らにはドラゴン討伐という使命がある。危険もあるだろう。だが、俺から言えるのはただ一つ! この討伐に貢献した者にはギルドからの多大な報酬を約束する!! 勿論、ギルドからの報酬だけじゃねえ……名声も手にすることが出来るぞ!!」
「「「「「オオオオオオオオオオオオッッ!!!」」」」」
冒険者たちの熱気が辺り一帯へと広がる。
「随分と士気か上がったな……」
「そうだな! この勢いで俺がドラゴンを倒してやるぜ!」
「……ウォルク、無理はしちゃ駄目だよ?」
サラが心配そうにウォルクに注意する。
ウォルクは少し抜けたところがあるからな……冒険者たちの熱気に当てられて気分が高揚しすぎている感は否めない。無茶はしないようにフォローしないとな……かといってわざわざ気分を落ち込ませるのも良くないから、戦闘中はいつも以上に気を配るとしよう……
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