第2話 家族


「えっ!?」



 母が驚きの声を上げる。



「おおー、いいんじゃないか?」



 ここで最初に返答したのはカラードだった。

 父は昔、冒険者だったらしいからな。



「いいなー、それなら俺と一緒に冒険者になろうぜ!」


「お前はストーレック家に仕えるんだ」


「ちぇっ……」



 ストーレック家というのは、俺が今住んでいるオルトフルを領都とする、王国西部地帯を治める伯爵家だ。



「……どうして冒険者になりたいって思ったの?」



 幾許か落ち着いた様子の母がそう尋ねてくる。



「まぁ、別に冒険者にこだわってるんじゃないんだけど、自由気ままに戦って、お金を稼いで生きたいなーって思ってる」



 結局のところ、冒険者になりたいのは前世でネット小説を読んで楽しそうだなぁと思ったからなんだけどね。



「そういえば、今のレベルはいくつなんだ?」



 トールが尋ねてくる。



「うーん、説明するより……とにかく見てみてよ———ステータス」



 他人にも見えるように意識しながら呟くと、俺の正面に半透明のパネルが現れる。



~~~~~


 ゼオユーラン・ルクーツド(男)

 種族 : 人間  称号 : なし

 

 Lv : 27

 魔力 : 1320/1320


 スキル

  剣術(中級)

  格闘術(初級)

  気配察知(初級)

  魔力感知(中級)

  魔力操作(中級)

  火魔法(初級)

  水魔法(初級)

  地魔法(中級)

  風魔法(初級)

  光魔法(上級)


 固有スキル

  時空間魔法

  成長促進


~~~~~



「光魔法が上級だと! ……高位神官でも目指してんのか!?」



 トールはそう言うが、この世界で魔法を覚えるにはイメージが大切だというのが今まで鍛錬してきて気付いた。

 つまるところ、光魔法は細胞を修復するというイメージを持ったり、人体の構造を思い浮かべたりしていたら習得できた。


 この世界では、光魔法を扱う神官は、基本的に教会に所属している———というか引き抜かれている———んだが、そこで信仰を深めることで初めて中級以上の光魔法を使えると言われている。



「……時空間魔法ってなんだ??」



 固有スキルの中でも過去に持っている人がいて、一般に知られたものもあるし、知られていないものもある。

 俺のは後者のようだ。



「試したことはあるんだけど、魔力が足りなくて魔法を発動出来ないんだ」



 《時空間魔法》なんて明らかに強そうなのに使えないなんてなぁ……



「1320も魔力があっても足りないのか……」



 魔力は生まれつき決まっていて、不変だとされているが、幼い頃からステータスをこまめに覗いてきた俺はそれが間違いであることを知っている。

 魔力を使いきると強烈な疲労感と眠気に襲われるんだが、目を覚ましたときにステータスを確認すると、魔力数値が1〜2パーセントくらい増えているのが確認できた。

 2歳になったあたりから、毎日何度も魔力を使い切っていたんだが、5歳くらいで魔力が増えなくなってしまった。


 ……幼い頃は成長しやすいって言うしな。



「というか、レベル高すぎだろ! 俺は3歳年上なのにまだ14だぞ!」



 レベルが高いのと、スキルの数が多いのは、固有スキルの《成長促進》のおかげだろうな……


 因みに、ステータスボードを操作して、称号の《異界へと渡りし者》っていうやつは隠蔽している。どうやら、称号だけは隠せるみたいなんだ。



「それだけレベルが高いなら、冒険者として十分やっていけそうね……」



 今まで黙っていた母が話す。



「そうだよ、もう中堅と言われるCランク冒険者並みのレベルだし」



 一般的に、冒険者ランクに対するレベルはこんな感じだと言われている。



Sランク : 人外

Aランク : 35〜

Bランク : 31〜35

Cランク : 25〜30

Dランク : 16〜25

Eランク : 10〜15

Fランク : 〜9



 素行不良だったり、ランク昇格試験を受けなかったりしてランクが低い人も一定数いるらしいがな。

 あ、父はBランク冒険者だったらしい。ここの領主を助けたことがあるとかで一代限りだけど準男爵として家名を貰って、ストーレック伯爵家の騎士をやってる。

 今はいいけど、父が死んだら爵位は消滅するので、間違って家名を名乗らないよう気を付けないといけない。



「俺はレベルに頼って危険な真似をしたりせずに、ランクに見合った依頼を受けるし、心配要らないよ」



 続けて、冒険者になる許可を貰うため、母の後顧の憂いを断つように言った。



「そうね、これまで手が掛からなかったあなたがそこまで言うなら、やってみなさい」


「……っ! ありがとう!」



 今の俺の顔はだらしなくニヤけていると思う。



「ただし条件があります」



 母が「はぁ」とため息を吐きながら言う。

 俺は何を言われるか身構える。



「ゼオンは何があっても私達の子なんだから、嫌になったらいつでも会いにきなさい」



 母が優しい声で予想の斜め上のことを言ったため、暫く反応することができなかった。



「そうだぞ、偶には連絡でもくれないと泣くぞ」


「いい歳した大人が何言ってんだ。でもゼオン、手紙はくれよ」



 俺は前世で過労で死んでこの世界に生まれ変わってから、家族を失うのが怖くて深く関わりを持たないよう、家族と少し距離を置いていた。だけど、間違いなく俺はこの人達の家族なんだな……



「うん、勿論だよ!」



 俺は満面の笑みを浮かべて言った。



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