第3話
朝練のあとは、クラスに戻って授業を受ける。一応進学校なので、勉強もそれなりにやっておかないといけない。赤点は避けたいとこだけど、どーしても苦手な科目は仕方ないかもしれないと最近は思い始めた。
だって物理とかわからない。もう何言ってるのかさっぱりだ。この公式に当てはめる数字を出すためにこっちの公式を……ってなんなのそれ。そんなに覚えられない。
2年生になったら、理科も選択科目になるから、物理とはオサラバできる。それまでをどうくぐり抜けるかが課題だ……。
「いや、普通に目の前の問題といたほうが早くない?」
「ゆかりちゃん、古文を前にしてそんなこと言える?」
「……無難にくぐり抜ける方法考えたほうが簡単だね」
同じクラスのゆかりちゃんとお弁当を食べながら、そんなやり取りをした。ゆかりちゃんは理系科目が得意なんだよね。試験前にはヤマはってもらお。
「あー早く放課後にならないかなぁ」
ゆかりちゃんがしみじみと呟いた。ほんっと同感。あの先輩たちと一緒に練習はツライけど、楽器吹くのは好きだからねぇ。
基本的に楽器ごとに集まって練習するので、クラリネットは榊先輩、本村先輩、私の3人のみである。3年生の先輩は受験勉強があるから、今はそんなに練習には来ない。
私が榊先輩たちに睨まれているのも、もとをたどれば、この3年の先輩たちと、榊先輩たちの仲が悪いのが原因だ。
3年の先輩は、榊先輩たちへの当てつけのために、新1年生の私たちをめちゃくちゃかわいがった。それが面白くない榊先輩たちは、当然私たちに当たり散らす。それで、二人もクラブやめちゃった子がいたほどだ。
正直言えば、私もやめようか迷ったんだよね。音楽は好きだけど、つらい思いをしてまで続けるものでもないし、ものすんごく迷った。
今も迷ってる。やめる踏ん切りがつかないから続けてるところもあるし、限界越えたらやめるかもしれない。
今はまだ、みんなと一緒にいてがんばれてるから、まだやめない。
そんなところかな。
「あやは今日も居残り練習やるの?」
「一応そのつもり」
クラブの終了が6時半で、完全下校が8時になっている。ということは、その時間まで練習できるってことだ。もちろん、先生の許可が必要だけど。一人では居残り練習をしないことという条件で、先生は許可してくれた。とはいえ、7時半くらいには帰るけどね。
「今日はあたし残れないけど、だいじょぶ?」
「うん、なおちゃんが付き合ってくれるから」
確認はしてないけど、オレも特訓する抜け駆けは許さない!とか言ってたから、だいじょぶでしょ。
私の返答に、ゆかりちゃんはすこぅし困ったような顔をした。
「吉田くんとふたりでいると、変な噂されちゃうよ?」
「うわさって」
「こないだ聞かれちゃったんだよね。あやと吉田くん付き合ってるのー?って」
「ないない」
「うん、だから付き合ってないよって答えたけど、朝練も居残り練も一緒だと、そう思われるんじゃない?」
そういうものなの? 同じクラブなんだから一緒なのは仕方ないと思うけど。
「あれで吉田くんってモテるからさー、気をつけたほうがいいよ」
なるほどー。私があまり興味ないから気にしてなかったけど、そういうものなのか。
考えてみれば、私が榊先輩たちにイビられてる理由の一つも、お気に入りのカワイイ後輩であるなおちゃんと私が仲がいいことだもんね。なおちゃんを狙ってる同級生からしてみれば、私は邪魔者かもしれない。わぉ、少女漫画みたい。私、いじめられちゃう?
「あや」
「ん、なぁに?」
「ちょっとおもしろがってるでしょ」
「バレた? ……少女漫画ばりの展開があるかもしれないとか想像したら、楽しくなっちゃった」
実際には、そんなことはないだろうけどね。校舎裏に呼び出されたりとかー、他の男の子と仲がいいとかってなおちゃんに吹き込まれたりとかー、めちゃくちゃ楽しそう!
でもまぁ、ゆかりちゃんは真剣に私を心配してくれているので、緩みがちになる頬をキリリと頑張って引き締めた。
「大丈夫。気をつけるね」
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