第17話 夜明けを告げる

 最初だけ三人称です。

----------------------------


 深淵竜の巣周辺では、かつて無いほどの揺れが起きていた。


「何が起きているんだ!?」


「えぇぇぇん! ママぁぁぁぁ、怖いよぉぉぉ!」


「大丈夫よ! きっとただの地震だから!」


「おい! 深淵竜の巣ダンジョンが揺れてるぞ!」


「何!? もしかしてスタンピードか!?」


「おい! 騎士団に連絡しろ!」


 揺れの原因がダンジョンだと知ると、住民達はスタンピードを恐れて騎士団に連絡をしていた。


 しかし結局騎士団が何かをすることはない。


 何故なら1人の少年が全てを終わらせるからだ。


 そしてこれから起きるその出来事を世界中の人間は、生涯忘れることはないだろう。


 その時が来るまであと7分。






☆☆☆






 ダンジョン内では、刀と拳がぶつかり合う音がずっと響いていた。


「くそッ! しぶとい奴だな!」


「ふんッ! こんな所で諦める奴は、魔王軍幹部などなっていない!」


 俺とシャラグナは先程までとは形勢が変わっている。


 俺がひたすら攻撃をし、シャラグナがひたすら回避と防御をしていた。


 流石に俺よりも戦闘経験が圧倒的に多いな……。


 そのせいでなかなか捉えられない。


 何か一手があれば……。


 俺は戦いながら必死に考える。


「考えている時間なんてあるのか!? 【崩壊】ッッ!!」


「ッッ!!??」


 シャラグナがそう唱えると、俺の目の前の空間が崩壊していく。


 俺は【加速】を使って距離を取って俺の元いた場所を見ると、そこには空間の裂け目があった。


「っ!? 何でもありだな、この野郎ッ!」


「お前に言われたくないわッッ!!」


 そう言って俺にパンチしてきた。


 まぁ確かにこんなチート武器を使っているやつに言われたくはないか。


 俺は体力がずっと回復している為、大したダメージは負っていないが、それは向こうも同じだ。


 魔族にも自動回復スキルがあるため、中々倒すことができない。


 その為、時間だけが過ぎている。


 くそッ、時間をかけられると不利になるのは俺だ。


 何としてでも早く終わらせないと……。


 待てよ? そう言えばゲームの時によくわからないことを聞いたな。


 確か闇夜と白夜は2つで1つだったか?


 正直2つ同時に使うことかと思ったけど、今使っていて違うように感じる。


 俺は取り敢えず1つの専用スキルを発動する。


「ふっ……【白夜を切り裂く一閃】」


「ぐッッ!!」


 俺がそういうと、明るかったダンジョン内が再び暗くなってしまう。


 そしてシャラグナを殺すつもりで放った斬撃は、片腕を斬るだけとなってしまった。


「はぁはぁはぁ……相変わらず凄まじい攻撃力だ……だが、周りを暗くしたのは間違いだったな……」


「どう言うことだ?」


「見ていればわかる……」


 シャラグナはそう言うと自身の体を完全に闇と同化させてしまった。


 これは俺もよく知っている。


 あのアビスドラゴンも使っていた技だ。

 

 やばい……【気配感知】も感知しなくなったぞ……。


 俺は再び明るくする為に白夜の専用スキルを発動させようとして、ふと先ほど考えていたことが頭によぎる。


 ま、まさか……そう言うことだったのか……?


 俺は2つの武器を鑑定する。


______________

魔剣闇夜(合体可能)

______________


______________

聖剣白夜(合体可能)

______________


 合体だと……?


 今までにない、ゲームをやり尽くした俺ですら知らない表示が出ていた。


 でもどうやって合体させるんだ……?

 

 俺は【第六感】でギリギリ避けたりガードしたりしながら考える。


 えっと……闇夜が一振りで夜が訪れるだったか?


 そして白夜が……夜が明けるだったよな……。


 俺は先程の深い闇での戦いと、明るい所での戦いを思い出す。


 確かに暗い所では気分も下がったな……なんなら絶望してたし。


 でも明るい所だと気分も上がっていたな……そうか!

 

 夜の訪れが絶望で、夜明けが希望か?


 もしそうだとしたら、人間は絶望した時は何かの希望を探す筈だ……!


 自分でもあまりよく分からないことを言っている自覚はあるが、自分が思った夜の訪れと夜明けを率直に言う。


「…………絶望の訪れと共に夜明け希望を祈る」


 そう言った瞬間、2つのオーラが暴発して、俺の手から2つの刀が飛び出す。


 ちょ、ちょっと! なんで離れるんだよ!


 俺が突然勝手に動いた刀に焦っていると。


「な、なんだこれは!? まだ何かを隠していたのか!?」


 シャラグナがそう言っているが、俺も同意見だ。


 正直ゲームでも見たことのないシーンだから何が何だがよくわからない。


 だが、これが俺にとって有益なものだと言うことはわかる。


 2つの刀が俺の目の前で融合していく。


 白銀のオーラと深淵のオーラが混ざり合っていき、1つの刀が現れた。


 その刀は先程のように美しい白銀や漆黒の刀身ではなく、鈍い銀色の頭身になっている。


 そしてオーラを纏っているわけでもない。


 だが、物凄い強い力を感じる。


 正直闇夜や白夜以上だ。


 俺はその刀をそっと手に取る。


 すると突然刀身が漆黒に染まり、白銀のオーラが溢れ出す。


 な、なんなんだこれは……。


「「……」」


 俺とシャラグナは戦いの手を止めて刀を注視する。


 すると突然シャラグナが恐怖の染まった声が聞こえた。


「ならなんなんだその武器は……そんなに強い武器はこの世に存在しない筈だ……」


 俺はそれを聞いて急いで鑑定をする。


______________

神剣夜明け(表)

等級:??

《効果》

全ステータス+500

《専用スキル》

【聖魔剣気】【神技:夜明けを告げる】

《装備条件》 

・刀に認められること。


・神が丹精込めて作った一振り。この剣を一振りすれば理が変えることが出来ると神々の間に伝えられている。

______________



 これは強すぎでしょ……。


 で今使っているのが【聖魔剣気】か?


 なんか俺の体が物凄く強化されている感じがするが、物凄く疲れる。


 これは一撃で決めるしか無さそうだ……。


 俺は刀を1つになった鞘に戻して居合の構えを取る。


「……さぁこの勝負を終わりにしよう……」


 俺がそう言うと、シャラグナは怒り狂い叫ぶ。


「巫山戯るなッッ!! この俺が勇者でもない人間に負けてたまるかッッ!! もういい! お前は生かして魔王軍に連れ帰ろうとしたがやめだッッ! ここでぶっ殺してやる!」


 ……さっきまで殺すって言ってたのに……。


 俺はそんなことを思うが、意識を集中させるのに精一杯で話せない。


 静かにその時を待つ俺と違って、シャラグナは竜の姿になり、魔力を全方位に放ちながら何やら大技の準備をしていた。


「グルァアアアアア!! コレデオワリダニンゲン!! 【深淵】ッッ!!」


 俺の元に色と言う概念なのかも分からない不気味な魔力が飛んでくる。


 シャラグナは既に竜化は解けており、疲労困憊の状態となっていた。


 なら此方も本気の一撃を見せてやろう。

 

 俺は深く意識を集中させる。


 周りの全ての音が聞こえなくなった。


 周りの匂いや味覚が感じなくなる。


 ゆっくりと目を開くと、見える全ての物の色が消えていた。


 そして何も動いていない。


 そんな世界で俺は紡ぐ。


 サラを救うと言う決意を持って。






 神技————【夜明けを告げる】————






 剣から放たれた一条の線が煌めく。


 その線はゆっくりと進んでいく。


 そして視界の全てが線で区切られたかと思った瞬間に、その線を境に視界がずれる。


 ズレた視界は長い時間をかけて元に戻った。


 俺は目を閉じてゆっくりと丁寧に刀を鞘に戻し、再び目を開けると————


 そこには素晴らしい光景が広がっていた。


 ダンジョンはシャラグナ諸共、真っ二つになっており、空が見えている。


 そしてその空には夜明けを告げる朝日が出ていた————


 




☆☆☆






 この時、この世界で夜のはずだったのに突然朝が訪れた。


 その為、世界中の人間は飛び起きて外に出たらしい。


 しかし外に出たものは誰も声を発さない。


 それは、全ての人々が、その綺麗な朝日に心を奪われていたからだと言われている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る