十二話 VS 四天王シャズ・レクド! その2

魔王軍四天王の一人であるシャズ・レクドとの戦闘中、ひしめき合う家具の中にいる新田は思い煩う。先程彼が言った言葉の意味が分からなかったためだ。


「……アイテムボックス?」


「おや?これもご存知ないようですね。」


そう言うとシャズ・レクドは説明を始めた……それにしても親切な魔物である。それとも無知が過ぎる新田に同情しているのだろうか?


それはともかく、彼の話をまとめると……


転生者には『アイテムボックス』と言うスキルを所持している者がいるらしい。ちなみに別段珍しいものでもなく、むしろ持っている者の方が多いのだそうだ。


それは『異空間にアイテムを保管出来る』という実に便利なものなのだそうだ。更にアイテムは保管数の上限にさえ到達していなければ重量なども一切関係無く収納可能であり、いつでも自由に出し入れする事が出来ると言う。


……ここまで聞くと、転生者が持つスキルであるアイテムボックスを何故シャズ・レクドが?と言う疑問が生じるはずだ。


その答えは実に単純……転生者が持つそのスキルの有用性に気付いたシャズ・レクドが何らかの方法を用いて彼等から奪い取ったのだ。(その方法までは教えてくれなかった)


そして、今の戦闘スタイルを確立させたシャズ・レクドは次々と転生者を倒してアイテムボックスを強奪し、それを繋ぎ合わせて今のようにとてつもない量のアイテムを保管できる、言わば『スーパーアイテムボックス』を誕生させたのだと……本人は語った。


以上の説明を聞き、新田は今更ながらに自らの生命が危殆に瀕している事を悟った。


「待てよ……?この家具を戦いに使うって事は……」


「そう!私の戦いは既に始まっているのです!そしてこれが完成した今!貴方はもう私に勝つ事は出来無い!」


シャズ・レクドはそう言うと、出し抜けにその巨体を揺らして家具の山を倒壊させた。


新田は目の前に迫った家具の土砂崩れを回避しようと試みたものの、身体は現在の戦闘形式のせいで動かす事が出来ず、それに呑み込まれてしまった。


「ぐはっ……」


どうにか頭だけは埋もれずに済んだ。しかし身体は家具の真下……もがいた所でどうにもならない。


そうこうしているうちにもシャズ・レクドはこちらへと向かって来る。


「クッ……ずるいぞ!戦闘が始まる前から動いてるなんて!」


言った所でどうにかなる訳でもないが、降り掛かる理不尽にとうとう耐え切れなくなった新田はそう叫んだ。


「まあまあ。いるではありませんか、戦闘開始前にギミックを発動するボスキャラなんて山程……」


シャズ・レクドは笑い、メタい発言をした。確かにそんな奴はごまんといるが……自分がそれを受ける立場となると腹が立って仕方がない。


「それに……こんなもの貴方なら簡単に吹き飛ばせたのですよ?先程貴方がやった見事な回転斬りでね……しかし、貴方はこれが来る前に〝行動〟してしまった。あの時から私の勝利は決まっていたのです」


「ハッ!……そんな……!」


新田の脳裏を絶望の二文字が過る。


先程からコイツの動きを見ていたが、とても俊敏とは言い難い……先制であのような真似こそすれど、シャズ・レクドは素の能力で新田よりも早く行動する事は出来なかったのだ。


そして、それをカバーするために彼が用意したのが敵の視界を防ぐ家具だ。あれを邪魔に思い、排除した者達は今こうしている新田のように、生きながらにして敗北を突き付けられるのだろう。


「さて、ずっとそうしているのもお辛いでしょう?今楽にして差し上げますからね。少し時間はかかりますが……」


そう言うと、シャズ・レクドは拳を振り上げた。


それはすぐさま新田へと振り下ろされ、ぽこりと言う効果音と共に『1』の数字が頭上に表示された。


(やはり俺に大したダメージは与えられないか……これなら次のターン、この状況さえどうにか出来れば……)


……そう考えていた新田の一縷の望みは、次に表示された文字により崩れ去る事となる。


『新田のターン!』


〝新田は動く事が出来ない!〟


「……うわああぁあああぁあああ!」


その後、新田は再び教会へと戻されたが、泣き腫らし兎のように赤くなった両目では宿屋すらまともに探す事が出来ず、その日はアルマに頼み込んで教会に泊まった。


そしてこれは余談だが、その夜新田は階段で倒れていた男性冒険者の事を思い出し、彼がシャズ・レクドの戦法を比喩して将棋倒しと言いたかったのだと気付いたが、表現としては少々正確ではない事にもまた気が付き「アイツ、バカだったんだなぁ」と思いながら眠りについたと言う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る