十話 いざ!魔王城へ!

数日後、何をとち狂ったのか新田は森を抜けた場所にある魔物達の巣窟であり要所……魔王城へと侵入していた。


それは希望を奪われ、酷い敗北を与えられたテロップスに復讐するためだ。街で入手した情報によれば奴は転生者、冒険者をあらかた倒し終えたので魔王城へと帰還したらしい。


今ならば油断している可能性は高い。まさに絶好のタイミングだと言えよう。


しかし新田は何の対策もしておらず、装備は元のままの衣服と既にお馴染みとなった木材と言う万全とは言い難い状態での突入である。その理由は前述した事柄による怒りの所為で冷静な判断力が欠如していたためではあるが……一番の理由は単に金がないからであろう。


新田は見張りの魔物を掻い潜り、漸く四天王の間へと辿り着いた。


そこには四つの扉があり、一つに『物量』の文字が記されていた。それを見た新田はその他三つの文字を確認する事もせず、その扉へと直進した後にそれをこじ開けた。


部屋は正面に小さな階段があり、左右にはいかにも体力が回復しそうな♡型の石像と、いかにもこれまでの冒険を記録出来そうな◇型の石像が配置されている。


恐らくここは新田のように無計画に突き進んでしまった者、そうではない者全てに与えられた最後の休息の地なのだろう。


しかし逃げ回りながらここまでやって来た新田は無傷だったので回復する必要はなく、そもそも使い方も分からなかったのでそのまま階段へと進んだ。


すると、階段の途中に倒れている者がいた。


「……!大丈夫ですか!?」


新田はその人物を抱き起こした。


「き、気を付けろ……まるで将棋だった……」


男性の冒険者はそう言い残すと、小林のように消え去ってしまった。


「…………将棋?」


新田は少し考え込んだ後『まあいいや』と呟き、再び歩を進めた。






「……なんで?」


四天王の姿が見えたが、テロップスではなかった。


その魔物は身長が2メートル程で、ずんぐりとした体型をしている。赤みがかった皮膚は爬虫類のそれと似ており、凸凹としていた。推測ではあるが太ったドラゴン……だと思われる。


「おや?」


立ち尽くしていた新田にドラゴンらしき魔物は気が付いたようだ。その声は老年男性に近かった。


「あんたは……テロップスじゃ……」


「ああ、あやつに御用でしたか。皆さんよく間違われるんですよ、なにしろ二つ名が同じですからね。扉に『物量』と書かれている物も二つあったでしょう?私の右隣りがテロップスの部屋だったんですよ」


「紛らわしい!流石に四天王が二つ名被るのはダメだろ!」


新田のツッコミを聞き、その魔物は『ほっほっほ』と楽しげに腹を揺らし、笑った。

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