九話 VS 四天王テロップス!

テロップスと名乗った魔物は重力に負けた木の葉が地に落ちる間際のように、ひらひらとした動きで地面に降り立った。


そして、それと同時に水球の雨が止んだ。気が付けばどこを見回してもそうして落ちてきたスライムばかりである。目視で数える事すら不可能に等しい。


要するに、取り囲まれたのだ。


なるほど、偽物のスライムで誘き寄せ、それに誘われた愚か者に対して行われるのが……この大量のスライムによる包囲、と言う事らしい。


「しっかしアイツ、小林とか言ったっけ……?今日会った知り合いを探しにこの森に来たとか言ってたが、まさか俺と出くわすなんて可哀想なヤツだよなぁ。てか、もしかしてそれってお前の事か?」


テロップスは不敵な笑みを浮かべてそう言う。小林がここにいたのにはそのような理由があったようだ。


追い詰められた末の選択である新田とは違い、単身でも魔物の潜むこの森へと入って来る程の度胸がある小林はやはり実力者である事には間違いないのだ。そんな彼を消滅へと追いやったこいつは少なくともそれ以上の戦闘能力を有しているはず……


気の毒な話だが、小林の死を嘆いてばかりいれば新田はすぐに先輩転生者の跡を追う事になってしまうだろう。非情と言われようが余計な感情は捨て去らなくてはならない。


「それより……あの偽物のスライム。あれを知ってるって事は、作ったのは、お前か?」


新田は拳を握りしめ、静かにテロップスへと問いかける。


「ん?ああ、そうだけど」


テロップスはさもありなんと言った態度でそう返した。


「……よくも、よくもあんなふざけた罠仕掛けてくれたな!返せ!返せよ!俺のふかふかベッドを!俺の異世界初の晩飯を!」


……失礼、主人公の心緒を読み違えていたようだ。新田は小林の事ではなく、偽物だったスライムに対して怒りを覚えていたらしい。


「……理由はともかく、俺様と戦う気みたいだなぁ?」


「当たり前だ!」


テロップスはふわりと宙に足を浮かせ、新田は木材のなるべく握りやすい、腐っていない箇所を選んでそれを握りしめる。両者戦いの準備は整ったようだ。


「OK……じゃあいくぜ!」


「……!?うわ!」


その言葉と共に、新田の視界は暗転した。






「あれ?何だこれ」


新田は突然の事に戸惑っていた。気絶したかのように視界が黒く染まったのは一瞬であり、場所も先程と変化していないのだが、どこか様子がおかしいのだ。


相手であるテロップスとの距離は先程よりもほんの少し遠ざかっている。今は……約2メートルと言った所だろうか?そして周囲を埋め尽くしていたスライム達はその全てが彼の背後に整列している。とは言っても多過ぎるのでやっぱり何体いるかは全然分からない。


しかし、何よりも奇怪なのは新田の態勢だ。


中腰の姿勢を保ちながら、左手には盾代わりにしている木材を持ち、上半身を隠すように構えている。右手には武器として使っている木材があるのはブラックアウトする前と同じだ。


いや、それ自体は戦闘態勢として何ら不思議な状態ではないのだが……そのような構えをした覚えはないし、そこから動く事が出来ないのだ。


そうこうしているうちに、何故か闘志を刺激されそうな音楽まで流れてきた。これの意味は不明としか言いようがないが、身体が動かせないのは非常に困る。テロップスの魔法によるものだと考えるのが妥当か。


「おいお前!何をした!」


よくよく考えてみれば敵にそんな事を聞いても話してくれる訳がないような気もするが……新田はテロップスに向けてそう叫んだ。


「あ、お前知らないの?ほいっ」


ピロリーン!『ボスとの戦闘はターン制バトルとなります』


テロップスが指を鳴らすと少々腹立たしい音が鳴り響き、中空にそのような文字が出現した。


「……は?」


新田は事の次第を理解出来ず、小首を傾げ……られないので気持ちだけはそうしていた。


「まああんま気にすんなよ。どうせお前はここで死ぬんだからなぁ!」


ピロリーン!『魔物による先制攻撃!』


テロップスがそう言って笑い、再びそのような文字が浮かんだかと思うと、一体のスライムが前進して新田の目の前で立ち止まり、体当たりを繰り出した。


「え!?ずるい!おい嘘だろ!?やめろ!うわ……」


ぺチッ『1』


辺りに攻撃としては非常に残念な音が木霊し、1しかダメージが入っていない事が大変よく分かる一文字が現れた。


そうか、強力な転生者である自分にはスライムの攻撃など通用しないのだ。それを思い出し、回避も出来ずに気持ちだけ身構えていた新田はほっと安堵する。


「ふぅ……ははは。何だよ、この程度かよ。なら、今度はこっちの番だ!」


新田はお返しの一撃をテロップスへと見舞おうとする。しかし、身体は固まったままだ。


「おい!何でだよ!」


「いや、まだ全員終わってねえし」


テロップスの言葉に、新田は背筋を凍らせた。

まさか、こいつら全員の攻撃が終わるまでこちらは攻撃出来ないと言うのか。


「お前ら転生者はどうせHP999だから998体ちゃんといるんだぜ?へへへ……そして最後の999体目の魔物は、俺だ。これこそ俺の編み出した転生者対策、俺が『物量のテロップス』と呼ばれる所以よ」


「嘘……だろ……」


「さあ、終焉への長い長いカウントダウンを始めようぜ……」


「待て待て待て待て!う……うわぁあああぁああああ!」


こうして新田は攻撃の機会すら与えられぬまま、教会へと直行した。

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