八話 いざ戦いの場へ!今度こそ快進撃の始まりだ!
新田は先程ゲドンに貰った木材からキノコを取り払いながら、森の中を歩き続けていた。
最早希望は潰えた。こうなれば何としてでもこの森で魔物を倒し、今日の宿代だけでも稼がなければならない。
とは言え、詳細なステータスこそ分からないが新田の戦闘能力が非常に高い事は紛れもない事実であろう。だから少なくとも戦闘においてくらいならばそこまで気負う必要はない……のかもしれない。
暫く歩いていると、地面に出来た人型の窪みを見つけた。それを見た新田はここがイムに叩き落とされてしまい訪れる事となった森と同じものであると知った。
自身の身体がその窪みにすっぽりと収まるので、これを作り上げた人物が新田しか考えられないからだ。
ちなみに、彼は何故わざわざその窪みに収まってみたのか?と疑問に思うかもしれないが、新田はこの世界に来てからと言うもの色々ありすぎたため若干精神的に参っているのだ。そっとしておいてあげよう。
そうして嵌まり込んだ新田が『もう今日はこのまま寝てしまおうか』とすら考え始めていた時、どこからか非常に触り心地の良さそうな何かの弾む音が聞こえてきた。
上体だけを起こし、音のする方向に視線を動かす。するとそこにはびたんびたんと跳ね回る球体、スライムがいた。
新田はすぐに起き上がり、木材を両手にスライムへと駆け寄る。やっと出会えたここに来て初めての魔物、しかも勝率が100%と言っても過言ではない相手なのだ。これは宿を取るため絶対に逃してはならないだろう。
しかし興奮し過ぎて殺気でも出ていたのだろうか、スライムは想定よりも早く新田に気付くと一目散に逃げ出した。
スライムは無いはずの足まで速く、なかなか距離が縮まらない。
新田は全速力で獲物に向けて駆け、やっとの思いで真後ろにまで辿り着く。そしてすぐさま木材を振りかぶると、スライムへと渾身の一撃を叩き付けた。
スライムは水泡のようにぱしゃりと破裂した。その後には静まり返った森と、少しばかりの罪悪感だけが取り残される……
………!?
金貨が出ないではないか。
「あれ!?え?え?」
新田は混乱した。出るはずの物が出ないのだから当然ではあるが。
これでは骨折り損だ……ゲドンは嘘をついたのか?そこまで転生者と言うものは嫌われているのか?この際そんな事は良いにしても、宿はどうするのだ?武器は?防具は?夕飯は?
現状を理解出来ず、受け止める事も出来ず、新田は地に膝をついて俯く。様々な問題が脳内に浮上するが、絶望した彼の緩慢なる思考の中では全てが渋滞し、まだ見ぬ解決策への進路すらも塞がれてしまっていた。
「わ……だ。に……ろ……」
その時だった。付近から衰弱したような人間の声が聞こえ、その声の主が倒れている小林だと気付いたのは。
「え……こ、小林さん!?」
無気力に捕らわれていた自身の身体を奮い立たせ、新田は小林に駆け寄る。
「小林さん!一体どうしたんですか!?」
事実、今の小林はそう問いかけたくなるような状態であった。何者かに襲われたにしても目に見える外傷はなく、衣服にもほつれすら無い。
真新しい衣服だ、恐らくトラック戦の後に購入したのだろう、つまり小林は生活には苦労していないのだ……ああ、なんて羨ましい……じゃなかった。これは一体どう言う事だろう?
「……」
何か呟いているが、どうにも聞き取れない。新田は小林の口元に顔を近づけ、彼の言葉に耳を傾ける。
「……わ、罠だ。に、逃げろ……」
小林は確かにそう言った。
……ぼとり、ぼとり
すると突然、非常に緩やかな速度で極めて大きな雨粒が降り始めた。
「皆が……皆が俺の魔法を見て驚くのは、俺の魔法が弱すぎるからだと思ってたが……こいつには……それをお見舞いする暇さえ無かった……やはり、俺の魔法は」
小林が話している間にも雨粒はゆっくりと二人に降り注ぎ、その一つが彼の腹部に落ちたかと思うと……
「あ痛っ」
小林はそう言い残し、煙のように消え去った。
「そんな……」
新田の混乱は小林の死(?)を目の当たりにして加速する。今もなお滴り落ちる水滴が無数のスライムだと言う事にも気付かぬまま。
「二人目の転生者!死ぬ前に一つ教えてやるよ!本来のスライムはお前が追いかけてたヤツみたいに速くは動けないんだぜ!」
突如、頭上から甲高い声がした。
驚いた新田が空を見上げると、そこには小柄で黒く可愛らしい羽の生えた悪魔のような生物がいた。
「お前は……?」
「俺は魔王軍四天王が一人!物量のテロップス様だ!」
現れた場所も見た目も明かした素性に似つかわしくないその魔物は、小さな小さな体を補うかのような大声でそう言い放った。
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