第1話(その3) ~春風 椎・シリコンバレー~
現在、庭園内に居る人間は3人だ。私と兄、そしてロボットらに交じって、テーブルセットをしている若い女性。それがメアリーだった。
友人の接近に気が付いたメアリーは、大きな声で挨拶した後、思いっ切りハグをしてきた。
『やっほーい、椎。そのクールな忍者スタイル、相変わらずよく似合ってる!』
『やっほーい、メアリー。今日はわざわざ手伝いに来てくれて、ありがとう!』
メアリー・カワシマは、七三分けの黒いボブヘアと健康的な浅黒い肌、豊満な乳房を持っている女性だ。年齢は24歳。
私が彼女と知り合ったのは3年前。2人とも同じ学校に通っていた。メアリーが先に社会人となってからも、よくDAOで一緒にプロジェクトを進行した。
私が聞くところによると、アメリカ人の母と日本人の父を持つハーフ。18歳までは日本で暮らしていたそうだ。
グリーンカード、つまり米国永住権を取得しているものの、国籍は日本のままだそうだ。
メアリーの服装は動きやすく、ラフな格好だった。上半身は半袖の白いTシャツで、薄っすらと黒の下着が透けている。
下半身はデニム素材で切りっぱなしのショートパンツを履いており、それはチーターの様に引き締まった長い脚を、存分に引き立てている。
『いいのよ~椎にはいっつもお世話になってるし、頑張ればきっとチップも弾むはず……そう!きっと、スポーツカーが買えるくらい!』
ハグの後、メアリーはクリスマスを信じる幼い少女の様に、目をキラキラと輝かせながら言った。
『じゃあ、それに見合う働きをしてくれないとね』
『もちろん!なんならパーティ中に、ストリップショーまでやったげる。あたしが脱げば、そりゃロールスロイスが一括で買えるくらいチップ貰えるはずだもん』
これを聞いて、私は思わず吹き出した。日本人は奥ゆかしい性格と聞いてはいたが、メアリー・カワシマを見ていると、それは一種のステレオタイプなんだなぁ、と考えを改める。
『そういえば、なんで仮想空間で誕生パーティをやらなかったの?せっかく、椎が開発したストロベリーフィールズだってあるじゃんさ』
不思議そうな表情を浮かべながら、メアリーは質問してきた。
私は彼女の為、その至極真っ当な疑問に答える。
『理由は2つ。まず、みんながみんなVR世界に行ける訳じゃない。専用機材を持っていない人もいる。ストロベリーフィールズは、5年前に発表されたばっかりだしね。
2つ目の理由は、シナモンとクローブが「どうしても現実世界のサンノゼでやりたい」って言い出したの。おっと、2人がサンノゼでやりたがってた理由までは聞いてないよ』
『シナモンとクローブがねぇ……。う~ん、あの2人ってさ、時代の最先端をウサイン・ボルトばりに駆け抜けているのに、妙な所がアナログだよね』
メアリーの言う事は、もっともだと思った。人間は何かしら矛盾を抱えて生きている。不思議なことに。
『あともう1つ付け加えとく。私はストロベリーフィールズの五感の部分を担当しただけ。あの世界は「みんなで」創ったものだから。もちろん、メアリーも含めてね』と私は言った。
『相変わらず謙虚だねぇ、春風博士は』
『謙虚とかじゃないよ。だって、事実なんだもん』
私がそう言い終えると、メアリーは微笑みながら、私の頭を帽子越しに優しく撫でた。なんだか子ども扱いされた様な気分になったけれども、不思議と嫌悪感は無かった。もし私に年の離れた姉が居たら、こんな風にしてくれるのだろうか?
少し談笑した後、私は友人に本題を切り出した。
『私も会場設営を手伝いたい。ねぇ、何すればいい?』
『今日の主役なのに働くの?』
メアリーも兄と同じ反応を見せた。
『主役だから自分で準備もやりたいの。ダメかな……?』
『いいんじゃない?だって世の中にはいろんな決まり事があるけれど、ヒロインがパーティの準備が手伝ってはいけないという法律は無いもん』
『やったー!』
私は嬉しさのあまり、その場で3回ぴょんぴょんと跳ねた後、メアリーにもう1度強くハグした。
柔らかくて抱き心地の良い肌と、その奥に隠された強くてしなやか筋肉。抱擁しながら、それらを自分の腕の中に感じ取る事が出来た。
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