第七十話②

「スズリに魔力がそこそこあるってのはどれくらいなんだ」

「えーとね。多分ロア百人分くらいかな」


 もっといい表記の仕方はあったと思う。

 俺を百人並べるよりヴォルフガング二分の一とかルーチェ五人分とか、絶対そっちの方が良かっただろう。なぜ俺を貶める形で例に出してしまったのか、ステルラに小一時間ほど問いただしたい。


「あ、でもね。別に魔法を使えたりするわけじゃないから大丈夫だよ」

「お前さては魔力のある人間全部に俺が嫉妬すると思ってないか?」


 ステルラは目を逸らした。


 ふざけんな。

 確かに俺は魔力を持ってる生きとし生ける全ての生命体に対して嫉妬と怨嗟を抱えているが、それはそれとして身内という別枠のジャンルが存在している。


 ルナさんとかステルラとかルーチェは別枠。


 いやでも待てよ。

 仮に俺に魔力があったとすれば、多分もっと手軽にこの領域に到達出来てるんだよな。

 身体強化魔法と並行して雷魔法使えばいいだけだから並行処理自体はそこまで難易度高くないし、もしも俺が魔力を持っていたらそれはもう楽な道のりだっただろう。


 前言撤回、俺は身内判定とか関係なく魔力が欲しかったし魔力を持つ人間に嫉妬する。


「俺よりお前の方が俺を理解していたみたいだな」

「今の間に一体何を考えたのかな……」

「ステルラは聡い奴だなと感心していたのさ」

「絶対嘘だ」


 信用が足りねぇ。

 あ~あ、スズリは俺以上の魔力どころかそこそこ高水準の魔力を抱えてんのか。


 悲しくなっちまうな。

 スズリがその道に進むかはわからんけど、もしも魔法使いになりたいって言いだしたらどんな顔すればいいんだろうか。俺は苦虫を嚙み潰したような表情で祝福を言えるのだろうか。


「ハ~~~~…………」

「ま、まあまあ。元気出してよ」


 俺はいつだって元気だぞ。

 元気だが眠たくてやる気がないのがデフォルトで、時には絶望に心が支配されてしまう事もあるだけで。


 でもこうやって気が落ち込んだ時は少しでも気力を回復させるべきなんだ。

 具体的にはそう、美味いもの食うとか。


「美味い飯が食いたい。ステルラ、お前料理できるか?」

「ウ゛ェッ!?」


 どういう声出してんだよ……

 ステルラお得意のダミ声を織り交ぜた驚愕を慣れた様子で受け流し、呆れた目線を送った。


 コイツが料理出来ないのは周知の事実である。

 だって師匠・俺・ステルラの三人で特訓した一週間で一度も飯を作らなかったからな。魔力だけは貸し出してくれたので調理器具を使えたのには感謝してるが、それはそれとしてだ。


 俺だってそりゃあ、アレだ。

 好きな女が作る手料理は味わってみたい。

 でも俺が口に入れるチャンスがある時は毎回毎回別のやつが作っている。ステルラの手作りだと思って食べたらアルの手作りだった時は流石の俺も堪忍袋の尾が千切れて消滅した。


「あ~あ、ルーチェは作ってくれたのにな~」

「ぐぎっ……」


 そう、ルーチェはお嬢様なのに料理上手なのだ。

 花嫁修業的なのやってたのかと一度聞いてみたが、ルーチェ曰く「自分で作るしかなかったから覚えた」らしい。一々悲壮感が漂ってくるところにアイツらしさを感じてしまった俺は悪くない筈だ。


「…………べ、別に作れない訳じゃないし……」

「へ~~~、そこまで言うなら作って欲しいトコロだぜ」


 ステルラはそっと目を逸らした。


 はい、俺の勝ち。

 師匠と同じくらいの飯を作れるようになってから言ってくれ。

 俺が死ぬまでに美味いもん食わせてくれればそれでいいし。


「────ロア」

「どうした」


 先程までのおふざけ空気感とは違い、至極真面目な表情で家の方を見つめるステルラ。


 ……魔力感知、か。

 師匠がいるから大事ないとは思うが、耳を傾けておこう。


「スズリちゃんの場所で、あの時の魔力・・・・・・…………」


 そう呟くが否や、ステルラは紫電を奔らせる。


 あの時の魔力。

 何時の事を指すのか俺にはわからんが、どうやら良くない出来事なのは確かだ。

 そしてステルラは俺の手を取って────いや待て。


 お前なんでナチュラルに俺の手を掴んでる訳? 

 いや確かに移動速度じゃ俺は勝ち目がないし、こうするのが合理的なのかもしれんけれどもさ。


 バチバチ帯電したステルラの手を通して僅かに痺れる俺の手が、これから起こる悲劇を想像して震えている様だった。


「ロア、行くよ!」

「待てステルラ。おそらくその行動は正しいが俺の気持ちが──」

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