第三十八話②

 試合で使用された魔法の影響がほぼ消し取られ、漸く試合の準備が整った。

 俺としてはアルベルトの戦いに興味はあるが……あまり目にしたくないと思っているのも事実。確実に血みどろの地獄だと思うし。


「どうしたんですかロアくん、そんな微妙な顔をして」

「この後の光景に胸を痛めています」


 嫌だなぁ。

 アルベルトの魔法が俺の想像する魔法なら本当に嫌。テオドールさんがああいう魔法使った時点で嘘ではないことが確定してしまったので、魔祖本人が直々に許可を出すって確実にダメな魔法だろ。


「エミーリアさん。アルベルトの魔法を知ってますか?」

「あぁ〜、うーん…………うん。知ってるよ」


 なんとも言えない表情な当たり察せる。

 再生能力が鬼のように高く、物理で殴るがメインウェポン。ルーチェにとっては最悪な相性だな。


「え、なになに。そんなにヤバいの?」

「まあアイリスさんに比べればマシかもしれないです」

「ひどくない!?」


 えぇ〜。

 だって斬って斬られてが大好きな女性って控えめに言って狂ってるじゃん。

 俺は否定しないし拒絶しないが普通の人間は恐怖心を抱いて自ずと離れていくのだ。それに比べてアルベルトは…………あれ? どっちもイカれてないか? 


「すみません訂正します、多分同じくらいヤバい」

「は、ははは……感じ方は人それぞれだから、アタシはいいと思うぞ」

「なんの励ましにもなってませんよ」


 シクシク崩れ落ちたアイリスさんはさておき、入場してきた女性に目を向ける。


「やっぱりなんか、こう……抽選とは言え因縁を感じるな」

「なんかあるんですか? この二人」


 アルベルトは個人情報をあんまり漏らさないので俺はあいつのことを良く知らない。知っていても知らなくてもあんまり変わらないしな。

 グラン公爵家の跡取りじゃないし、弱みを握ったところでもな。


「いいや、互いに確執があるとかそういうわけじゃない。シンプルに相性の話だ」

「相性……マリアさんは物理なんですか」


 ぐ、ぐっと軽く身体を解している。

 確かに歩き方や体幹に関しては他の追随を許さない領域ではある。ルーチェよりも基本がしっかりしているというか、教科書通りというか。


「十二使徒第十席、そして第十一席────二人の十二使徒を師に持つんだ」


 第十席は確か回復、第十一席が身体強化。


「だだ被りしてませんか?」

「うん。どっちが有利かって言われればまあマリアだと思うけど……」


 けど。

 煮え切らないな。

 常識的に考えれば十二使徒門下であり順位戦も高順位なマリアさんが勝つと予想できるのだが、魔祖十二使徒の目を持ってしてもアルベルトには大物喰いジャイアント・キリングの可能性が秘められているようだ。


「どう転ぶかな」


 どこか楽しそうに、それでいて嫌そうに。

 複雑な表情で眺めるエミーリアさんの感情は、俺では測れなかった。

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