第三十八話①

「ンン〜〜……」


 流石兄上だ。

 思わず唸ってしまう程度には完全な勝利だった。

 ベルナールが全力を出したのに対して切り札をいくつも温存した状態での勝利────これは実力差がなければなし得ない。


「アンタの兄貴、相変わらずね」

「うん。子供の頃から変わんないよ」

「……アンタは滅茶苦茶変わったけど」

「失礼な! 成長したと言って欲しい所だ」


 ため息を吐いて睨んでくるルーチェに肩を竦めながら、ようやく自分の番が来たと奮い立つ。


「僕は元々こう・・だった。切っ掛けがあっただけで、こういう奴だったのさ」

「猫被りくらいして頂戴。不愉快だから」

「手厳しいなぁ。今の世の中個人を殺す必要はないんだ、自由に生きさせてもらうよ」


 身体をほぐしながら立ち上がる。

 相手は魔祖十二使徒門下の中でも上位の人間である。


 幸い、僕とは相性が悪いようで良い。


「ベルナールが負けたけどどんな気持ち?」

「…………別に。どうでも良い」

「へぇ、手を抜かれてたのにか」


 煽ると若干目を吊り上げつつ、それでも特に気分を害した空気はないまま話しだす。


「傲慢な奴だったけど、毒が抜けたなら良いじゃない」

「…………大人だねぇ」

「余計なことはしなくて良いわ」


 あらら、見抜かれてる。

 少しばかりベルナールにちょっかい出そうと思ってたけどやらないほうが良さそうだ。


「負けてくれると嬉しいのだけど」

「おいおい、そこは嘘でも応援してくれよ」

「嫌よ────アンタと戦いたくないもの」


 言うじゃないか。

 随分と覇気に満ちた表情だ。

 ステルラ・エールライトなんていう怪物と戦うってのに随分清涼感のある声色。恋する乙女は強いってことかな? 


「そうかい。僕は君と戦りたいけどね」

「遠慮するわ。私は一途なの」


 また振られてしまったみたいだ。

 やれやれ、いつも僕が悪者みたいになっているじゃないか。手心を持って接して欲しいね。


「さて、行くとするかな」


 魔力は十分、肉体的にも損傷はなし。

 心のうちに秘めた本心も十二分に渇いてる。


 楽しい戦いが出来ます様に────なんてね。

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