第三十一話①

「……さて、準備できたかな?」

「…………問題ない」


 朝起きて、身体を日の光に当てて起こす。

 この何気ない行動が大切だ。


 体調不良、なし。

 各部位の健康状況問題なし。

 祝福の補充された魔力の量も完璧である。


「はぁ……胃が痛いよ」

「なんだステルラ。お前今日戦わないだろ」

「ロアが勝てるかどうかハラハラしちゃって」


 まあ負けるつもりはないが……応援してくれているのだろう。

 その気持ちはありがたく受け取る。だが俺が負けると思うのは心外だな。ここ一週間必死こいて足掻いてる俺の姿を見ているのに。


「いや、勝つとは信じてるんだけど…………」

「じゃあなんだ」


 一瞬躊躇った後に、俺の様子を伺いながら呟いた。


「…………怒らない?」

「内容による」

「ウ゛ッ……じゃ、じゃあ言わない!」

「怒らないから答えろ」


 両方の頬をムニィ~~~っと引っ張る。

 柔らかい。俺のカサカサでゴツくなってしまった皮膚(恐らく電撃を喰らいすぎによる後遺症)に比べてこんなにも女性らしい身体つきに変化している。

 俺的にはそっちのほうが嬉しいがな。幼馴染がゴリラに変身とか考えたくも無いわ。


「い、いふぁい」

「ええい口を割れ! なんか気になるだろ」


 手を放したら師匠の裏へと隠れてしまった。

 チッ……仕方ないから許してやる。


「やれやれ。ロア、子供みたいな事をするんじゃないよ」

「やかましい。モヤモヤするんだよ」

「…………ロアのばか」


 なんで俺が責められなきゃいけないんだよ。

 女性二人と男一人、悪いのはいつも男になる。やれやれだ、俺はこんなにも誠実だというのに。


「その、さ。今更ですごく申し訳ないんだけど……」


 何をもじもじしてるんだ。


「……ルーチェちゃんの時もそうだけど、あれだけ頑張ってたのに負けたらと思うと…………」


 …………本当に今更だな。

 他に言うことがない。今更すぎるだろ、勝負をする上で敗者と勝者に分かれるのは必然である。

 なのでどちらかが負けるのだ。そこに重ねた努力の量は関係なく、如何に上手に丁寧に積み重ねたかと言う精密さが求められる。


「……成長したなぁ」

「成長したねぇ」

「なんで二人共そんな目で見るの!」


 その上で俺が『いつかお前に勝ってやる』と宣言していることの重さを理解してほしい所だ。


 ……いややっぱ理解しなくていいわ。

 クソ恥ずかしい告白みたいで嫌だ。


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