第二十二話①
自身の完全上位互換と戦う。
生きている限りは幾らでもある話だ。
魔法が世に生み出されてから何十何百と月日が経過し、最早触れられてない分野など存在しないのではないかと思うくらいには技術は進歩した。
故に、自身が如何に『革新的だ!』なんて発明をした所で────既に先人が通った道。
「何が言いたいかわかるな」
「対策立ててもあんまり意味無いって事でしょ」
「そういう事だ」
挑戦する相手は最上級生、ずっと順位戦で戦って来たのに十二位を保ってる時点で奇策は通じないだろう。
「勝率はどれくらいだ」
「…………大体二割ってところじゃないかしら」
クッソ厳しい戦いになるのは間違いない。
氷の完全上位互換か。ルーチェの戦闘スタイルも見破られているし、対策されていると考えるべきか。
「ふーむ…………詰んではないか」
「……二割勝てるって所には突っ込まないのね」
「そりゃまあ、俺は相手を知らないからな。ルーチェの主観に委ねるしかない」
実質一割だと思って良さそうだな。
近づいて殴る、それだけしか手札に無いのだから新しく手札を加えるのには時間が無さすぎる。練度不足で対応されるのが関の山だろう。ならば今持ってる手段を更に強くする、これしかないのだが…………
「接近できる自信はどれくらいある」
「五回に一回」
「勝ち筋はそれしかないな」
同じ答えにたどり着いていたらしく、ルーチェが勝つためには相手の攻撃を避け受け止め懐まで滑り込む必要がある。
接近できる可能性=勝率となるわけだ。
「その五回に一回を本番で引き当てる、か。中々厳しい話だ」
「わかってる。……でも、ね。どうしても……」
俺がステルラに勝ちたいと願うように。
ルーチェもまた勝ちたい奴がいる。
その気持ちは非常に理解できる。
「勝てるさ」
だからこそ、俺だけは勝利を疑わない。
一人で戦い続けることの虚無、誰かが支えてくれているという事実が底力を引き出す。
俺はそれを知っている。身をもって、そして記憶でも理解しているのだ。
恋人でも家族でも友人でも、誰だって構わない。
誰かのために────そう願い培った全ては無駄にならない。
「……簡単に言ってくれるじゃない」
「出来ないことを出来るとは言わない。お前なら出来るだろ」
それくらいは信用してるさ。
全身全霊を懸けて一度戦ってるんだ。その相手を信じないでどうする。
その程度の心持ちはあるさ、しっかりとな。
「…………過度な期待は止してよね」
「照れるな照れるな」
「照れてなんか無いわ」
暴力を伴わないツンデレとはここまで心地いいモノなのか……
俺は驚いた。心の奥底で俺の知らない何かが開かれるような感覚、いわば新たな性癖が呼び起こされたような危なく甘美な感覚。
そうか……これが、青春か…………
あの大戦を終え、生き残った人々が作り上げてきた結晶。
人生を豊かにする成分の一つに異性との適度な交友があるとは聞いたことがあるが、まさか本当だったとは。
「君、夜道は気をつけたほうがいいよ」
「暗殺する価値が俺にあるのか」
「暗殺というより謀殺……痴情のもつれだね」
「ルーチェ、俺を殺すのか」
「殺すわけないでしょ」
これが好感度の差だ、アルベルト。
そもそもルーチェは不快なことをしても正面から反省の意を示し深く詫びることで許してくれる程度には心が広い。心に余裕はないが心優しくあろうとしてるのだ。
「やはりいいヤツだ」
「……お人好し」
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