第十話③

 

 手を掴んで教室の外へと向かう。

 これで合法的にバルトロメウスの事を避ける事が出来る上、ルーチェと変な確執を抱えるステルラもついでに連行できる。なんて合理的なんだ……


「ちなみに何処に行ったのかは一切わからない」

「ちょっと真っ暗だね……」

「お前が照らせ。俺は先行きを求めている」

「一回戻ろう、ね?」


 嫌だ。

 今戻ったらまたバルトロメウスに絡まれる。

 でも待てよ、ステルラが居るなら全部丸投げできるんじゃないか。また一つ閃いてしまった。もうステルラ常備しようかな。


「俺のクラスに来れないか?」

「またいつもの急展開だ……」

「俺はお前が必要だ。たのむ」

「…………はぁ」


 呆れた溜息と共に何故か顔を俯かせてしまったステルラは放っておいて、周囲を軽く見渡す。

 まあ、戻ってきてるかは謎だな。手を繋いだままでなんかステルラが離そうとしないのでそのままにし、後ろを振り向く。


「……どいて」


 はい。

 もうこれ触れないほうがいいんじゃないだろうか。

 今マジで眉間に皺寄ってたぞ。本気の顔だった。また一段溝が深まったような気がしてならない。


「ひ、久しぶり。ルーチェちゃん」

「……………………」


 ウ、ウワ~~~~ッ! 

 悪い、修復不能だこれ。ステルラはよく頑張ったと思うぞ、俺はお前の決断を肯定するよ。

 声をかけられた瞬間足早に去ってしまったので相当に根が深い。


「もう諦めろおまえ」

「頑張れって言ったのはロアでしょ!?」


 責任転嫁とは情けないな。

 俺はただ「学園生活を豊かにするならば友人関係はどうにかしたほうがいいですよ」という世間一般的な論を告げただけで、別に無理して嫌われてる人間に取り入ろうとする必要はない。


「そういう運命なんだよ。ルーチェと今後関わる事を禁じます」

「そ、そんなぁ」


 俺に口まだ利いてくれるかな。

 ちょっと不安になってきた。アルが先に話しかけてオッケーだったら大丈夫だろ、アイツ百倍くらい失礼だし。


「試合見返す事が出来ればな、どういう様子だったのかわかるんだが」


 人の心を思いやるのは大変だ。

 自分が正しいと思っている事が相手にとって正しいとは限らないから。英雄大戦で腐る程見た人の負の側面すら誰かから見れば正義である。果たして無理矢理にでも近づくことが正しいのか正しくないのか、なんてことは誰も知らない。


 ようは自分で責任を持ち考える事が出来るかだと思うんだ。


「……ふむ」


 俺は努力が嫌いだ。

 それは万物に対する努力を嫌っていると宣言している。

 根本的に自分が良ければそれでいい、そういう性質なんだ。だからまあ、俺が他人の事で悩むのは非常に面倒だが……


「ルーチェはいい奴だからな。俺としては楽しく学園生活を共に過ごしたい訳だ」


 折角友人になれたのにこれで終わりは悲しいだろ。

 やれやれ。俺みたいな凡人にそういう方面で期待しないで欲しいぜ。


 情報収集もクソもないが、まあとにかくぶつかるしかないだろう。俺の経験上案外ぶつかり合うのがいいって英雄も言ってた(記憶で)。

 でもなァ~~~、ルーチェの拗らせ方凄そうだからな~~、俺の魔法関連も話さなければいけないかもしれない。いや、別にいいんだけどさ。いいんだけどこう……あんまり公にしたくないだろ。ただでさえ英雄なんて面倒な呼ばれ方され始めてるのにここで『十二使徒の祝福で元英雄の武器を使用している』とかいう情報出て来たら逃げ場ないし。


 まずはルーチェの根本を理解せなばならないな。


「と言う訳なので、俺は早退する。後頼んだぞステルラ」

「えっ」


 教室に戻り鞄を持ち、ついでにルーチェの鞄も勝手に準備しておく。

 一週間程度の付き合いしかないが、アイツは逃げれる状況だと逃げる傾向にある。順位戦の時アルに煽られた時もそうだが、反抗する事より逃げて押し込もうとしてる。


 確実なのは逃げる事の出来ない状況にこっちから追いやる事だ。


 外れたら外れたでまた考えればいい。


 先程ルーチェの去って行った方向へと歩き、ここから一人になれそうな場所を思い返してみる。

 屋上か。テンプレ的な場所ではあるがあそこカップル多いんだよな。アルと二人で様子を見に言ったらゲンナリした記憶がある。あのアルが嫌そうな顔をしてたから相当にあま~い環境だった。


 俺が一人になりたい時はどういう場所に行っていたか。

 ルーチェと俺は似てる部分が多いから冷静に考えてみるのもいいかもしれない。


 とにかく静かな場所だ。

 誰も来ない、それでいてある程度ゆっくり出来る場所。密室で鍵を掛けれる場所がベストだな。


 となると……あそこか。


 この学園には都合よく魔法を使うために頑丈に補強されている部屋がある。

 普通なら誰も入ってこれない、個室が。


 先日の師匠やステルラがどうやって入って来たか不明だが、鍵をかけてなければ普通に入れるだろう。掛けてたら知らない、ノックして引き摺りだす。


 昼休みの時間すら利用する人は少なく、友人がいないボッチ飯とかここで決める人がいるという噂がある。

 まさか級友がそんな枠に入ってしまうとは……俺は悲しいよ。


 地雷踏み抜いたのは俺なんですけどね。


 到着し、部屋の空き状況を確認する。

 使用中の部屋は……一つだけか。アテが外れたか。


 どちらにせよ確かめないといけないので部屋の前まで行き扉を開く。 


「開くのかよ……」


 勢いよく限界まで開け放ってから中に入る。

 照明はついてないし若干冷気が漂ってるし、あたりを引いたと考えるべきだな。


「おいルーチェ、居るんだろ」

「…………帰って」


 姿は見えないのに声だけ聞こえる。

 夜目は利く方だが、流石にオンオフの切り替えは利かない。俺は人間だからな、そんな便利機能は搭載してないんだ。


「悪いが帰らない。俺はお前に用事がある」

「私は何も用事がないの。だからどこかに行って」

「そっちか。おやおや、随分と縮こまってしまったな」

「……うるさい。いいから帰って」


 ハ~~~~~。

 どいつもこいつも拗らせやがって、面倒くさいんだよ本当に。

 俺みたいな奴を頼らなくてもいいぐらい強いんだからもっとバランスを持ってほしい。


「ほら、行くぞ」

「…………触んないで」


 とか言いつつ全然抵抗しない辺り深刻だ。

 もしかしてさっきのステルラでトドメ刺したか。その可能性が結構高いな。

 即決してよかった。過去に取り返しのつかない事があった、その記憶を見たからか。どちらにせよ今は忌み嫌った英雄の記憶に感謝しておこう。


「いいから行くぞ。首都デートと洒落こもうじゃないか」

「────……は?」

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