闇神性児

第2話 裁かれし者！

　夕闇が降り廃炉街は紫色の化粧に変わる。薄汚い男が売春婦を連れホテルで映像を撮る頃、得体の知れないカオスジャンキーが向かう先では世の中に逆らう音劇のショーが始まろうとしていた。彼等の後ろには異様な臭気が漂う。その臭いは汚臭と腐臭だ。

閉鎖した廃校、現ライブハウス放火後の教室の舞台で監禁された二人。壊れたスポットライトの硝子の破片を取り胎蔵は山田豚彦の腹に十字の印をつけた。先に捕らえられていた新橋理狂人(リクルウト)配送員、小川痴童は観念した。ズボンを降ろされビニールパンツを履かされ中の蛇に龜頭を嚙まれ興奮と恐怖に異常の兆しが始まっていた。乳首と陰茎に張り付けられた電極から痺れが周期的に訪れる。天井から吊るされた朱色に染められた絞首刑のロープに制服を着たキャラクター人形が逆さ吊りされ振り子の様に揺れている。

胎蔵はメタリックな拷問道具を一つずつ増やしては試す瞬間に恍惚感を漲らせていた。

ステージで拷問器具の点検をしていた瞬間、突然汎ゆる暴言を歌詞に乗せ胎蔵は歌い狂った。まさに狂気の幕開けを歓喜する変質者の如く呻きはじめた。まな板に寝かされ睾丸の皮を釘で打ち抜かれる間際の豚彦！硫酸をかけられ唇が爛れる予感に恐怖する痴童！

椅子に縛られたまま、電気ドリルで掌に穴を開けられる兆しに失禁する。

胎蔵はオカルトシンガーとして覚醒すると恨みを込め二人への復讐を始める。

支配人の梶が今日もイントロを手伝っている。作業台の丸鋸のスイッを入れＢＧＭは流れる。彼とは海辺で漁師に袋叩きにされかかった時からの縁だ。あの時浜で歌っていた♪

♫魚達は溺死体を喰って育つ♫という歌が彼等のカンに触ったのか、梶が謝罪してくれなかったら簀巻きにされ海に投げられていた。

また、彼がライブハウスを紹介してくれなかったら歌う事も出来なかった。梶のライブハウスには何人かの常連がいて胎蔵を気に入ってくれた。スーツ姿の男は偶然か殺された母のショーを見た事があると言っていた。そのコネで洗濯ショーを演る女、草株律子とも知り合う。胎蔵は知っていた。人は心の裏側に決して他人には語れない隠す秘密が少しはあるものだ。拷問歌の真の意味は博愛の裏返しでもあった。他人はその過激な歌詞を評価する。

ならばより過激な方向へ向かおうと胎蔵は思った。

掃除の仕事の最中行方不明の配送員の噂を聞いても知らんぷりで過去の鬱憤を溜め込み新しい処刑や拷問を考えた。テナントの女子社員が屋上で強姦され、犯人が今日のゲスト小川痴童とは、その女子社員には招待状を送っておいた。

眼球匙抉り、切開手術、硫酸刑、陰囊の玉を左右に分け真中を五寸釘で射貫く。

巨根族出身の胎蔵は控室で龜頭に輪をはめる。輪には音階別に穴が空き首につけた輪と繋がり弦が張られる。ペニ輪と首輪から数本の音階の弦が胎蔵の指先が奏でる淫曲により哀愁のある不気味な旋律を奏でる。この人体楽器を考案したのは楽器職人の鼓ジンタという少年だ。強姦された女達の知り合いで胎蔵の為何か恩返しがしたいと試行錯誤の末人体楽器を装着させてくれた。まだ弾き方に慣れないのでレパートリーの中で簡単なコードにしか使用していないが何れ全ての楽曲を演奏出来る筈だ。……あの日、君の音階なのかとジンタは訊いて来た。14音階の作曲家に遭えたなんて、キミ！他人から異質なメロディで音痴だって言われただろう！

胎蔵は頷いた。他人と聴覚が違うと思っていた。みんな、俺の作る曲が狂ってるって言うけど、俺が作るんだから狂っちゃいない！

ただ、メンバーは集まらない。みんな音痴だと酷評して消えていく。

ジンタは告げた。君の音楽は複雑だからコンテストでは落ちる。一般人の中で14音階を聴き分けられるのは稀だ。海鼠難民や性被爆者達も君の奇抜なステージに集まるだけだ。ただ君にアンサンブルをつけれるメンバーとスタッフが集まれば君の音楽は闇のカルトになる。胎蔵はジンタの言葉の意味が分からず、お前に任すわ、俺、頭悪いから単純な事しか考えられん。差し当ってライブパフォーマンス準備で手一杯ってとこさ。

ジンタには理解できない範疇で胎蔵は突進していた。

今夜はどんな処刑にするか楽しくて仕事も手に付かなかった。ごみ置き場でそれを見ているシリーズ、永遠に続く数え歌を作り分別していた。…キンタマゴルフで打っている、それを見ている少年は鼻屎パンに塗っている、それを見ている弁護士は小便スープを飲んでいる、それを見ている母親は何をナニして何してる。独り言は止めろと警備員に注意される迄、胎蔵は退社迄歌を詠んでいた。

夕暮れの廃炉通りで電信柱が突き刺さった酒屋、胎蔵は店頭から酒瓶を盗むと笑いが止まらなかった。ショーでは尻の穴にこいつをぶっ込んでやろう。楽屋に着いて処刑準備中ポケットの黄色い宝玉が熱を発した。

何だこれは！海で拾った頭蓋骨に嵌められていた黄色い玉か？！

胎蔵は再びポケットに仕舞い、ペニスハープのチューニングをした。

この人体楽器にも慣れてきた。レパートリーも増えてきた。

調整中のアバラハープとペニスフィドル、ベースは身体に負担が多い、装着型もありだな！

処刑授業　1　痴童

猿轡を解かれて理狂人配送員の小川痴童は策をねり大声で詫びた。醜男ですみません！もう強姦はしません！

許して下さい！遺書を書きたいから紙を下さい。真夏の熱気が倉庫に籠もり汗だくの男は一瞬破滅を感じて絶望のメロディを胎内に震わせた。小川は観念した。俺は此処で死ぬのか！この掃除野郎に甚振られて朽ち果てるのか。まさかコイツが裏社会の拷問シンガーとは知らなかった。俺は解剖されるんだ。蛙みたいに皮を剥がされて標本にされる。

小川は理性が狂うと犯した女の数を思い出していた。

人形の両足にベルトが巻かれ股裂きの映像が壁に投写される。ライブ会場になっている倉庫には疎らに客が入り出す。

今日のはスゲエぜ！ゲストがもう一人つくらしい。客がはショーだと思っているが、実際に泥酔リンチが行われようとしていた。

パンフレットに「裁かれ人、理狂人社員、強姦魔小川」と書かれている。

胎蔵は今日は客にも一刺しずつ針で拷問させるか考えていた。

小川の顔以外何処でも刺して良いというライブ参加ショーだ。

入場券の裏にはマチ針や注射針が付いていた。

わたし、この針で乳首刺すわ！

俺はツボだな！鍼灸の快楽ツボ！勃起して小便洩らすツボだ！

小川に跨がった胎蔵は酒瓶を小川の口に押しあてアルコールを勢いよく飲ませる。

この強姦野郎！76度の麻酔酒を浴びやがれ。眼を反らした痴童は客席を見た。

数人の客がステージに上がり針を刺したがっている。

世の中の人間は人を殺したがっている。だからファンは此処に集結するんだ。

アイツラは善人の仮面を剥がし此処で楽しんでる。会社での鬱憤がステージを盛り上げ、殺したい上司の代わりに、裁けるステージの罪人に自分の恨みを乗っけて満足するのさ。

そして俺は奴らを見る度に人間の本性を知りザマアミロと叫びたくなるのさ！

胎蔵が耳元で痴童に囁いていた。

これがお前の知る最期の現実かもな！

二十歳肉林三十絶倫四十過ぎたらいま片鱗

嗚呼懐かしきわが人生、

胎蔵は痴童の歌を詠んだ

……昼間はペットショップで働く楽器職人のジンタは注文された二匹の猫を届けるため、ステージを垣間見て狂喜した。

昨日やって来た車椅子の客の注文で来たが、あいつ、猫を万力で潰すショーを演ると言ってたがまさか本当にやりたがっているのか。

助手として参加している梶の妹モエルはピンクのフリルの襟を立て次の割礼ショーを凝視した。胎蔵は痴童の長い紫色に変色した陰茎を摑むとリボンを結びけっけけと笑った。さすが、菩薩が合掌する様な立派な一物ですね。モエちゃん！これが強姦の根源の性慾棒です。微塵にミンチして処分してあげましょう。その前に焼きます、煮ます、抜きます、三択です。

この子は泥酔して意識朦朧だから、モエちゃん、どうしたいですか！

唇を窄めモエルは答えた。

う〜ん、あの串刺し！先程の提案でミンチにしてフライで揚げるのは、私フライヤー用意します。揚げ物得意でーす。

いいえ、あなたのご要望はやはりお聞き出来ません。悪しからず私が決定します。割礼！開きにして、そうだ、先ず陰嚢から睾丸摘出して、カリ開いて蒲焼。ちょん切りぶらぶら蒲焼！胎蔵は下品な笑いと共に痴童に言い放った。お前の望む処刑はなんだ！あっ〜！すべて望まない！俺が決める事だ。床に逆さに転がされた痴童はモルモットだ。

おいお前！瓶の中にいるコイツ、尻に突っ込んでやる。酒瓶の中には数匹の蛇がいた。

そうだ、この一升瓶ケツに挿してる間に一曲やるか！

曲が終わる頃蛇ちゃん、腸の中這っていく。

腸の壁に穴開ける前に下剤飲ませてやるから運が良ければ糞と一緒に蛇が流れ助かるが確率は？だな！

穴を見ると放火したくなるモエルは痴童の肛門拷問に欲情するとライターを弄り始めた。胎蔵が一升瓶を押すとモエルは臍を焦がしたいと火を点けた。

モエちゃん？まだ此の瓶を支えていてね！

モエルはライターを仕舞うと支え役に集中した。後で焼かせてね？彼女のルルルンに胎蔵は同意した。

モエルは強姦魔のアソコってどんなだろうと想像した。今夜のあいつ血抜きして部屋に飾りたいな〜！即身仏が一体増えると教祖様もお喜びになる。早くライブ終わって私のモノにならないかな！

モエルは待ち遠しかった。

処刑授業　2　豚彦

ドラム缶が置かれている。中から男が顔を出している。さっき睾丸をハンマーで潰されかけた山田豚彦。彼は胎蔵が会社のロッカーに隠していた拷問セットを狙い管理会社に通報し没収すると、なおかつ其の中からボーガン等数点をネットで売り遊興費にあてた。

何年もかけ廃棄物置場から手に入れた拷問道具は焼却炉で灰と化してしまった。母親が吊られた血染のロープも黒焦げの残骸で発見された。思い出に惜別して胎蔵は嘆きを恨みに増幅させていった。今夜は観客でいよう、助手に任せなさいと梶にきつく諭されたからだ。

……硫黄の臭いが鼻を突き客席までまるで温泉街だ。浴衣を着た色っぽい派手な化粧の女、草株律子は豚彦の汚い身体を風呂に入れ水から沸かし沸騰させていく。

お湯加減如何ですか？旦那様！

ドラム缶風呂最初は良い良い後は地獄風呂。

ちょっと熱いのですか？ではもっと焚べさせていただきます。

かなり熱いのですか？出してあげません。

客が騒いでいる。あの風呂、沸騰している。

あいつ、首から下がトロトロのチャーシューになるぜ！

時たま風呂桶から跳ねる音に客は気付く。

何だあの中に蛙や蛇も煮込んでいるのか！

これが残虐童子のショーかよ！

こんなライブ闇だから出来るけど拷問だぜ！

蘇生ショーもありかな？あいつの細胞の欠片一片でも保存すれば、……永遠に拷問は続いていた。

ブヨブヨの腹が熱湯で溶けて良い出汁になる。スープ無くなり次第終了！

なぜか丼が用意されラーメンが客に振る舞われる。

残りの出汁はホームレス100人分の炊出し。お前等は毒味兼ねた最初の客だ、感謝しろ、先程ライブをバカにしていたグループが強制的に食わされていく。

胎蔵が襟首を掴み罵声を浴びせる。

お前等、俺の音楽性が云々と文句言ってたが、喚いてくれた礼だ！全部喰っていかないと次のスープにするぞ。本音はな〜！

お前等のスープも足したいんだ！

……他人の財産を手に入れようなんて魂胆で恋愛はするもんじゃない。人間にはその者の与えられた生活がある。それらは変えようが無い現実である。

　闇音楽界に憧れる魔肌樹子は偶然か或いは意図的に誰かが仕組んだのか、胎蔵のライブを観劇する機会に恵まれた。街頭に貼られていた残虐童子のポスターがなぜか、気に止まった。陰茎に張られた糸を首に巻きつけ不敵に笑う胎蔵の横顔が霊的に輝いている。

こんな人間、ただの奇異を衒う類の廃炉街のミュータントミュージシャン！

でもこの人間の眼があたしを見る。

空を見上げると流れ星が堕ちる。星堕ちる時新たな新星現る。　

世に係れば必ず商売にする為に表の人間が集まって来る。彼は表にはいけない故に媚びず自由な発想の元音楽を表現出来る。

♫　闇裏音楽祭！　

　ライブハウス放火後の教室２３時から闇音楽オーディションが始まる。精神はグチョグチョに崩壊皮膚は硬く気色悪いジャンキー生物、海鼠！そんな地獄難民が集う寒空の下、放火後のゲートには残虐童子のポスターが貼られている。蛙のフードを被った胎蔵、豚の耳を眼帯にするジンタ、干乾びた鼈をネックレスにするラブロータ！

……ラブロータは山高帽の鍔から鋭い眼で客席を睨む。車椅子に座りマルチーズを抱いて嗄れた声で犬の名前を呼んでいる！…もしもしカメと云うらしい。

そういえば、ロビーに立つ警備員に先程一人の男がブラジャーを頭につけ直し訊ねていた。受付に預けた食用の犬が居なくなったらしい。

ホールでは老人がラブロータの座る車椅子の下の水液を凝視していた。

何か流れている？隣のババアが眼鏡を斜めにして見る。あれは小便だ。あのワン！漏らしたね！アタイ達夫婦みたいに年取ったかね！

爺が指差す、婆さんあれは血じゃないかね。　

隣の露出魔はセックスに耽っている。婆も爺も昔思い出してつるみやがれ！

隣の青年が吠えた。

ステージでラブロータが含み笑いを漏らすと犬の首を持ち上げる。胴と首が離れて筋で繋がっている。何とも異様な光景がゆれる。

あれは！婆が腰を抜かす。爺さん！これは老人会の余興じゃない。動物虐待ショー！

周りの難民からもざわめきが起こる。あの犬、さっき、受付でホモジローが預けていた！ホモジローが叫ぶ！てめえ〜、俺のポボンガになにしやがった！みんなの朝食を返せ！

通路の扉が開き蛙のフードの男がくきょくきょと呻き四つん這いになると、オープニングのファルセットで吼える。おちんぽブラブラソーセージ〜うんちべちゃべちゃ尻の味噌！

客は唖然とする。あの滑稽な全裸男が主役の胎蔵なのか！

いやあいつ！元表の尻貸しシンガー！シャブだ！俺達が見に来たのはお笑いじゃないぞ。

前座はいらない、浪速ブラザーズが差し向けたライブジャック野郎をつまみ出せ！

警備員が現れ不審者を連行すると客席のライトが突然消えた。

これって特殊なんでしょう？楽屋裏でペニスに張られた弦を鳴らしモエルは訊ねた。

痛くなかったの？

弦を張るとき胎蔵はぽそりと…巨根族は割礼の儀式で皮膚が厚くなっているからと応えた。

モエルは頷きさすり始めた。これ、欲しがる人可哀想ね！あなた性交が出来ないのだから。

胎蔵は別にと笑う。陰茎を楽器に改造してからペニスハープの音色が官能の全てであり、エクスタシーだ。

髪を束ねて胎蔵は呟いた。ステージに出てくるよ。調弦も済んだ。

胎蔵は袖からステージに上がると地声で客席に向かい叫んだ。

女にもてない恥垢くさい皮カムリのセンズリ野郎チンポマン達よ！グロテスクなるハープの洗礼を受けよ！

紫色の法衣を捲り、ペニスリングを拡げ、首輪を仰け反らせ、指先でアルペジオの勃起のエチュードを弾いた。

ストロークは幾分長めだ。形容のしようのない音がホールに轟いた。

なんなのか！その不快な旋律は悪鬼がステージに溢れ壁から干乾び歯を剥いた猫の死骸が垂れ下がる様に生えてきた。

扉の向こうのざわめきに、見るからに知恵の無い顔をしている掃除婦は昂奮してしまった。

偶然用を足しに入った梶は思わぬ光景を眼にする。

なんと掃除婦は涎を垂らし目を剥きトイレ清掃にパンティを脱ぐと鏡を磨き始めた。扉の隙間から漏れる猥褻な歌に欲情すると次にブラジャーで便器を磨くと、垂れ乳を揺らしおっぱいの汁を搾り洗剤だと叫び発狂していった。

ああっ、休憩時間に洗濯機の中で寝よう。乳を搾り洗剤を作ると微笑みかけた。此れは音楽の効果なのか！掃除婦は現場に遭遇した梶の一物から散る小便を眺め、唐突に母乳飲みますか？代わりにその太いもの吸わせて下さいと懇願した。

掃除婦は自分の言動に恥じるとトイレットペーパーの芯に生理用品を詰めて作業着を脱ぎ始めた。

あのホールで！おチンぽブララブマンが、いいえ、残虐童子が呼んでいるのでステージにあがります。

梶は呆れるというか、放心してしまった。

何なのだ！！このおばさんは！！

胎蔵がマイクの位置を直すとき、隣の暗がりから突如掃除婦が現れた。なんと！

モップをヴァギナに挿すと床掃除を始めた。

楽曲は天使の陰門、脱腸酋長、大統領の精液と続いていた。掃除婦は仰向けになると、モップを抜き昇天してた。

開脚すると脱糞して勢い良く小便を噴水して口から泡を吹き痙攣している。

胎蔵の歌にはＩＱの低い人間を先祖返りさせ、高い人間には幻視能力が宿る。数秒間ビジョンが視える。

二部では無数の虫が飛び交う。毒蛾や蚊が視界を遮る。その裏の中から妖しいハープの調べが響く。

玲子は狂った時間軸をつなげた。

あんたお金を払わずに買物する女だってな……(多田玲子)ただでいこう…いいね〜俺と同種族の臭いがするぜ！

あの時の胎蔵はまだ発展途中だった。彼の歌が聴こえる人間は限られている。一般人はただ言語障害者が唸っているようにしか聴こえない。何回か聴くことにより歌詞が理解出来音階の異常さに精神が埋没し虜になる。　

そして曲と曲の間の卑猥な断片。それは叫びとも取れる、彼は物語を編んでいた。……とある朝、昨日拾った女が俺の淫汁スープを飲んだら陰茎に羽が生え空の彼方に飛んでいった、また翌朝、腹を裂かれた女が内蔵を襟巻にして天使の言葉を覚えて話しかけて来た。胎蔵の言葉は不条理のカタストロフィだ！

胎蔵の姿を凝視する玲子とジンタ！

あなたにも彼の嘆きが伝わるのね。彼の人生は闇で綴られていく。それを増幅する人間も集まっていくのね。

胎蔵は肥大したペニスに張られた弦を弾きエピローグで祈祷師の龜頭を熱唱すると2コーラスで歯と陰茎の先についたリングに張られた弦を弾く。ペニスハープへと楽器を変化させていく。そしてその後彼はコメディアンに変身する。

司会の梶が紹介する。さあ〜闇音楽歌手の登場です。変態シンガー！ラブロータさん！どうぞ！

再び楽器を元に戻すと亀頭から陰囊に張られた弦を弾き胎蔵は呻いた。

場内にお香の臭いが漂い葬式の様だ。

思わず玲子は苦笑した。この子は何を秘めている。残虐を諧謔に表現する風刺の天才、未知数の音楽性、パフォーマンス！

何よりメロディメーカーとしての甘美な旋律、歌詞とのギャップ！わざと卑猥で危険な詩をのせているけど、詩がなければ、美しい旋律と奇抜なパフォーマンスしか残らない。

廃炉街のエリアなら受ける！

何より音階は特別なもの。短音階一度ミファシドが長一度に変わる。

太古の原住民が死者のために祈っていた時代、こんな音階があると聞いたことがある。

ジンタも玲子に同意していた。呪術音楽ってジャンルだろ！蠱惑師のあんたなら感じると思った。闇音楽界が面白くなりそうだ。

放火後の教室は黒焦げの鉄骨がステージに溶け合わされグロテスクな焼死体が所狭しと転がっている。どこからか童唄が聴こえてくる。

白い割烹着を着たラブロータがステージを奪う。ベッドを押す上には痴童が拘束されていた。

玲子は釘付けになり進行に魅了される。演劇的手法で構成されるライブ！

胎蔵は消えた！そして、異様なラブロータ！

背後に全身包帯アイマスクの囚人！ラブロータは不気味な風貌で肩に鴉を乗せている。

アレは何者！あたりを見渡し玲子はジンタを探した。

其の瞬間！童唄の音量が消え次の楽曲が始まっていた。

♫歌謡音頭

♪私のパパは清掃員　彼のパパはお医者様

不釣り合い　不釣り合い絶対結婚できないわ

高嶺の花は夢の花　遊ばれてるってみんな言う〜♪

合いの手が入り手拍子が響く！まつり、

みんな遠くからのお囃子でそう連想した。

次は自然と下半身の融合曲！青空うんち〜太陽ちんぽ〜さあ〜どうぞ！唱歌ボッキまんと続きます！

あらっよいよいこらっさっさ〜民謡を歌いながらラブロータは痴童の髪を引き抜いた。

この穴ほじり野郎！肉穴痴童め！

俺は昔表ののど自慢で鐘一つだった。

その時の審査員がお前だ！民謡、ロック、歌謡曲わジャズ全てのコンテストで落ちまくった俺の恨みをお前に捧げよう！

♫人間掃除機　

♪ホモタロさんホモタロさんお尻に挿した掃除機のホースに大便たれたのね♪

♪ホモタロさんホモタロさんちんぽに挿した掃除機の先からワックスたらすのね♪

客席がざわついている。

あの拷問！

豚の仮面被ったのは紛れも無い人間だ！

尻に掃除機のホース！電源入れて糞を吸い取るつもりか！サオに掃除機吸込み、無様だぜ！こんな姿会社に送られちゃあ解雇だな！

ラブロータの脱歌は続いた。

拷問の特色は、必ず清掃道具を使う。人間便器では受刑者を便器に丸ごと嵌め手に雑巾をぐるぐる巻きにして四つん這いにさせ、処刑会場の床を拭かせる。

亀の甲羅ならぬ便器を背負った姿は滑稽だ。

ラブロータは便器に足を乗せトイレブラシで髪を梳いた。痛いきゃ〜痛いきゃ〜パンチ！臭いきゃ〜臭いか〜ビーム！余りに突飛な技名に客は笑い転げ、痴童が演技していると勘違いする。

暗幕の切れ目から色白の少年が現れた。

猫の皮を剥ぎ三味線に張る職人皷ジンタである。

…ラブロータさん！剥がして良いですか。

それともまだ、いたぶりますか！

この野郎の皮、早く剥がさせてください。

頭蓋骨に面の皮張りたいです。

きっと厚いから叩きがいのある良い音がするでしょう。

玲子が見るとジンタは目配せする。

あのこ、いつの間にステージに上がったのかしら。そして、胎蔵は何処にいるの！

ショーは続いていた。

一部が終わり控室で記憶を引き摺り出すと胎蔵は紐解いた。あれは始めての表の音楽祭予選会場！替歌音楽祭！奇人変人部門なら優勝したな！

……胎蔵はあの日の歌を読んだ。

♪下ネタ寿司ネタ彼と寝た

寝たきり奥様ネタ切れた！

♪ペニスに花火巻きつける

カゲキ芸人つぎ肛門

ペニス丸焼け肛門黒焦げあ〜失敗！

♪裁ち鋏腹切り開く臓器狩り

頭に巻いてターバンだ首に巻いて襟巻だ

縄跳びしましょうホラリスト

朝の一番電車では首を回しラジオ体操をする気持ち悪いくね婆がいた。

通りかかる餓鬼が咳込んでいたらアタシのパンティマスクあげようかなんて、からかっていたな。あの姿に思わず三十年前でも貰わないよと吐き捨てたっけ！会場に着いて楽屋で他の出演者の会話聞いていた。ある奴が俺に楽器持ってないの？アカペラって訊いてきた。まあペニスに弦張って弾くスタイルが失格なら審査料返せ。

あくまで歌詞の世界の下ネタで、露出御法度ポルノショーならほかへ行けと司会者に云われた。肉体の一部を楽器にしちゃいけないのか。ワンコーラスも歌わせないで退場！腹立ったから通路で歌ったな。

俺の別人格ラブロータが出て来て、♪おもちゃのチャチャチャがうんちがべちゃべちゃ

胡麻餡子おもちゃのべちゃチャチャ！

合格する筈もなかった。あいつが出て来ちゃ音楽性は下劣だからな！

そして散歩した近くのスーパーで標的を見つけたな。万引して御目溢し願うJKに！あの時俺の人格が戻ってきた。

嬢ちゃんに言ったよ、おめこぼしであそこを日光消毒するなら許してやろうか。

知恵遅れに知恵をくれと言ってもムダか！

唖然とした顔してたな。

シュークリーム舐めながら戻ったホールでステージに上がろうとしたら、つまみ出された。君は失格だって言っただろう。

客席に降りて審査員に番外審査してもらった。♪〜キンタマリア〜は不評！さえずりうわずりせんずりは却下！なんで俺の作る歌詞は埋没するんだ。

街では新しい恋人に乗り換えている奴が溢れ、面接会場では全裸の男女がポルノワークにありつく。狂った街では毎日オーディションだ。

♪ぴちぴちギャルジャブランランランという

グループは雨降りバージョンで落ちた。

肛門拷問歌センズリ先生は審査モレ！排便隊の母さんに贈る歌が賞取り、優勝は浪速ブラザーズ！♪〜なにわの男はナニがスキ〜江戸の男はエロが好き♪なにわの男はナニが硬い金玉洗って出直してこいこい濃いぞ〜顔がアレが〜春よ来い♪〜義理人情に肝っ玉なにわの男がジャンケンすればいつでもグーだぜ殴ってやるぞエロ野郎〜！

あんな歌が優勝だ！

胡麻餡子餅一年分は彼奴等に渡った。食い物の恨みはあの時決定した。

浪速ブラザーズには鼠の活き造り！審査員にはゴキブリ蚯蚓詰合せ！郵便ポストにカミツキガメ！指食いちぎられたプロデューサー！

便器の中に鰐亀入れてアソコも食い千切らせれば良かったぜ。

今度は彼奴等一人ずつ血祭りにあげてやる。

思春期のスターの夢を奪われた屈辱は俺を闇音楽界に向けさせた原動力だ！

胎蔵は2部の為にステージに戻っていく時笑いが止まらなかった。みんな！くたばれ！今日はモエルと火でもつけてライブエンディングにするか！

楽屋でジンタはモエルに話していた。

慰問で歌った歌がヘイジュードで其の場所が不味かったのです、重度障害者施設で大受けしました。大パッシング受けました。受けました。とモエルがジンタのバカ丁寧な話し方を真似る。

ジンタ最高でございました。

そう言えばですね？

殺生会って知っておりまする？所得番付上位の人間が被害に遭っているのです。

「裏サイト！愛の園にアクセスすると繋がると言うわ！」玲子がモエルの背中から声色で話しかけた。

主催者にメンバー公募しておいた。

…仲間はまだいらないです。胎蔵の楽曲の方向性が確立するまでは！

そうなの？玲子は展望をジンタ語りかける。

あなた達残虐童子の母体が殖えるなら、増殖された憎しみが連鎖するわ。

メンバーに心あたりがあるような口振りだった。

主催者にはモエルの兄、ヒダネが会っているけど、14音階があるそうよ。

ジンタは運命的に集結するのですねと微笑した。

……

ジンタは出掛けに町会の掲示板で近所に住む

藝人の訃報を知った。だが、誰が死のうと時は普通に流れて行く。人は大切な人を無くさない為に結婚という契約をしたがる。邪道だよ！ジンタはいつになく心理の琴線を震わせた。人間が腐る前なら僕だってまともな楽器職人として生きてきた。

不払いの金を返して下さい。表のミュージシャン達よ！表にでれない人間の恨みは根深いですよ。犯罪者を両親に持つ僕は裏の世界で自分の才能を活かすしかありません。

いつかあなた達を裏の音楽でシバいてさしあげましょう。

ステージではショーの合間の憑物が離れたみたいに律子が洗濯機から出て来た。

中の男は昇天したままだ。自業自得だ！

表のミュージシャンは一人ずつ裁かれて行けば良い。想い返し、ペット葬儀社の荷台では痴童や豚彦の骨が猫の死骸と固まっている。

人体楽器に使用する皮と骨以外は焼却だ。ライブ授業を受けたが履修科目単位不足で落第！退学した豚彦の面の皮は太鼓に張ろう。同じ様に留年放校処分を受けた痴童の喉仏と頭蓋骨はあの楽器にしょう！

次次に楽器のイメージは沸いてきた。

こいつ等の処分を今週しなければ、ライブが終わる度に猫の死体と皮が増える。河原で焼却トラックの骨を細かく砕く為ミキサーにかける。後は自然葬だ。

仕事を終え帰路に就く電車の中に修理未納の音楽プロデューサーを発見して後をつけるグラウンドで見失う。草の絡むフェンスの間にCDケースが挟まっていた。小学生の頃校庭で拾った宝物を思い蓋を開け魔肌邪の音盤を空に向けて飛ばしたら宙を舞い空間に溶け込んだ。

処刑ライブは次の闇裏音楽祭(ヤミュウラ)まだメンバーは僕と胎蔵しかいない。ラブロータはパフォーマンスメンバーで影武者がやる。アンサンブルには実質的メンバー必要だ。未知のメンバーがどれ程残虐度が合うか不明だ。。技量、ステージ映え！波長！胎蔵の歌曲を歌える14音階の人間でサウンドに厚みが欲しい。ジンタは試行錯誤していた。純粋に音楽に関わりたい。だからショービジネスのやり方が納得できない。好きな物を好きなようにやる。スポンサーに媚びを売る必要もない。だから胎蔵と組んだ。彼の音楽性とマスコミに媚びないやり方に僕は共感したんだ。

…なぜ、世の中の通り魔は有名人を狙わないのか！

見ず知らずの人間の方が標的にしやすいからか。著名人有名人をターゲットにする犯罪組織は無いのか！ジンタはその可能性を次元宗教団体萬苔教にあるのでは無いかと密に願ってしまった。

海で拾った黄色い宝玉は後に胎蔵に拘ってくる。

♪涙が数珠になる朝

世界のどこかで街が燃え　子供が逃げてく絵が見える

文化を滅ぼす人達に歌の嘆きは届かない

だから涙がとまらない　伝えきれないもどかしさだけ

愛を欲しがる君にさえ望み一つも与えられない

世界で誰かが呼んだって僕は聞こえぬふりをする

声の届かぬ水の底逃げて知らないふりをする

だから誰かが凍えても僕の時間は止まらない

そうさ救いも囁きも祈る叫びも響かないから

世界のどこかで恋人が愛を語っている時に

背中合せの暗闇で飢えて消えてく人もいる

輪廻の日々をめくったら滅びといのち繰り返す

人は涙で救えない　より強い力とはなんだろう

世界のどこかで國が消え　荒れた大地に花は咲く

そして全ては周ってく時はそうして続くだけ

一部終わり！