闇神性児

水瓶

第1話歌々愛胎蔵

胎蔵は肋を掻き毟る!人体楽器製作者皷ジンタにより創られた人体改造楽器!肋に張られた32弦はハープの音色を奏でる。そして、ペニスに張られたベース弦はメロディベースを速弾きする。その異様な演奏スタイルに人々は嫌悪感を抱き胎蔵の歌唱のだみ声、猥褻な歌詞に音楽を愚弄するにも程があると賤しむ。悪魔の生まれ変わりか?海岸で拾った溺死体の生首を飾り歌ういや、呻く胎蔵の物悲しくも切ない死のバラード!海鼠難民や性被爆者達が集う廃炉街、ライブハウス放火後の教室にフリークス達は先祖返りし、魚介族、鳥獣族等に戻る!ミとファ、シとドの間に半音階を創る胎蔵の声帯!14音階の歌曲、万苔教聖典を歌える数少ないシンガー、彼はまだその事実を知らなかった。


残虐童子誕生ノ章


胎蔵は子供の頃から異質であった。貧しくて学用品も買えず盗む事で補い、また勉強も蛙の解剖以外興味が無く、家庭環境に鬱憤しては、緑色に執着し標本作りに明け暮れていた。小学生の時に公衆電話に貼られていたセピア写真から、SMショーに興味を持ち、歓楽街のバーで働くOLの園児を自宅監禁し尻に火傷を負わせ唇を三つ口に変えようとした時、劇場のマネージャーに捕まり強制的に脂臭い厨房で下働をさせられた。

調理場の揚物の香りは感動の連続であった。

包丁で捌く魚の衝激に心躍り、いつか生きた人間も心臓を抜き取り解剖したいという欲求が芽生えた。子豚を丸ごと解体調理は胎蔵に言いようの無い新たな実験を与えた。

また、生きた鹿の内蔵を捌くとき、血塗れの手のひらを眺め恍惚とした。

鶏や犬の時は感動の余りビデオ撮影もした。

悪魔のシェフとして、将来を切実に願う自分に魔王の可能性も見た。

次の興味対象は、TVから流れたサーカス団の聾唖音楽家の弾くバンドネオンであった。今まで聴いたこともない人間の切なさに翌週楽器屋から盗むと、独学で覚え始めた。

母親の働く劇場でバンドネオンで弾くメロディは哀愁を帯びて、酔客や、スタッフからチップを貰うこともあった。

詩を乗せるともっとチップが増えると思ったが、卑猥な歌詞で尚かつ悪声の為メロディは綺麗だが詩は無いほうが良いと劇場から止められた。

ストリッパーの母、姫子は胎蔵や妹の父については言わなかった。

妹は客との間、胎蔵は某代議士の子だと中学になると教わったが、明日大金が入るから引っ越そうと言ったその翌日に楽屋で首吊自殺で発見された。矢蟻マネージャーは胎蔵に養子になるかと聞いたが、歌々愛姓を捨てたく無いと断った。

縁組したらヤリタイゾーでシャレにならないからだ。


🎼 胎蔵母の記憶!


緑色の小鳥がディジーの蜜を吸うベランダで母は憩っていた。大好きなワインの香りを鼻から抜き籐の椅子に揺られ今夜のショーの演出を考えていた、そして2時間後ショーが始まる。フラミンゴの衣裳を選んだのは息子だ。母さんはピンクが似合うその言葉を胸にステージに一歩踏み出していく瞬間が彼女は好きだった。

観客が魅入っていく、今夜は鳥獣議員が集まっている。カナリアの美声声帯が2つあるから限りなく母の音階は上がる。バスからソプラノ、歌々愛姫子は此処では花形だ。Women国際女優、ショーは佳境に入る。

地底獣の解体が始まり鳥獣議員は食卓を囲む。半魚人のショー奇形獣との絡み。深海族、海鼠難民、性被爆者達が野次る!

深海族はみな同じ顔をしている。

整形手術で人類を模写した顔立ちだ。

彼女は憶ひ出した!私の産まれた国では歌を歌うと死刑だった。

この國はまだ芸能が許されている。人類の生き残りが見世物に成り果ててもまだ歌う自由がある。


🎼 劇場シーン!胎蔵母の死!


絶望の未来はそして訪れた。あまりにも酷い母の検死が終わってから、バンドネオンを抱え柩に座ると死者を弔う歌の練習を胎蔵はホールで続けた。支配人は彼を柩から離そうと努めたが一月余り離れなかった。🎵皮を剥がされた女はこの時の歌だ。明日大金が入るなんて、母さんが入ったのは、棺桶じゃないか!臓器抜き取られて闇のマーケットで売られちゃあ38の人生は骨だらけで終焉かい!

最近別荘を買った半魚人のシェフは慰めてくれた。目玉が無きゃ地獄でも杖が無きゃな!

良い事もあるさ、あの世でも何も盗られないぜ!シェフは9歳の時に水泳と自慰を教えてくれた師匠である。少年愛の性癖故よく、近所の子供にも、薬を飲ませ改造手術を行っていた。

葬式箱の収入と併せても生活が苦しいので、胎蔵は次の手段を考えていた、

未成年の胎蔵は歌唄いとして世の中の莫迦な人間に何れ歌によって復讐する為劇場デビュー出来るか評価してもらう為、最近金回りが良くなった性支配人に懇願して前座として食い扶持を確保する。

その後ようやく、母の遺骸は火葬された。

辛い事や悲しい事を忘れる為胎蔵はあえて、下品な歌詞に優雅なメロディを乗せた。

本来の思い出を切り取る(工作的)塗り替える(絵画的)縫い合わす(手芸的)作詞法は止めた。

6歳の時に引き取られた二つ違いの妹は胎蔵が14の時ラブホテルで首無し死体で発見された。犯人の歌舞伎役者は自宅に首を飾り鑑賞していたという。

胎蔵は生活能力の無い事を嘆いた。恐らく一生胎蔵の心に封印されて行く。

…あんたを間違えて育ててしまったね、もう少しまともな親に育てられたらあんたも普通になれたのに、母親の今際の際の言葉が回転する。お母さん、僕の何処が普通じゃ無いんだ。解剖や陳列は人間の本能だろう!

僕は本能のまま生きていく。その為には邪魔なものは排斥する。それが世の中だろう!

胎蔵がこの時期に創った楽曲の殆どが愛欲と地獄の風景描写だった。

鳩や小猫等殺し飾る事を覚えたのもこの頃だ。内蔵を抜き血抜きもして保存状態も良かった。葬式箱!という物を何個も作り標本を通学路に並べては眼の前で撤去され連行された。

だが、彼が身寄りもなく、愛する母親を亡くした哀しみから葬式箱を作って供養したと言うと、それ以上問い詰められず哀憫の瞳で胎蔵は見られ、福祉関係の人からは夕食までご馳走になった。

 

🎼 通学路の葬式箱!


綺麗な赤や虹色ね 何が入っているのかしら?足を止め通りゆく人は宝石を想像するがしじみは何が入っているか透視できた。

葬式箱は五つある。目箱耳箱鼻箱舌箱指箱、それぞれの部位が入っている。買うとその機能が鋭敏に現れ身に着けていると効果が持続する。自分の望む物を箱に入れるとその機能が増えるけど、変わりに身体の一部を闇に奪われる。豚の脳を入れた人間は指が全部取られてしまった。覚悟で買う人には特殊能力に開花する種族もいる。例えば半魚人や、獣人等、1~指箱には指が 2~舌箱には舌が 3~耳箱には耳が 4~鼻箱には鼻が 5~目箱には眼球が入っていた。身に着けるとその機能が鋭敏になる。例えば耳箱を身に着けると犬の聴覚が手に入るという。ピアニストは指箱を買った。指がもう一本増えれば演奏に幅がでる。詐欺師や声優は舌箱を買った。舌が4枚になり滑舌が優れた。外科医は目箱を欲した。未来の自分の破滅が見えた。

忌まわしい少年だ!通学路で売られているその他の葬式箱には動物や昆虫の死骸が入っている。はずれ商品だがその方が価格が高く設定されている。


🎼 貝柱姉妹

 

妖精症候群の発症からしじみはスズメバチを呼ぶ大地族の能力を発現させた。森の声を聴き分け毒虫等も呼ぶ。大地目ヒト科!

…この子は昔から不思議なの、スズメバチが寄ってきて全身を覆っても平気だったし、ある時私が暴漢に襲われた時蜘蛛の巣を敵のナイフに絡めてくれたし、ただその能力を使う様になってから縮んでいったの!妖精症候群の発症から発現したかのように、森の声が聴こえると囁いたり、空に指を回して雲の形を変えて見せてくれた。 

おねえさん!空の声が聴こえたよ!鳥が目玉を食べに来るよ!おねえさんを襲った強姦魔は禿鷹に顔を啄まれてしまう。

私は海に行けば魚を呼べるし、森に行けば虫や獣を呼べる。この力は病気になってから顕著になったわ!


しじみは劇場裏のアパートで約やかに暮らしてた頃を思う。偽りの家族として、11年過ごした。あの日からだ、停職した伯父が私達を見る目が違うのを姉のあさりは気付いていた。お風呂の硝子越しに伯父の影、脱衣場から漏れる息遣い、唾液の着いた下着を手に取り私は考えた。いつもこうだ、洗濯すると言っても限度を超えていた。

あさりはしじみと逃げた日を思い出した!


そして何の因縁だろう、あの日葬式箱を売ってた少年が避難先のメビリ病院にいるとは!時たま襲う頭痛に伴う予知夢にあさりは震えた。


🎼人の果て水族館


胎蔵の惟一の息抜きは水族館で人魚達と話す事だった。清掃の仕事が無い午後はよく館内を周りスケッチをしては和んだ。レストランで会話する家族を見る度に母親と食事した記憶が甦り当たり前の事の懐かしさに感傷的になった。幸福だった事も俺にはあった。人間性回帰の瞬間であった。スケッチブックから落ちた木炭を拾い自分にも絵心があったのかと驚く。眠っていた才能は急速に目醒めるものだ、子供達に褒められ絵をあげては喜ばれた。だが子供達が家に帰った後で、親からその絵を取り上げられていた事は知らなかった。串刺の金玉と胎蔵の連絡先が書いてあったからだ!


 半魚人通りを行くと人の果て水族館別棟がある。異種の生物が水槽内で泳ぐ。元は人間だった奴も鱗やヒレをつけ鰓呼吸する。胎蔵は龍骨海岸やこの場所も好きだった。ある時、深海族の標本を眺めていた姉妹に胎蔵は声をかけてみた。振り向いた娘は澄んだ碧の眼を煌やかせた。胎蔵の膝ほども無い人形の様な娘は貝柱しじみだった。しじみより頭2つほど背の高い姉のあさりは厭な顔をした。

スケッチブックに数秒で描いた似顔絵!

胎蔵は姉妹に渡した日を思い出した。あの日、キツく棄てられたな!そんな、怒る事じゃ無いのに!

あさりは胎蔵を睨み返した!

しじみ!その絵は捨てなさい!あなたの顔が逆さ!おでこに唇、鼻孔が上、頬に眼があるなんて、あさりは胎蔵に絵を突き返した。何という構図なの、この様な不気味な絵は受け取れません。何故なんだと胎蔵は突っかかったが、あさりは告げた。

あなたはアーティストだけど、表現は歌の方が合っている筈!

胎蔵はその表現に微笑むと告げた。アンタとは近い未来また遭うかもな!

その絵をあげた子は鳥になる運命をもっている。この世界が転移したら俺達は遭うかもな!

離れた後にしじみは話しかけた、あの人の声、いつも聴いてた、劇場のシンガー!あさりのアパートに夜な夜な聴こえる猥雑なネオンの悲鳴、胎蔵の気色悪い唄声が窓から漏れ地獄の呻き声だとしじみは怯えた。お姉さんこの猥雑な歌詞は隣の劇場から聴こえるけど歌っているのは人かしら獣かしら!

あの歌が聴こえると海鼠難民や、性被爆者達が闊歩する。何かを呼んでいるのかしら!

さあ、でも音程が異常ね!フラットしているのか、そういう楽曲なのか!詩は下品だけど、メロディーは斬新、特殊なオブラートが好む人には快感になる。病みつきになっていく、私にドス黒い悪意が漲る。


しじみは水族館で絵を描かれてから眼が痒いと言い始めた。なぜかしら!最近眼の中で何かが動くの。あさりはしじみの左眼が貝のように斧形になっていく事に気付いた。まさか!深海の伝説、セアイが現れる兆しかも!

光ある世界へ導く妖精の存在を信じた。

あさりを見上げ指を入れ眼球をひっくり返すしじみに驚く。

あなた!痛くないの!

洗面所の鏡に腕を延ばししじみは答える。

ええ〜、裏返した血管を凝視すると小さな光彩が跳ねた。

爪の上にくっつくそれは、孵化する卵の様だった。

産まれるかもね!しじみ! あなた宿主に選ばれたのよ!


🎼 龍骨海岸


浜に打ち上げられた船の残骸が子供達の遊び場になっている。獣骨海岸では海鼠難民や性被爆者が流れ着いた生活用品で共存していた。

街の者が滅多に降りてくる事のないスラムになぜ彼女は案内されたのか知らなかった。

玲子は梶にたずねた、あなたが会わせたかったミュージシャンって彼なの!

何なのあの下品な生き物は、砂浜で穴を掘っては尻を剥き糞を捻っては砂をまぶしおにぎりコロコロ転がしているわ。

口から卑猥な事だけ繰り返す彼はまともな神経を持たない、原人か猿以下だわ!

玲子の差別的会話に梶は頷いた。

話し掛ける機会を待つかい?

自分で小屋を建てる知恵はあるようだ。

波に向かい下半身を弄る彼の痴態を横に、深海族は地底獣の丸焼きを食べ次の食材を探していた。彼等は胎蔵の未知の能力を翌週体験する。

…半魚人シェフに監禁され口を三つ口にされ性奴隷になった少年を逃した胎蔵は窃盗の濡衣を着せられ劇場を追い出された。

胎蔵は海にバラックを建て生活していた。

或日、小島で遊ぶ人魚が浜に流れ着いた。網にかかり漁民の子に甚振られ、瀕死の人魚!子供の一人は海水を出す為腹を踏みつけていた。口から小魚と共に指や泥も溢れる。

漁民の子供が遊び飽き去ったあと、胎蔵は人面人魚に近付く。そんな風景を梶は橋の上から遠目に見つめていた。

頭がおかしいのか、人魚を突き回し尚且毛むくじゃらの陰部を露呈し自慰を行い呻き潮風を吸いこむ。

イグアナ犬を散歩する玲子は恐る恐る近づき声をかける。なんて子なの、さっきの子もあなたも、人前で射精して人魚を冒涜する。変質者!

薄ら笑いを浮かべた胎蔵は振り向くとバンドネオンを奏で葬いの歌をスキャットした。浅瀬が盛り上がり波が壁になると胎蔵の背後に現れた。海が割れるぜ!こんなのは何年ぶりの快挙かな!

高らかに笑う胎蔵の姿に玲子は叫喚した。

あなたは、マジシャン!ミュージシャン!

初めて体験する14音階の神秘に玲子は魂を凍りつかせる。

その反抗心で歌うの!

意味不明な詩が付くとあとから来た梶も寒気を覺える。

何なのだ!この巨根シンガーは!

🎶人面人魚!地元民の反感を買う。

彼女!この漁村の守神だから!と告げた!

彼等が観ている間際、人魚が息を吹き返し海へ戻って行った。

俺の精子が効いたかな!胎蔵は彼等の耳元で囁いた。劇場を出てから海がライブハウスさ!深海族が三口少年と交尾してファックインウォークでBBQ!で騒いでいる。

尻に槍を刺された地底獣が丸焼きにされている。ああ〜これじゃあ腹の足しにならん!彼処に居る女が連れているイグアナ犬、あれは、金持ちしかペットに出来ない!誰か、掻っ攫って丸焼きにするか!

悪巧みの会話に胎蔵はキツい視線で脅した。お前等も波に飲み込ませようか!

海鼠難民の分際で、人間に逆らう輩よ!

深海族が一瞬、退いた。

梶は胎蔵の腕を引き此処で問題は起こすなと忠告する。

街で歌いたいなら、一度覗きに来いよと、

自分で営っているライブハウスに勧誘した。


🎼 放火後の教室!


何という居心地の良い空間だと胎蔵は思った。焼け落ちた天井、燻ぶっている柱、焦げた机や椅子が乱雑に並んでいる。背中に羽が生え空を翔べそうな場所だな!

かって惨劇でもあったのか、胎蔵の言葉に骨笛を吹いていた少年が呟いた。

君にも霊が見えるのかい。

面白いサンプルを手に入れたね、 

…数少ない生き残りのヒト科巨根族!

玲子は紹介し背中を軽く押すと少年の方へ誘導する。

彼は楽器製作者の鼓ジンタ!

何という透き通った眼をした少年だと胎蔵は一瞬見惚れてしまった。

僕に君が奏でる楽器を製作させてくれるね?!

ペニスベースはこの時、人体改造楽器としてジンタの脳裡に浮かんだ。

楽器の構想が膨らむね!弦鳴楽器アパッチフィドル!龍舌蘭サックにシンボルを入れ演奏させるか?弦を増やしペニスフィドル5弦バージョンに変えるかな?

……手術台の上で胎蔵は声を聴いていた。

無理だろうな楽器の形状で、俺の身体に合体させるのは、麻酔の効いてない上半身で拒んだが安心しろの一点張りで改造は始まって行った。

巨根族のペニスに血管の弦を張るなんて皮が厚いから血管弦を通す穴も増やす事が出きる、弦鳴楽器の新たな可能性!

まさか待ち望んでいた古の楽器!ペニスベースが創れるなんて!

肋に結合した骨輪とギアの角度は調節できる。コードバーも増やせる。

あと弾き方だが通常肋ハープはアルペジオ、ギアを外すと変則チューニングになる。

ペニスフィドルは弓奏、いや、撥弦、ジンタは血管弦を捻り合わせ試行錯誤を繰り返す。

本体はベースに落ち着く。龍舌蘭サックに交換すればフィドルになる。

これは革新的な発想だ!

丸一昼夜の人体改造で彼の忌わしく呪われた楽器!アバラハープとペニスベース=フィドルは完成した。


🎼 胎蔵お披露目


暗闇から聴こえる美しくも哀しい旋律に観客は啜り泣きそれぞれの災厄を追憶した。スポットライトが届く寸前まで人として生きてきた破滅前の生活を懐古しては物悲しい響きに触れ感動していた。ある者は真昼の風にそよぐ睫毛に受けた陽射しの温もりに、ゆりかごに揺られた幼子に戻り微睡み、辛い記憶をあれは全て夢だったのだとすり替えていた。

しかし、幻想も胎蔵の顔と胸に青い日があたる頃現実に佇む客は楽器を持たない姿に奇妙な恐れを抱く。

あのステージの彼はどんな楽器で哀しい旋律を奏でているのか?

客は想像した。この楽器は、弦鳴楽器!なん弦なのか!

ハーモニーが多いから12弦、或いはクロマハープ系統か!楽器を推測してライトが下がり局部に移った時、客は息を呑んだ!

何をしている!あのミュージシャンは指に弦を張りペニスを撥弦している。

あれは、アパッチが使っていた弓奏楽器、フィドルか!いや古の楽器ペニスフィドル!彼の音色がこんなにも切なく響くとは!

また視線を少し持ち上げ二重に驚く。

アバラにも弦が張られているのか!


……地下貯蔵庫には屍体が山積みになっている。俺はこの風景が好きだ!

人は花々や自然の風景を愛する莫迦もいるが糞食らえだ!

精神が落ち着くんだ、荒廃した破滅のなかが〜!

…陽光が照り返す波間に揺れるある日、遠出して気分を変えた胎蔵は美しい楽曲を創るため砂を五線紙に変え譜割りしていた。

旅に出るという事は違った景色を求めるよりも空気を嗅ぎに行くものかも知れない。寄せては引く永遠の循環、全てが産まれる海の息吹、魂の鼓動を感じ眼を閉じると一つ美しいメロディが産まれた。手の温もりを確かめ合いながら恋人達が通り過ぎていく。そんな時である絶叫とも取れる声の元を辿ると海辺に漂着した楕円形の塊を見つけた。

黒いビニール袋に包まれたその塊を胎蔵は手に取り重さを実感した。

この質量はもしやと高鳴る鼓動のまま恐る恐る袋を破ると恍惚感が漲った。

この宝物をステージに置いて歌ったら衝撃的なショーが出来ると彼は考えた。

彼が拾ったのは殺されたお笑い芸人の頭蓋骨が陥没した頭部であった。前歯のない口で何かを咥えていた。ビー玉程の黄色い宝玉をポケットに仕舞うと肩に載せて記念撮影をした。漁民の誰かの通報か第一発見者が容疑者になる前に逃走した。

…自室に戻り顔に化粧してある因縁を感じる!死者が出ていた環境ビデオで追悼して窓に飾りパフォーマンス材料と考えたが、近隣からのクレームと腐乱臭の強さに断念せざる得なかった!

せめてもの供養で写真を配信したが炎上してヘイトスピーチの対象になる。ハンドルネームを大統領にして教育団体に送り歓喜した。

胎蔵は闇音楽界でオカルトシンガーとして実績を積んでいた。


……人を殺さなくたって悪いやつはたくさんいる!

殺したって良い奴もいる!この不条理は人間社会が法で出来上がっているからかもしれない!無法地帯なら善悪の基準も変わっていく。










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