1-6その2
いよいよ、帰りのバスが出発します。
「はい、バスに乗ってください。学校に帰りますよ!」
花山先生の掛け声で、みんな並んでバスに乗車しました。そして、所長さんと食堂長さんが見守る中、バスは観察基地を出発しました。
バスの中では相棒の名前についてみんなでワイワイガヤガヤやっていました。ユウトは自分の相棒に早くから名前をつけていたので、もっぱらみんながつける名前について、相談に乗っていました。
「ヒパクロサウルスだから、ヒッピーが良いんじゃないか?」
「アンキロサウルスだと、アッキーだね。」
ケイタとソウタは、バスの後ろにお父さんの車がついて来ていないことに気がつきました。一緒に帰ると言っていたので、心配になって花山先生に聞いてみました。
「父さん、じゃなかった。速間教授も一緒に帰ると言ってたのですが、何か聞いていますか?」
すると、花山先生は深刻な顔で答えました。
「お父さんと遠山先生は、先にゲートのところに行ったわ。そこで記者会見するそうよ。」
ソウタはピンときました。
「ひょっとして新種発見の記者会見?」
花山先生は答えました。
「そうよ。ケイタくんとあなたも一緒に出るそうよ。」
ケイタは驚きました。
「僕も出るの?」
「そうよ。捕まえたのはあなたたちですからね。」
花山先生は言いました。クラスのみんなは
「テレビもくるの?」
「すげぇ、有名人じゃん!」
「いいなぁ。おれも映りたいなぁ。」
などと好き勝手なことを言っていましたが、花山先生は続けました。
「さっき遠山先生から連絡が来たのだけど、どうやら、マスコミの人たちが殺気だっているみたいなのよ。」
「えっ、何でですか?」
ケイタは聞きました。
「なんでジャングルに入れないのか!とか言っているみたい。この島のことあまり知らない人が多くて・・・。警察にも食ってかかったりしてるんだって。子どもが出て行って大丈夫かしら・・・。」
そうこうしているうちに、いつのまにか入っていたトンネルの出口付近までバスは来てしまいました。トンネルを抜けゲートまで来ると、ゲートの向こうにパラボラアンテナがついた車がたくさん止まって騒然としているのがわかりました。
「来たぞ!」
ゲートの向こうで声が上がると、ゲートを倒さんかの勢いてカメラマンが押し寄せて、カメラが一斉にバスの方に向きました。
「このゲートの外に恐竜を持ち出すには手続きが必要です。しばらくお待ちください!」
お父さんが叫んでいるのが聞こえます。
「早くしてよ!昼のワイドショーに間に合わないじゃない!」
レポーターの女性が遠山先生に文句を言っているのもわかりました。
「こえー。」
ユウトがつぶやきました。
「よかった、俺じゃなくて。」
ユウトの言う通りです。ケイタとソウタは怖気付いてしまいました。
ゲートの係員は全く動じず、恐竜のICチップの登録番号と一覧表の照合を粛々と進めていました。通常の手続きなのですが、何をしているか理解していないガラの悪いカメラマンは、係員に向かって、
「はやくしろよ!」
と悪態をつきました。するとそこへ、行きにソウタとユウトを注意した警察官が現れて、そのカメラマンに一言、
「静かにしてもらえますか?」
と、また真顔で注意しました。すると、カメラマンは、バツが悪そうにおとなしく去っていきました。
「あれ、おとなにも効くんだな。」
ユウトとソウタは感心しました。
特に混乱はなく、恐竜を持ち出す手続きが完了しました。いよいよ記者会見です。
ケイタとソウタはみんなより一足先にゲートをくぐりました。ソウタのハヤマケラトプスは花山先生に託したので安心です。ケイタは古鳥類の子どもがいるゲージを持って交番の会議室に向かい、ソウタもその後ろについて行きました。途中、例の注意をした警察官がソウタに今までと全く違った優しい笑顔で、
「がんばってね!」
と声をかけてくれました。ソウタは声をかけてもらったおかげで、勇気がわいてきました。元気よく、
「はい!がんばります。」
と返事をして、会場へ向かいました。
「各社、質問者は一人で、カメラも一台のみでお願いします。」
会場では、申し合わせたわけではないのですが、地元の新聞社の人が仕切ってくれました。そのおかげでマスコミ各社の会場入りはスムーズでした。遠山先生はどうなることかと心配していたので、ほっとして、その記者さんたちに
「ありがとうございます。助かりました。」
とお礼を言いました。すると、地元の記者さんは
「本社主導だと、我々はやることないですからね。地元の人間としては、これぐらいは働かないとね!」
と、苦笑いしていました。
交番の会議室には長机が一つ置かれ、その前にたくさんカメラとレポーターや記者が並んでいます。机のところでお父さんが話し始めました。
「本日は遠路はるばる取材いただきありがとうございます。私は羽山国立大学理学部生物学科恐竜学教授の速間一成と申します。昨日発見された新種は恐竜と鳥の中間におりますエナンティオルニス類と呼ばれている種類の生物で、恐竜から鳥へと進化する過程を解き明かす大変重要な存在です。それでは早速皆さまに公開したいと思いますが、いくつかご協力お願いします。貴重な生物ですので、何かあったら大変です。フラッシュや強い照明は控えていただきますようお願いいたします。また、発見した子どもたちは今現在、校外学習の真っ最中なので、申し訳ございませんか、時間は三十分程度にさせていただきます。」
お父さんの説明が終わると、古鳥類の子どもがいるゲージを持った遠山先生を先頭にケイタとソウタは会議室に入り、お父さんの横に並びました。そして、古鳥類の子どもが入ったゲージが机に置かれました。三人とも歩き方がわからなくなるほど緊張していました。お父さんは再び話しました。
「こちらが新種の古鳥になります。なにぶん発見されたのが昨日の今日で運搬用のゲージしかなく、見づらいのはご容赦願います。」
シャッターの音が一斉になりだしました。しかし、質問者の反応は微妙でした。古鳥類の子どもはシャッターの音に驚き怯えて小さくなり、背中の羽毛を逆立ててキョロキョロしています。その行動はまさに鳥そのものです。そして、一声
「ア゙ー」
と鳴きました。その鳴き声を聞いて、カメラマンの一人がボソッと、
「ただのカラスじゃねえか・・・。」
と毒つきました。どうやら素人には、多少変わった色付きカラスぐらいにしか見えないようでした。
お父さんはその反応を見て、ホッとしました。どうやらケイタが、十年まえのハヤマケラトプスの時のようにカメラに追いかけ回されたりすることはなさそうです。しかし、研究者としては、この素晴らしい発見が大衆の興味をひかないことに、少し残念な気持ちになりました。
「真ん中の少年が、今回この古鳥を発見、捕獲した本橋小学校四年生速間慶太くんです。両脇におりますのは、捕獲を手伝った引率の教員である羽山県教育委員会の遠山吉之助さんと同じく四年生速間聡太くんです。」
お父さんが三人を軽く紹介した後、遠山先生が後を受けて話しました。
「羽山県では、恐竜保護を小学校教育の一環に取り入れており、校外教育として小学四年時に例年恐竜探検を実施しています。今回の発見はその恐竜探検の際に起こりました。恐竜保護を通じた教育については話すと長くなりますので、県のホームページ等を参照いただければと思います。新種を発見、保護した経緯ですが・・・」
遠山先生が捕まえた時の様子をうまくまとめて説明していましたが、どうやらマスコミの多くは興味を失っているようでした。ただし、どこかのワイドショーのレポーターとして来た、鳥芸人の鳥山くんだけは大興奮して、大げさなリアクションしており、他のレポーターから冷たい視線をあびていました。
遠山先生の説明が終わると、質疑応答が始まりました。質問は、発見した時の気持ちとか、怖くなかったかとか、ケイタとソウタは双子なのか(速間教授と親子なのかはスルーされましたが・・・)とか、通り一遍の感想を聞くだけで、捕まえた古鳥にはあまり興味がなさそうな質問ばかりでした。しかし、鳥山くんだけは
「ちょ、ちょ、ちょー、すごい発見です。翼に爪があるんですか?」
「何を食べるのか、判明していますか?」
「足の形状は?」
と、とてもマニアックな質問をして、他のマスコミの人たちを失笑させていました。しかし、お父さんだけはちょっとだけ嬉しそうに、簡潔かつ丁寧に回答していました。
質疑応答も終わり、最後に撮影という段取りになりました。
「最後に撮影の時間をとります。カメラマンの方は前にどうぞ。」
お父さんがマスコミの人たちに声をかけると、カメラを持った人たちが一斉に前に出て来ました。すると、古鳥類の子どもはビックリして、またもゲージの鍵を器用に外し扉をバンと開けて飛び出しました。そして、またまたケイタの肩に乗って、カメラマンに向かって、
「ア゙ー、ア゙ー」
と叫びました。
予想外にフォトジェニックな構図になったので、カメラマンは一様に喜びました。先程毒ついていたカメラマンも、
「よく仕込んでいるねぇ!」
と冗談を言いながら、速間教授も含めたフォーショットと古鳥類の子供を画像におさめていました。鳥山くんも興奮しながら、
「ちょ、ちょ、ちょー、ビックリてすぅ!賢そうな子ですね!」
と、叫んでいました。
マスコミの人たちは、最後にいい絵が撮れたので、満足して帰って行きました。鳥山くんだけは、お父さんや遠山先生と名刺交換して、また取材にくる約束をして別れました。
なんとか、新種発見の記者会見は無事済んだようでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます