第六話 相棒を連れて帰ろう!恐竜探検完了
1-6その1
今日はいよいよ相棒と一緒に帰る日です。朝、部屋をきれいに片付けてたら、朝食を食べ、お礼の会をして、相棒と一緒に観察基地を出発します。予定では、学校には一時くらい到着し、終わりの会をしてから解散です。
「朝食まであと十分よ。そろそろ集合しなさいね!」
みんな早起きしていたので、花山先生の声かけで、すぐに食堂へ集まってきました。
朝食の間、ソウタは
「もう帰るのか・・・。」
とつぶやき、ちょっと寂しそうです。
「楽しかったね。本当に・・・。」
ケイタも残念そうです。しかし、ミサキが、
「しっかりしないと、あなた達は相棒を連れて帰るのだから、まだまだ恐竜探検は始まりに過ぎないじゃない。」
と、叱咤激励してくれたので、二人とも気を取り直しました。でも、良く考えると、ミサキは相棒を見つけられませんでした。二人のように百点満足の子ばかりじゃないことに気が付き、ちょっと申し訳ない気持ちになりました。二人はミサキに、
「ミサキ、そうだよね。ごめんね。」
と謝りました。
朝食が終わったら、相棒の恐竜を引き取りに行きます。
「パッキー、一緒に帰るぞ!」
ユウトは相棒に話しかけました。
「クアー、クゥワー」
相棒のパッキーも答えました。なかなかのコンビネーションです。
パッキーは、今日はおとなしくしています。しかし、ソウタのハヤマケラトプスは、今日も、やんちゃにゲージのなかで暴れています。ハヤマケラトプスのノコギリで、ゲージの中は早くも傷だらけです。
「そうだ、僕もこの子に名前をつけてあげよう。」
ソウタは考えました。その方がユウトみたいに仲良くなれるかもしれません。
「パッキーは、パキケファロサウルスからつけたんだろうから…よし、ケラに決めた!」
「ソウタ、それじゃあ、適当過ぎだよ・・・。トリケラか、ハヤマかすらわからないじゃん。」
ユウトは言いました。
ソウタは、
「とりあえず、愛称だから・・・。」
と言いながら、ゲージの中の相棒に話しかけてみました。
「よろしくな!ケラ!」
すると、暴れていたケラはピタッと動きを止め、ソウタを見つめて、
「フォアー!」
と鳴きました。それはまるで挨拶をしたみたいでした。その後は、落ち着いたのか、ゲージの中でもおとなしくなり、時折、ソウタの見て
「フォー。」
と鳴いてソウタを呼ぶそぶりをするようになりました。
ユウトは、
「ほらな!名前つけてやると仲良くなれるんだよ!」
と、鼻高々で、ソウタに自慢しました。ソウタも、こればっかりは同意せざる得ませんでした。
さて、ケイタのゲージの中にも、名前がまだ決まっていない古鳥類の子どもがいました。しかも、学名すら決まっていません。
「とりあえず、学名がまだ決まっていないのはしょうがないとしても、呼び名は決めなきゃ不便だな。」
ケイタは言いました。その声が聞こえたのか、その古鳥類の子どもは起きて、
「ア゙ー」
と、鳴きました。すると、みんなは古鳥類の鳴き声を珍しがって、ぞろぞろと集まってきました。
「あっ、新種が鳴いてる!」
「カラスみたい?ちょっと違うか。」
「変わった鳴き声ね。」
すると、わらわらと集まってくる人に、古鳥類の子どもはびっくりしたようで、
「アア゙ー」
と鳴いて、バタバタしました。そして、ゲージのスライド式の鍵を器用に外し、扉をバン!と開けて飛び出してしまいました!
「あっ、逃げちゃう!」
ケイタが叫びました。人類の宝で生きた化石が飛んで行ってしまう!と、頭が真っ白になりかけた瞬間、古鳥類の子どもはケイタの肩にとまり、
「ア゙ー、ア゙ー」
とみんなに向かって叫びました。
ケンジは、
「すごいな。逃げるどころか肩に乗ったよ。」
ミサキは
「ケイタくんが守ってくれるって、わかってるのかもね。」
と、びっくりして言いました。
花山先生が
「お礼の会の時間ですよ。そろそろ集まってください。」
と声をかけたのですが、ケイタの肩に古鳥類の子どもが乗っているのを見て、
「ゲージから恐竜を出してはダメです!早く入れてください!って、あれ?なんで逃げないの?」
注意しつつも、不思議がっていました。
お礼の会の司会は恐竜探検係のケンジです。みんながお世話になった観察基地の所長さんと毎日三食を作ってくれた食堂長さんに、
「五日間どうもありがとうございました。」
とケンジが大きな声で挨拶すると、みんなも続けて、
「ありがとうございました!」
とさらに大きな声でお礼を言いました。
たった五日間でしたが、思い出があまりにも多すぎ、ずっと過ごしていた家みたいに感じていたので、中には涙ぐむ子までいました。その後に、恐竜の先生からのお話しがありました。
「これから二年と半分、延長飼育をする人は恐竜が亡くなるまで、この恐竜だけを飼うことになります。大切な相棒なので、責任をもって育ててくださいね。恐竜の未来が、みんなの肩にかかっているので、よろしくお願いしますね。」
みんなは、責任をひしひしと感じて、背筋が伸びる思いで聞いていました。そして最後に恐竜をバスで運ぶ際の注意事項を聞いて、お礼の会は終了しました。
ちょうどその時、お父さんと遠山先生が、深刻な話をしていました。
「どうやら、新種発見の情報が早くも知れ渡ってしまい、テレビ局やら新聞社やらの人たちが押し寄せているそうです。」
遠山先生が言いました。お父さんは苦い顔して、答えました。
「内地の人たちですか?」
「どうやらそうみたいです。許可もなくジャングルに入ろうとして、警察に怒られた人もいたそうですから。」
「島のマスコミなら、そんな非常識なことしませんからね・・・。」
「先に出発した他の小学校行きのバスを無理やり止めて、新種がいないか聞いた人までいるみたいです。本土の方はけっこう強引ですね・・・」
それを聞いて、お父さんはハヤマケラトプスを発見した十年前を思い出してしまいました。
「私がハヤマケラトプスを発見した時も、結構大変でしたからね。自宅にまで押し寄せて来ましたから。」
「そうなんですか!」
遠山先生は驚きました。
「妻のお腹にケイタとソウタがいた時なので心配しましたよ。」
「それは大変ですね。奥さまは大丈夫でしたか?」
「それが、一週間後に総選挙があって、内地のマスコミがピタッと来なくなったので、無事でした。」
「それはラッキーでしたね。衆議院か何かの選挙ですか?」
「いや、アイドルグループのボーカルかなんかを決める選挙でした。」
「そう言うオチでしたか!」
「当時は、今じゃ考えられないほど盛り上がってましたからね。その時一番になった女の子は俳優さんとして、今もがんばってますが、妻は感謝の気持ちもあり、今だに応援してますよ。」
「それはそうと、対策を考えないと。」
「おっと失礼しました。ゲートの脇にある交番に、広い会議室がありますので、そこで会見しましょう。」
「良いですね!あの交番はテロ対策とかで交番とは思えないほど広いですから、ちょうどよかったですね。県警とかに連絡をいれておきます。ケイタくんとソウタくんはどうしますか?」
「うーむ、出さざる得ないでしょう。親としては心配ですが・・・。」
方針は決まりました。お父さんと遠山先生は、早速、準備に取り掛かりました。
そうこうしているうちに、ケイタとソウタたちのバスの出発の時間になりました。
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