1-5その4
ケイタとソウタたちが、夕食を食べ、入浴をすませたあと、速間教授はやって来ました。ケイタとソウタは明日帰るための荷物を整理をすれば寝る前の自由時間だったので、帰りの用意を早々にすませて、着いたばかりのお父さんをロビーまで迎えに行きました。
「おう、ケイタとソウタじゃないか。父さんが来るの誰かに聞いたみたいだね。恐竜探検を楽しんでるかい?恐竜は見つけられたか?そうそう、エナンティオルニスの仲間を発見した子がいるらしいぞ!知ってたか?今の鳥の前に栄えていた鳥だぞ!とんでもない大発見だよ!」
お父さんはいつも陽気ですが、今日はいつもに輪をかけて饒舌でした。そばにいた遠山先生が、
「その発見して捕まえた子というのがケイタくんでして、捕まえる時に大活躍してくれたのがソウタくんなのです。」
と説明すると、お父さんはびっくりして、
「ええっ!そうなのか?いやー、お前たち、すごいな!いやいや、これは大手柄だよ!エナンティオルニス類はちゃんとした化石が少なくて、わかってないことばかりだからな。まさに、生きた化石だね。エナンティオルニスはその中の代表的な・・・って、話はあとだ。遠山さん、その古鳥はどこにいますか?」
あまりに落ち着きのないお父さんに、ケイタとソウタは、
「観察基地では、静かにしなきゃだめだよ。」
「特に夜だし、明日朝早い人はもう寝てるよ!」
と注意しました。お父さんは、二人に目くばせして、
「すまん、すまん。興奮しすぎたな。では、遠山さん、案内してもらえますか?」
落ち着きを取り戻して、観察基地の中に入りました。
「ケイタくんの古鳥は、他の児童たちの恐竜と同じ一時恐竜保護室にいます。どうやら、他の恐竜と同じく昼行性らしく、今は寝ていますね。」
遠山先生は、説明しました。
「そういえば、診察してくれたのは、野本先生だったかな?」
遠山先生はケイタに聞きました。
「はい。恐竜医務室にいるって言っていたので、呼んできますか?」
「じゃあ、お願いするよ。ありがとうな。」
とお父さんが言うと、ソウタが
「僕も一緒に行くよ。」
と言って、ついていきました。
ケイタはソウタに
「足を使ってすごい器用に食べるんだよ!」
とか、エナンティオルニス類の子どもがいかに器用で頭が良いか話しながら、野本先生を呼びにいきました。
「本当!すごいね!僕も見たかったな。」
ソウタも興味深々でした。
夜なので暗くしている一時恐竜保護室には、ゲージが沢山置いてある棚の列がいくつもありました。その中で一番左の小さめのゲージが置いてある棚の奥の方まで進むと・・・いました。鳥と同じように目を閉じてじっと座っていました。恐竜に襲われたり、人にいじくられたり、この子にとってはとんだ1日だったのでしょうが、慣れない環境を物ともせずぐっすり寝ていました。
「起こすとかわいそうだから、詳しく調べるのは明日にしましょう。たしかにくちばしが明瞭ではないし、翼に爪が残っており形状が真鳥類と微妙に異なっていますね。足はよく見えないですが、指は四本ですか。
お父さんがしばらく静かに観察していると、ケイタとソウタが野本先生を連れてきました。
「お久しぶりです。速間教授。一か月ぶりぐらいですかね、観察基地に来たのは。」
野本先生はお父さんにあいさつしました。どうやら顔見知りみたいです。
「お久しぶりです。あれ?そんなに経ってましたかね。もう少し現場でも研究したいのですが、いろいろ忙しくてね・・・。ところで、この古鳥のレントゲンはありますか?」
お父さんは軽い雑談をしてから、野本先生に聞きました。
「ケガの確認のついでに全身のレントゲンも撮っています。全身の骨格も確認しました。翼には爪が残っているので、やはり
さらに野本先生は続けました。
「特筆すべきは、ケイタくんも見ていましたが、摂餌の際の足の扱いが巧みで、オウムなどよりもずっと器用です。これは足根中足骨の遠位部分が癒合していないことが、関連しているのかなと推測しています。また、知能がかなり高いのも関係あると思っています。」
お父さんは野本先生の何やら難しい説明を聞きながら、
「完璧な報告です!すばらしい!」
と小さな声で感嘆していました。
一時恐竜保護室から出ました。それまではだまっていたケイタでしたが、思い切ってお父さんに聞きました。
「僕、この子を飼って良いの?」
ソウタも
「ケイタが捕まえたんだから、飼っても良いでしょ!」
と、念をおしました。
しかし、お父さんは考え込んでしまいました。
「確かに、この島のルールならケイタが責任を持って飼うべきだし、お前たちにかぎらずこの島の子どもたちならみんな、たとえ新種であっても立派に世話はできると思う。しかし、この子は単なる新種の恐竜ではなく、恐竜と鳥の間の進化の秘密を解読する重要な存在で、世界中の研究者がその生態に注目しているんだ。そんな重要な生物を子どもにまかせるなんてけしからんという人もいるかもしれない。そして、仮にこの子に万が一のことがあったらたくさんの人に非難されるかもしれない。ケイタ、そんなたくさんの重圧がある状況でも、飼う覚悟はあるかい?」
重い問題です。
しかし、お父さんはケイタに決めさせようと思いました。普通に考えたら、こんな貴重な生物は、専門機関である恐竜センターで大切に育てていくのが当たり前でしょう。ただ、きょうりゅう島の子どもは生まれた時から恐竜の命を守る使命を帯びています。そのために一生懸命勉強してきました。ですので、その覚悟を無碍にするのは、間違っていると考えたのです。ケイタはしばらく悩んでいましたが、意を決して答えました。
「父さん。ぼく、頑張ってみるよ。」
それを聞いてソウタは、
「ケイタ、よく言ったね!ぼくも協力するよ!立派に育てて進化の秘密を解き明かそうね。」
そう言って、ケイタと肩を組みました。お父さんは、
「わかった。それなら母さんともども喜んで協力するよ。こう見えても父さんは恐竜研究でちょっとは名が知れているんだ。よその研究者がなんか言ってきても盾ぐらいにはなってやるからな。」
やはりお父さんは頼りになります。遠山先生も、
「お父さんは謙遜してるようですが、世界でも屈指の恐竜研究者ですから、そのバックアップがあればそうそう文句は言われませんよ。」
と太鼓判を押してくれました。
「さあ、そろそろ消灯の時間ですよ。ケイタくんもソウタくんも部屋に戻りましょう。」
遠山先生に言われて気が付きましたが、自由時間は終わってしまい、もう寝る準備の時間です。
「遠山先生、父さん、おやすみなさい。」
「おやすみ。また明日な!父さんは遠山先生とか野本先生から、もう少し詳しい話を聞いてみるよ。明日は、父さんもケイタとソウタたちのバスを追っかけていっしょに帰るよ。」
ケイタとソウタは、父さんたちに挨拶をして部屋に戻りました。
今日も大変な一日でしたが、これからはもっと大変になりそうです。でも、ケイタもソウタも、むしろワクワクして、これから何が起こるのか楽しみで仕方がありませんでした。
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