1-5その3
さて、ケイタは観察基地に着いた後、捕まえたエナンティオルニス類(古鳥類)の子どもを獣医さんにみてもらうため、別行動をしていました。この古鳥類の子はトロオドンに襲われたときに、翼をケガをしてしまったので、まずは骨折をしていないかどうかを見るためレントゲンを撮ることになりました。しかし、古鳥類の子どもは初めて見る人間の機械に、当然のことながら警戒心丸出しで、レントゲンを撮る際の獣脚類用の固定台にはめられそうになると、大暴れで抵抗しました。
ケイタは、この古鳥類の子どもが、さらにケガをしてしまいそうだったので、駄目を承知でなだめてみました。
「大丈夫だよ!ケガを治すためだからね。」
と話しかけ、あごの下をさすってあげると、どうでしょう。不思議とおとなしくなり、心配そうにキョロキョロ見回しました。
「あら、聞き分けの良い子ね。そのままおとなしくね!」
獣医の野本先生は感心しつつ、手際よくケガをしている翼と、ついでに全身のレントゲンを撮りました。そして、すぐに画像を確認し、
「骨には異常ないわね。キズも大したことなさそうよ。」
と言ってケイタを安心させた後、
「それにしても、今の鳥とは骨格が微妙に違うのよね。」
と、レントゲン写真を見ながら興味深げにつぶやきました。
「また、元気に飛べるようになるかな?」
ケイタは心配そうに、野本先生に聞きました。
「骨に異常がないので、多分すぐに飛べるようになると思うわ。まあ、私もエナンティオルニスの仲間を見るのは初めてだけど・・・。これぐらいなら、どんな生き物も一緒でしょうからね。」
「よかった。」
ケイタはホッとして、古鳥類の子どもを抱きかかえました。
野本先生は、ケイタと古鳥類の子どもが落ち着いているのを確認してから、奥の部屋に行きました。そして、パソコンでメールを確認すると、冷蔵庫から何やら取り出して、戻ってきました。
「さっき糞を採取して、何を食べているのかを分析してもらったのよ。どうやらネズミや虫、たまご、フルーツなんでも食べるみたい。でも、草は食べないようね。きっとおなかすいてるでしょうから、何か食べるものあげてみましょう。」
そう言って、ストルティオミムスの大好物のサボテンの実をあげました。
古鳥類の子どもは、やはりお腹がすいていたようで、すぐに食べはじめました。とても美味しそうに食べていましたが、その食べ方はとても特徴的でした。
まずサボテンの実を横向きに置き、上側半分だけ片足とくちばしで器用に皮をむきました。そして、片足でむかなかった皮の部分をもって食べました。ある程度食べると、今度は床に皮をお皿のように置いて足でおさえ、皮にへばりついていた実も残らずたべてしまいました。
「びっくり!とても、器用に食べるわね!」
野本先生は感心して言いました。ケイタは
「この子、左足利きなんだね。」
と真顔で答えて、野本先生を笑わせました。
「たまごもあげてみましょうか!」
野本先生はそう言って、ニワトリのたまごを古鳥類の子どもに見せました。すると、
「ア゙!」
とちょっとだけカラスに似た鳴き声をあげました。どうやら喜んでいるようです。
「あっ、初めて鳴いた!こんな声だすんだ!」
ケイタはうれしくなって叫びました。
古鳥類の子どもはたまごを足で受け取ると、さっそく食べ始めました。その食べ方も秀逸でした。足でたまごを持ってとがった先の殻を噛んで、ほどよい大きさの穴を割って開け、そこからコップで水を飲むように傾けて食べたのです。しかも、穴が若干小さく黄身が出てこなかったのですが、当たり前のように殻をふって口に流し込むのを見ると、感心を通り越して笑えるぐらいでした。
古鳥類の子どもは満足したらしく、こちらをまっすぐに向いて満面の笑み(に見える顔)で、
「ア゙ー」
と、ひと鳴きしてゲージの奥に行きしゃがんで目を閉じました。
「お礼を言ったみたいだね。」
ケイタが言うと、野本先生は
「そうみたいね。ひょっとしたら、この子の仲間はとんでもなく賢いのかもしれないわね。」
と目をまるくしていました。
新種発見の話は観察基地中にあっと言う間に広がり、基地中の研究者が入れ替わり立ち替わり、恐竜の治療室をのぞきにきました。そして、みんな一様に、ケイタの古鳥類の子どもを見て「Great!」とか「Amazing!」とか驚嘆しながら、ケイタに「Good Job!」と言いながら親指を立てたり、肩を叩いたりして去っていきました。
遠山先生は早速、恐竜センターに新種発見の報告をしました。ベテランの恐竜の先生なので、恐竜センターの速間教授とも知り合いで、直接連絡をいれていました。
「恐竜探検中に鳥がトロオドンに襲われており・・・児童の一人が真鳥類と異なることに気づきまして・・・もう一人の児童と協力して捕獲し・・・」
速間教授は、エナンティオルニス発見の報を受けるないなや、興奮してこちらの周りの人にも聞こえるくらいの声で、
「すばらしい発見です!進化の秘密がまた一つ解き明かされますよ!すぐにでも見たいので今から向かいます。どうにか検問が閉まる前には行けるでしょう。発見した子にも会いたいですしね。」
と話し、
「それでは出発します。また後ほど!」
と、連絡を終わらせてしまいました。多分、研究室を飛び出してこちらに向かっている思われました。
連絡が済むと、遠山先生はケイタにその内容を教えてくれました。
「ケイタくん。恐竜研究の第一人者の速間教授が、来てくれるそうですよ。ケイタくんにも会ってみたいそうです。ちょうど良いので、飼っても良いかとか相談してみたら良いでしょう。」
それを聞いて、ケイタは、
「えっ、父さんがくるの?」
と、驚いてしまいました。フットワークが軽すぎです。いつも家でゴロゴロしている父さんとは大違いです。
「父さんが来るなら、ソウタにも伝えなくちゃ。」
そう話すと、遠山先生は、
「あ!ケイタくんとソウタくんは速間教授の息子さんでしたか!いや、びっくりしました。そういえば、面影ありますね。お父さん、飛んで来るそうですよ。新種ですからね、すぐにでも見てみたいそうです。それにしても、血は争えないですね。」
と、感心していました。
さて、ケンジは夕食まで時間があるので、クラスの人がどれだけ恐竜を保護したのかを調べていました。
「トリケラトプスが一頭、ハヤマケラトプスが一頭、パキケファロサウルスが一頭、エドモントサウルスが二頭、ヒパクロサウルスが一頭、アンキロサウルスが三頭、ハヤマティタンが一頭、ストルティオミムスが一羽。そして最後に、エナンティオルニス類の子どもが一羽!」
「今の恐竜探検に来てる他のクラスよりずっと多いらしいよ。」
ソウタが言いました。
「新種も見つけるし、うちのクラスは恐竜探しが一番上手なクラスかもしれないわね!」
学級委員のミクはちょっと誇らしげでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます