1-5その2
恐竜探検では、残念ながら恐竜を捕まえられなかった子どもたちも、譲渡会で事前に研究員さんなどが保護した恐竜をもらうことができます。譲渡会は観察基地の大会議室で行われます。
まだ相棒の恐竜がいない子のうち、育てる意思のある子は、広い大会議室に集合しました。
「トリケラトプス、トリケラトプス!」
「自分で見つけられなくて残念だけど、好きな恐竜を選べるなら、むしろよかったわ!」
「アンキロ意外とかわいいな!」
会議室では、みんなワイワイガヤガヤ話しなから、選んでいました。
ミサキも大会議室にいって、ゲージに入っている恐竜たちを、じっくり観察しました。トリケラトプスにハヤマケラトプス、パキケファロサウルス、エドモントサウルス、ヒパクロサウルス、アンキロサウルス、ハヤマティタン。草食恐竜はたくさんいました。男の子たちは、トリケラトプスやハヤマケラトプス、アンキロサウルスのところに群がっているようです。そんな中、いました。遠山先生が言っていた通り、三羽だけですが、ストルティオミムスがゲージのなかで小さくしゃがんでいました。女の子たちが群がって、
「かわいい!」
とか言っていました。ミサキも人混みをかき分けて、
「パパとママがいなくなっちゃって大変だったね・・・。わたしがちゃんとお世話してあげるからね。」
と話しかけました。
ほどなく、別の学校の子供たちの案内をしていた恐竜の先生が大きな声で言いました。
「ストルティオミムスが欲しい人は手を上げてください。」
やはり、ストルティオミムスは希望者が多く、選ばれた人しかもらえないようです。
すると、やはりたくさんの手が上がりました。ちらほら男の子もいますが、ほとんどが女の子です。多くはストルティオミムスの巣でかわいい姿に魅せられた子たちだと思われましたが、なかには人気に当てられて、とりあえず手を上げた子もいました。二十五、六人ぐらいはいたでしょうか、ミサキはその倍率に怖気づきながらも手を上げました。
希望者が出揃うと、恐竜の先生が、再び大きな声で言いました。
「ストルティオミムスは希望者が多いので、ジャンケンで決めますね。」
熾烈なジャンケン大会が始まりました。ルールは、まず四、五人で六つグループに分かれジャンケンをして勝者を決めます。そして、グループの勝者が決勝戦のジャンケンをして、残った三人がストルティオミムスのあかちゃんをゲットする。というかたちでした。
ミサキはクラスメイトと争うのは気が引けたので、他の学校の子のグループに混ざりました。ラッキーなことに、そのグループは四人でした。
「じゃんけん、ぽん!」
普段はおとなしいミサキですが、この時ばかりは気合いだけは負けないように、大きな声を出しました。
すると、二人がパー、二人がチョキ。ミサキはチョキを出したので、勝ちました!
「やったあ!」
でも、まだ決まったわけではありません。もう一人に勝たないと、決勝戦には行けません。
「じゃんけん、ぽん!」
ミサキは、験をかついて、さっき勝ったチョキをふたたび出しました。しかし、読まれていたのか相手はグーで、負けてしまいました。勝負の世界はシビアです。ミサキの夢は断たれてしまいました。
恐竜の健康診断が終わり、ちょうどジャンケンが始まるころに合流したサクラは、
「あんなに希望者がいるなんて・・・。とりあえずもらっておこう。とか言っている子もいたし。」
と、ミサキよりもくやしがっていました。
「サクラちゃん、ありがとう。私、恐竜飼うのやめておく。やっぱり、ちょっと怖いし、お世話も大変だし・・・」
ミサキはストルティオミムスのあかちゃんをとても欲しがっていましたし、何より飼育体験の時におチビちゃんをあんなにかわいがっていたのですから、きっと上手にお世話ができるに決まっています。サクラはミサキが強がっているような気がして、余計くやしくなってしまいました。
ジャンケンに負けて悔しそうな子がたくさんいたので、恐竜の先生は大きな声でみんなに伝えました。
「今日は三羽だけですが、恐竜センターに行けばまだたくさんいますので、後日センターでもらってくださいね!」
ミサキはいったん恐竜をもらうのを諦めましたが、島の四年生ならば無理して恐竜探検で恐竜をもらわなくても、恐竜センターへ行けばセンターで繁殖させた恐竜をもらうことができます。ちなみに、ここで運悪く貰い手がいなかった恐竜たちも、センターが責任をもって(名目上、島の小学生の代わりに)、大人になるまで飼育することになります。実はみんなが飼っている恐竜のうち、獣脚類のようなレアな恐竜は、ほとんど恐竜センター生まれの子です。ストルティオミムスもたくさんいるので、希望すればもらえるでしょう。ただ、やはり、子どもたちにとって恐竜探検で相棒の恐竜を、自分自身で見つけるのはやはり格別の思いがあるのです。
飼われる恐竜は、識別番号が記録されたICチップがしっぽの付け根や太ももに埋め込まれます。そして、飼い主の名前とひもづけられ登録されます。恐竜が飼えるのは一生のうちに一匹だけ、恐竜にとっても飼い主は一生のうち一人だけなので、とても大切な作業です。これから、小学校を卒業するまでのあいだは必ず、よっぽどのことがない限り飼い続けなければなりません。途中、恐竜センターに引き取ってもらうこともできますが、どうしようもない事情でもない限り、戻してもらうことはできません。いっぺんお別れしたら二度と飼うことができない決まりになっています。世界の宝、まさに生きた化石をまかされているのですから、そのくらいの責任は当然のことと、島のみんなは理解しています。
サクラはICチップを埋め込む針を見てちょっと心配なりました。
「あんな太い針刺されてトリケラトプスちゃん痛くないかしら?」
するとケンジが答えてくれました。
「牛とか馬とかもそうだけど、恐竜は痛みに強いというか鈍感なんだ。だから、僕たちで言うと蚊に刺されたくらいらしいよ。」
今度はミクが質問しました。
「小さいとはいえ、体に埋め込んで大丈夫かしら?」
それには、係の獣医さんが教えてくれました。
「大丈夫!猫とかにも使われているものだから実績十分よ。入れる場所も恐竜解剖学の専門家が十分検討して決めたのよ。」
ソウタのハヤマケラトプス、サクラのエドモントサウルス、ユウトのパキケファロサウルス、ミクとケンジのハヤマティタンも、怖がるのをなだめながらも、無事ICチップを注射できました。そして、それぞれ自分の恐竜として登録を済ませ、晴れて相棒の正式な飼い主になることができたのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます