1-4その4

 ケイタとソウタはすぐに見つかりました。ケイタとソウタは呼びにきた遠山先生と合流して、まわりを軽く探しながら集合場所に向かいました。

 するとその時、近くで急にバサバサッという鳥の羽ばたいた音の後に、

「キャー、ギャー!」

突然恐竜とも鳥ともつかない叫び声が聞こえました。

 ケイタとソウタが声の方をのぞいてみると、まさに鳥が大人のトロオドンに襲われているところでした。

「野生の世界はきびしいんだね。」

ソウタはケイタと遠山先生に言いました。遠山先生も、

「これが自然というものなのですよ。かわいそうですが、ここはじっと見守っていましょう。」

と言い、足を止めました。

 野生動物が命を懸けて闘っているところなど、めったに見られるものではありません。先を急がなければならないのですが、遠山先生も見入っていました。

 じっくり見ていると、ケイタはなんか違和感を感じました。この鳥、なんか変です。普通の鳥と違うような気がします。よくよく見ると、おそわれている鳥の翼から爪のようなものが飛び出しています。そして、鳥も小さいながらかみついて反撃していているのですが、その口にはなんと、トロオドンと同じような歯があるではありませんか!

「遠山先生!あの鳥、歯がはえてます!」

ケイタが叫びました。

「翼に爪もあります!」

「えっ!?本当!」

「なんですって!あっ、本当ですね!」

ケイタの発見に、ソウタと遠山先生も気が付いたようでした。

「これはとんでもない大発見かもしれないですよ!トロオドンには悪いですが、あの鳥を救出しましょう!」

「ケイタくん。あの鳥を保護してくれませんか!私とソウタくんでトロオドンの気をひきつけるので!」

 その声を聞いて、花山先生を先頭に、みんながやって来ました。

「どうした?どうした?」

「なんか、見つけたらしいわよ!」

「新種か!?俺たちも新聞にのるかもな!」

「出るのはケイタとソウタだけだろ。」

「というか、普通にトロオドンを見つけただけじゃない?」

「それでもすごいことよ!」

みんな口々に話しています。そこで花山先生は、

「みんな静かに!遠山先生たちが捕まえようとしてるので、邪魔しちゃダメよ。」

と、みんなを落ち着かせました。

 勝負は一瞬でした。

 ケイタは、二匹が闘っているところの正面に、まっすぐ近寄りました。すると、トロオドンは獲物をうばわれないようにと、小鳥を脚で押さえつけながらケイタにうなるような独特な声をあげて威嚇しました。そこへ静かに左右から回り込むように近づいたソウタと遠山先生が、それぞれの方向からうなり声をあげながら飛び出しました。左右から同時に襲い掛かられてひるんだトロオドンは、鳥をおさえている足を一瞬はずしてしまいました。鳥はそのタイミングをのがさず逃げ出すことができたのですが、翼をけがしているのか、翼をバタバタしなから走って逃げようとしました。トロオドンは再び鳥を捕まえるためかみつこうとしましたが、間一髪、ケイタは鳥をひったくり、クルッと方向転換をしてもと来た方へ一目散に逃げました。取り残されたトロオドンは獲物を逃したとわかると、ソウタと遠山先生を威嚇し、遠山先生のそばをわざとかすめてコロニーとは違う方向へ、すごいいきおいで逃げていきました。

 そして、ケイタの手にはカラスほどの大きさの鳥がしっかりとおさまっていました。

「やった!無事捕まえられたみたい。」

ソウタは叫びました。

「首尾よくいきましたね!ちょっとトロオドンには、悪いことしてしまいましたが・・・。でも、やっぱりトロオドンはかしこいですね。我々に巣が見つからないようにおとりになりつつ違う方向に逃げていきましたね。」

遠山先生は感心していました。

「この子、ケガはないかな。」

ケイタは捕まえた鳥のことを心配しました。

「どれどれ、見せてください。」

 遠山先生は、捕まえた鳥を受け取ると、ケガの確認しました。さいわい羽のキズから血がにじんではいましたが、バタバタあばれており、元気はあるようです。


 そこで、ケイタとソウタと遠山先生はあらためて、捕まえた鳥をじっくり観察しました。翼の前側の中ほどからは、爪が一本だけはえています。口にはくちばしがなく、口の中にとがった歯がはえいます。歩行にも耐えられそうな微妙に長い脚で、足にはしっかりとした四本の指がついており、親指は他の指よりがっしりとして反対側を向いています。尻尾は尾の骨はほとんどないようで、現在の鳥類に比べればちょっと長めですが、獣脚類よりはだいぶ短め、複雑な尾羽がはえています。遠目で見るとさほどではありませんが、細かくみると全体的に普通の鳥とはだいぶ雰囲気が違っています。

「これはエナンティオルニスの仲間ですね。生え変わり前の羽毛みたいなのがちょっと残っているので、どうやら、まだこどもみたいですね。」

 遠山先生は言いました。ケイタは聞きました。

「これは恐竜ですか?鳥ですか?」

遠山先生は、

「鳥類も言ってみれば恐竜の一部なので、なんとも言えませんが、鳥類と言って良いかと思います。ただ、多分、今の鳥が増える前に栄えていた、古鳥類と呼ばれる古い鳥の仲間ですね。まさか生き残っていたとはびっくりですね。」

と教えてくれました。

「やったな!ケイタ!恐竜・・・じゃないかも知れないけど、捕まえられたじゃないか!しかも、誰も飼ったことがない種類だぞ!」

ケイタはソウタに言われて、自分の恐竜?を捕まえられたことに気が付きました。あまりにも必死だったため、恐竜探しのことなど、すっかり忘れていたのです。ケイタ本人は、まだ呆然としていますが、目的は無事達成できたようです。


 ケイタとソウタは、クラスのみんなのところに合流しました。すると、みんなは捕まえた新種の周りにあつまってきました。サクラは

「さっき、二人ともすごい顔して探してたものね。捕まえられて、本当によかった!」

と祝福しました。他のクラスメイトは

「これが新種?」

「恐竜なの?鳥なの?」

みんなのぞきこみながら、質問しています。

「多分この子は恐竜から鳥に進化したての生き物でしょう。ケイタくんが発見して捕まえました。ただ、トロオドンにおそわれて弱ってますから、今は静かに観察してくださいね。」

遠山先生が説明してくれました。ケイタは一躍ヒーローとなりました。

「本当に新種見つけたの!」

「スゲー、テレビに出れるじゃん!」

ケイタはみんな注目され、照れながら答えました。

「最初はただの鳥かな?と思ったんだけど、なんか翼の形が普通じゃなないなと思って、よく見たら爪がはえてたんだよ。」

すると、ケンジが

「それだけで、気がつくなんてすごいね!」

と言って感心しました。ケイタは申し訳なさそうに続けました。

「いや、やっぱりそれだけじゃ自信がなかったんだ。けど、開いた口に歯があってさ。それでやっと、これは間違いないと思ったんだ。」

「どっちにしても、すごい観察力だね!」

ケンジはさらに感心しました。

「どうやって捕まえたの?」

ミサキが聞きました。ケイタは答えました。

「この子、トロオドンに襲われていたんだ。そこをソウタと遠山先生がおとりになって、トロオドンを引きつけてくれた隙に助けたんだよ。」

 ソウタも

「一瞬の判断でみんな動いたんだ。ほんと無我夢中だったよ!」

興奮しながら答えました。

 話が長くなりそうだったので、花山先生は手を叩きながらみんなに聞こえるように言いました。

「ハイハイ、話は戻ってから!さあ、観察基地に帰りますよ!」

 みんなは興奮冷めやらぬまま、車に乗り込みました。

 ケイタは一つ心配事ができてしまいました。そこで、観察基地に戻る車の中で、おもいきって遠山先生に聞きました。

「この子、うちで飼っていいんでしょうか?」

「うーん。きっと新種ですからね。どうなんでしょう?とりあえず、観察基地に戻って、恐竜センターの速間教授に連絡しましょう。」

 遠山先生にもわからないようでした。でも、ケイタとソウタの父親は速間教授です。これこそなんとかしてくれるでしょう。


 こうして、ケイタとソウタのクラスは観察基地に戻りました。そして、新種発見という大ニュースを手土産に恐竜探しをすべて終えたのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る