1-4その3

 さて、弟岳をすこし登るように折り返し、車で三十分ほどひどいガタガタ道を移動すると、そこはトロオドンのコロニーでした。これで、今みつかっている島の恐竜は全種類、探したことになります。

 トロオドンは、ダコタラプトルに近い種類ではありますが、目と頭がやや大きく、顔つきがちょっと異なります。頭に合わせて脳も大きいため、ストルティオミムスよりもかしこく、人によくなつき、大人には人気があります。そのため、恐竜探検を経験したことがない親だと、子どもに「トロオドンってかわいいわね!恐竜探検に行ったら捕まえてきて!」とお願いすることがよくあるそうです。

 しかし、賢いトロオドンだけに野生で迷子のあかちゃんを見つけるのはかなり困難です。親がしっかり子育てをするので、よっぽどの事故がない限りあかちゃんがはぐれたりしないのです。

「今までで、トロオドンが見つかったことはほとんどないので、あまり期待しないでくださいね。」

人気のトロオドンです。期待する子ども(と親)は多いのです。無理とはわかっていても、失望する子どもが後を絶たないので、遠山先生は初めに釘を刺しておくことを忘れませんでした。ケイタの恐竜探検での恐竜獲得の夢は絶望的かもしれません。

「やっぱり、観察基地でトリケラトプスでももらうかな・・・」

ケイタがつぶやくと、ソウタは

「それでもいいじゃん。でも、がんばってトロオドンを探そうよ。」

「そうだな!あきらめなければ、まだ可能性はあるよな!」

ケイタはやる気を取り戻しました。あきらめるのには早すぎます。やりきってからでも、遅くはありません。


「あれがトロオドンのコロニーですよ!」

遠山先生が、教えてくれました。元気なあかちゃんが親に甘えています。トロオドンはほかの恐竜とちがって、一つの巣にあかちゃんが五、六羽しかいません。恐竜としてはかなり少数です。生存率の高さの証明といえるでしょう。

 遠山先生は、

「どの巣も親子ともども元気そうですね。素晴らしいことなのですが、恐竜探し的には、厳しいですね・・・。今回もやはり見つからないかもしれませんね。」

そう言いながら、捜索場所に移動しました。

 みんな一生懸命に探しました。トロオドンを見つけられたら、一躍ヒーローです。みんなの目の色も違います。服が汚れるのも気にせず、みんな地面に腹ばいになって、草の影という影をすべてのぞき込んでいました。

 ケイタはもう、めちゃくちゃ一生懸命探しました。しらみつぶしとはまさにこのことと言わんばかりに、端から草の葉一枚一枚めくって見ているかのようでした。そして、ソウタも並んで同じレベルで必死に探しました。

 しかし、やはりトロオドンは見つかりません。そして、もうそろそろ捜索時間が終わりそうです。

「うん、家族はみんな一緒で元気なのが一番だね。」

ソウタは草の影から起き上がり言いました。ケイタも、

「本当は、家族で野生のままで育つ方が恐竜も幸せだもんね。」

起き上がって、そう答えました。本当に一生懸命に探した結果なので、負け惜しみではなく、本気でそう思いました。あきらめもつきました。が、しかし、

「でも、もう少し探してみるか!」

二人は、声を合わせていうと、再び腹ばいになって探し出しました。


 そうこうするうちに花山先生が、

「恐竜探しはこれにて終了です。観察基地に戻りましょう。」

とみんなに声をかけてまわり始めました。クラスのみんなは、帰る準備で二列の体勢になりました。

「先生!ケイタとソウタがいません。」

ケンジは点呼をしながら言いました。

「ほんのさっき、二人並んで探しながら、向こうへ行ったの見たわ。」

ミサキは指さしながら先生に報告しました。

「あまりにも真剣にさがしていたので、ちょっと声がかけられなかったの。」

サクラもミサキと見合わせてから、言いました。

 ケイタとソウタは、探すのに夢中だったので、ちょっと離れたところまできてしまっていました。さらに、高い草が特に生い茂っているところだったので、声が届かなかったようです。そこで、遠山先生が、

「私が呼んで来ますね。」

と、ミサキが指をさした方に探しにいきました。


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