1-4その2
次に車でひどいガタガタ道を三十分ほど、弟岳を回り込むように移動して、ストルティオミムスのコロニーに着きました。ストルティオミムスは主に虫とか木の実を食べる雑食の獣脚類です。ダチョウのように足が速いことが特徴てす。
遠山先生が、
「この子たちは、比較的安全なので、少しばかりコロニーに近寄って観察してみましょうか。」
と、言ってくれたので、みんな、近くまで行ってよく観察しました。
「あかちゃん、かわいいね。」
羽毛におおわれており、ダコタラプトルほどではありませんが腕としっぽに羽がついています。歯がなく、くちばしになっており、かなり鳥に近く見えます。
「歩き方がかわいい!」
「クワッって鳴いてるわ!」
「親について行ってサボテンの実を食べてるわ!」
ジャングルにはさまざまな植物がところ狭しと生えています。その中にはバナナやヤシ、バンレイシ、サボテン、リュウゼツランなどおいしい実や花がなる植物もたくさんあります。この島のジャングルはカルデラにあるため、南米やアフリカの熱帯雨林と異なり、養分豊富な土壌が流出せずジャングル内に蓄積します。そのため、植物たちにとっても楽園で、高木だけでなく、中低木や下草まて、バランスよく育つことができます。その結果、ストルティオミムスは人間が食べても美味しいようなフルーツを腹一杯食べることができるのです。ちなみに、島名産の島りんごは明治期に持ち込まれた外来種をもとに作られたので、ジャングルの中には生えていません。
さらには、ジャングルなので虫もたくさんいます。きょうりゅう島にはジャングルにかぎらず、カブトムシやクワガタムシの亜種がいるほか、コガネムシ、ガなどでは島の固有種も存在しています。特にアゲハチョウの固有種、モモスジアゲハはその美しさに魅せられ世界中から収集家が集まってきます。これら虫、特に幼虫はストルティオミムスの大好物です。ストルティオミムスはジャングルを最も満喫している恐竜と言っても過言ではありません。
女子たちはストルティオミムスをかなり気に入っているようです。ミサキも飼育体験の時にストルティオミムスととても仲良くなったので、ひときわ思い入れがあります。
「恐竜センターにいるおチビちゃんは元気にしているかしら?」
ミサキは一人つぶやきました。しばらくしたら、ジャングルに放たれることになるおチビちゃんに思いだすと、少し切ない思いがこみ上げてきました。
ストルティオミムスも長年観察されているせいか、人間をそこまで怖がらないようです。みんなかがんで、あかちゃんに手が届きそうなぐらいまで、コロニーに近づいていました。すると、女の子の一人が
「この子連れていっちゃだめかしら?」
と聞きました。しかし、遠山先生は、
「巣の中からあかちゃんを取ってはいけません!法律に違反してしまいます。警察につかまってしまうので、ぜったいダメですよ!」
と、キツく注意をしました。
きょうりゅう島では、恐竜がとても大切にされており、それに応えるように法律もきちんと整備されています。この島の四年生の恐竜探検に関連しなければ、特別な許可がない限り恐竜を捕まえることはできません。さらに、恐竜探検でも巣から直接たまごやあかちゃんを取ることや大人の恐竜を取ることは、まれな例外を除いては禁止されています。また、島の外に恐竜を持ち出すこともできません。たとえ、死骸であってもです。これには外国の研究者から批判もありますが、恐竜をお金儲けに利用されないためには、やむをえないであろうと政府や島の人たちは考えています。
「そろそろコロニーから離れましょう。ストルティオミムスのお父さんお母さんが怒りださないうちにね。」
遠山先生が言いました。
「あかちゃん、バイバイ。元気に大きくなるのよ!」
ミサキは名残り惜しそうに、ストルティオミムスのあかちゃんに別れを告げました。でも、周りに迷子になって困っているあかちゃんがいるかも知れません。ミサキと何人かの女子たちは、今までの何倍も積極的に探し始めました。
「捕まえた!」
捜索時間の終盤、女の子の一人が草かげで弱っていたストルティオミムスのあかちゃんを見つけました。
「すごいお手柄です!」
遠山先生が言いながら、捕まえたストルティオミムスのあかちゃんの様子を見ました。そして、かばんから取り出したスポイトで水を与え、鳥の餌をあげると元気よく食べ始めました。
「大丈夫そうですね。いや、獣脚類を捕まえるなんて、一年に一人いるかいないかくらいなのですよ。」
遠山先生も驚いていました。
そしてほどなく、花山先生が言いました。
「ストルティオミムス探しはここまで。次の場所に移動しますよ!」
ミサキを始め何人かの女の子はとても残念がっていましたが、遠山先生が、良いことを教えてくれました。
「そういえば、みなさんが恐竜探検に来る前、ストルティオミムスのあかちゃんが三羽保護されてます。飼いたい人は観察基地に戻ったら、言ってくださいね。」
「あの子育て上手なストルティオミムスで三羽も見つかるのって、珍しいんじゃないですか?」
ミサキは疑問に思ったことを率直に聞いてみました。すると、遠山先生が理由を教えてくれました。
「親の恐竜が、巣に戻って来なかったようです。肉食恐竜か何かにおそわれたのかも知れませんね。三羽とも巣の中で弱っていたところを保護されたみたいです。保護の許可が出るまで、相当ハラハラしたそうですよ。巣の中で見つかると、育児放棄であることを何日かちゃんと観察してからでないと、特例として保護ができないですからね。」
恐竜センターでお世話したおチビちゃんと同様に、親が死んでしまったなんてかわいそうなあかちゃんたちです。でも、野生では死んでしまうところを、助けてもらったのは、不幸中の幸いでしょう。
「あかちゃんがもう少し成長していれば、コロニー内の他の巣に潜り込んで、一緒に育ててもらったりもできるのですが。。。やはり、親のはき戻しの餌をもらっているぐらいのあかちゃんでは、それも難しかったのでしょうね。」
ミサキは観察基地に戻ったら、その子を絶対引き取ってあげようと心にちかいました。
なお、ケイタもこっそり、しかし相当必死になって、ストルティオミムスをさがしたのですが、見つけられなかったようです。ケイタの夢はさらに遠のいてしまいました。
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