第四話 後がないぞ!恐竜探し最終日
1-4その1
今日は恐竜探しの最終日です。明日はバスに乗って学校に帰ります。
みんな朝の準備も慣れてきて、テキパキとこなしています。早めの集合時間にも遅れずにそろいました。
「今日は車で獣脚類のコロニーに行きますよ!」
遠山先生は言いました。
ケイタは、まだ恐竜を見つけていませんでした。しかも、まだどの恐竜にするか迷っていました。もう、いっそのこと見つけるのをあきらめて、今日の恐竜探し後にトリケラトプスをもらって、ソウタのハヤマケラトプスと最強角竜決定戦でもしようかと一瞬思いましたが、恐竜をいじめたりしたら、恐竜虐待で捕まってしまいます。闘わせるなどもってのほかです。やはり、ここらで獣脚類を見つけて大逆転したいところです。
しかし、獣脚類は鳥に非常に近いので、子育ても上手です。したがって、迷子のあかちゃんを見つけるのは簡単ではありません。なお、野生の肉食恐竜はネズミの捕食にちゃんと適応できたため、減るどころかむしろ少しずつですが増えています。また、昆虫や木の実などを食べる雑食の恐竜も餌の多いジャングルが性に合っているようで、一番絶滅の危機から遠いとまで言われています。したがって、獣脚類に関しては積極的な保護というよりは、観察的な保護が中心です。そんな状況で、ケイタの計画はうまくいくのでしょうか?
今日も車に乗って移動です。
「今日は北の方、弟岳より先に向かいますよ。」
遠山先生は言いました。
島の北の方には、婿岳、嫁岳があるカルデラがあり、その外輪山の一部は大昔の噴火で崩れ落ちて峠ができています。その峠の近辺には獣脚類がたくさん生息しています。
きょうりゅう島の恐竜の生息分布から考えると、どうやら恐竜はもともと婿岳嫁岳のカルデラの中に住んでいた思われます。まずは草食恐竜が肉食恐竜から逃れるために、押し出されるようにこの峠を踏み越えて、父岳母岳のカルデラ全体に拡散しました。その過程で比較的弱い草食恐竜はさらに南に追いやられました。そして、肉食恐竜も、草食恐竜を追いかけるようにこの峠から飛び出してきたと思われます。しかし、肝心の婿岳嫁岳カルデラの中はあまり調査ができていません。なぜなら、一つはケイタとソウタたちが住む本橋市との間ある高さが二千メートル近くの島最高峰、羽山岳を始めとして切り立った外輪山がそびえたち、父岳母岳カルデラにつづく峠以外からの侵入をこばんでいるからです。また、婿岳嫁岳カルデラの中は広がる池沼や大きな陥没だらけで、峠の先から進むのが、なかなか困難なのです。現在では航空写真などでかろうじて地形は把握していますが、まだ密林の下に何があるかまではわかっていません。ケイタとソウタが期待しているように、新種の恐竜がいてもまったく不思議ではないのです。
ケイタとソウタたちは一時間ちょっとの間、車にガタガタゆられて目的地に着きました。ここまでの道は比較的マシでした。
「まずはドロマエオサウルスの仲間であるダコタラプトルのコロニーですよ!」
ダコタラプトルは羽毛を持つ肉食恐竜です。腕や長い尻尾の先にはりっぱな羽がついており、今にも飛びそうですが、飛ぶことはできません。島にいる獣脚類はそんなに大きくなく、どの種類も大きくて身長一メートルぐらいです。ダコタラプトルも例外ではなくちょっと大きな鳥のようで、きれいな羽毛もあいまって怖い肉食恐竜という感じではありません。
ミサキは遠山先生に聞きました。
「肉食恐竜って、私たちを食べたりしないですよね。」
すると、自分の恐竜を見つけて余裕のユウトは、
「肉食恐竜っていっても小さいんだろ。ぜんぜん怖くないよ!」
と、軽口を言いました。そこで、遠山先生は小声でみんなに話しかけました。
「普段は自分より大きな生き物をおそうことはありません。」
ケイタは、あれ、何でそんな小さな声で話すのかな?と疑問に思ったところに、遠山先生は続けました。
「でも、今みたいにたまごやこどもを守るときは特別です。近寄ると大人のトリケラトプスのような大きい相手でも、みんなで飛びかかって食べてしまいます。」
顔から笑顔が消え、みんなふるえあがってしまいました。ユウトも黙ってしまいました。しかし、遠山先生は急に笑って、
「と、言われていますが、私はおそっているところを見たことありません。結構賢くて飼い主のことも覚えてくれたりして、かわいいですよ!もう少し近くで観察できそうですが、行ってみますか?」
といってくれました。
ほとんどの子は首をブルブル横にふって、遠まきに観察することにしましたが、そこはやっぱりユウトです。手を挙げて、
「俺は近くで見たいです!」
と遠山先生に言いいました。そうなると、ソウタやケイタ、ケンジも、
「俺たちも行きます!」
となりました。さらに、びっくりなことにミサキもケイタに、
「私も見に行って大丈夫かな・・・。」
と相談してきました。ケイタは
「もちろん大丈夫だよ!僕の後ろについてきなよ。」
と、ちょっとカッコを付けて言いました。ミサキはどうやらきれいな羽毛の姿をもう少し近くで見たいようでした。
「ではもう少し近くに行ってみますか!私について来てくださいさいね。花山先生、すぐ戻りますので、他の子たちとここで観察していてもらえますか。」
花山先生は、遠山先生に
「はい!もちろんここで待ってます!」
と、動揺がばれないように返事をしました。
さて、遠山先生と七人はコロニー方へそろりそろり進んでいきました。遠山先生を先頭に四人が体を低くしてそろりそろりと近づく姿が、花山先生にはかろうじて見えていました。
遠山先生が、
「近くに来ると羽根がきれいなのが、わかりますね!」
遠まきに見ると単色に見えた羽根も、近くに来るといろいろなさし色が入っているのが、よく見えました。
「きれい!」
ミサキはうっとりと見入りました。
巣では鳥と同じように親のダコタラプトルの足もとにあかちゃんが丸まっており、親が戻ってくると餌をねだっています。小さい子は親から口移しで餌をもらっていましたが、少し大きくなった子は親が捕まえてきた小ネズミを直接食べていました。巣から飛び出してじゃれていれこどもたちもいましたが、巣から離れそうになると親がくわえたり、鼻で押したりして、ちゃんと連れもどしていました。
「あかちゃんも、かわいいね!」
ミサキは興味を示していました。しかし、ケイタとしては
「親がちゃんと世話しているから、保護する必要もないみたいだな・・・」
と、うれしいのか悲しいのか分からない、複雑な思いでした。
ソウタは、場所的にダコタラプトルの巣がよく見えないようでした。
「うーん。あかちゃんが見えないな・・・」
ソウタはそう言って、先生より先まで進んでしまいました。すると、
「おい、ずるいぞ!」
ユウトも負けずについて行ってしまいました。こうなると、ただの意地の張り合いです。二人とも恐竜のことなどすっかり忘れて、ちょっかいを出し合っています。その様子を見て、遠山先生が二人に注意をしようとしたその時、気配を察知した大人のダコタラプトルが、ソウタたちに猛然と飛びかかってきました。
「うわぁ!」
ふたりは、驚いて尻もちをついてしまいました。急いているとなかなか起き上がれないもので、尻もちをついたまま後ろに後ろにあとづさりしました。
ケイタは危険を感じ取り、遠山先生とアイコンタクトをかわしたあと、ミサキの手を取り、ケンジに声をかけ、一緒に花山先生たちのところに逃げ戻りました。
遠山先生は、ケイタ達がちゃんと避難したのを確認すると、ソウタとユウトを急いで抱え起こし、いっしょに逃げました。ダコタラプトルは結構足が速いのですが、さいわいなことに追って来なかったので、なんとか逃げおおせることができました。
「びびったぁ!」
ソウタとユウトは安心して息をつきました。遠山先生は
「不用意にコロニーに近づきすてはダメですよ!子育て中の恐竜は巣に近づく者には必ず攻撃してきますからね。」
と二人にキツめに注意しました。
「でも、威嚇してきただけでよかったですね。さっきの話のトリケラトプスみたいになったら大変でしたよ。」
と、冗談を言い笑顔に戻りました。
花山先生は一部始終を見ていたので、気が気ではありませんでした。二人が這って逃げているときなど、ハラハラして倒れそうになっていました。無事に戻ってきたときには、二人を見てホッとしましたが、逆に感情が混乱して
「二人とも見てたわよ。なにやってるの!」
と、思いっきり叱ってしまいました。ソウタとユウトは、涙目で怒る花山先生を見て、とんでもないことしでかしたと、心から反省したのでした。
なお、ダコタラプトルのあかちゃん探しですが、コロニーから見て死角になっている林をみんなで一生懸命探してはみましたが、迷子のあかちゃんは見つけられませんでした。あれだけ、親がちゃんと面倒をみていたら、そうそうは見つからないのもわかります。
「残念ですが、まあ獣脚類はだいたいこのような結果ですよ。落ち込まないでくださいね。」
と遠山先生はみんなを励ましました。
実はケイタも、いつも以上に必死になってさがしていたのですが、見つけられませんでした。やはり予想はしていましたが、ケイタの夢はまた遠のいてしまいました。
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