1-3その3
観察基地に戻ると、今日の昼食は定番のカレーライスでした。食事前に花山先生はみんなに言いました。
「食べきれないと思った人は、減らしますから、いただきますの前に先生のところに来てくださいね!あと、もう少し食べたい人もね。」
ミサキと女子の何人かは、先生のところにお皿を持っていきました。すかさず、ユウトたち男子が、その分け前にあずかろうと殺到しました。
花山先生は来た人のカレーの量を調整しながら言いました。
「ジャングルの中では、食べ物は残さない。できるだけゴミは出さない。ですからね!ちゃんと全部食べてね!」
そんななか、ケンジが浮かない顔をしていました。実は玉ねぎが苦手なのです。カレーは大好きです。特にお父さんが作ってくれるひき肉カレーは絶品です。しかし、ケンジの家のカレーは玉ねぎをあめ色になるまで炒めて、煮込むので、形がありません。ケンジも形がなくなった玉ねぎは問題なく食べることができます。しかし、観察基地の食堂のカレーは、イモもニンジンも、そして玉ねぎもゴロゴロっと大きく切って入っていました。万事休すです。
ケンジはまじめな性格です。そして、恐竜が大好きなので、ジャングルを汚す行為はできません。しかし、玉ねぎは強敵です。みんなに気づかれないように玉ねぎを微妙にカレー皿のふちへ寄せながら、カレーを食べ進めました。その際、玉ねぎの小さな塊は、ご飯と一緒に無理やり飲み込みました。しかし、最後のボスである二切れの大きな玉ねぎが残されてしまいました。今まで、自然な感じで食べてきたのに、ここで躊躇したら、みんなに残すのではないかと疑われてしまいます。そろそろ、食べている子もまばらになってきました。ケンジは意を決してゴロゴロ玉ねぎをスプーンですくおうとしたその時、正面に座っていたミクが、左右をキョロキョロっと見たあと言いました。
「ケンジくん、私玉ねぎが好きなの。その玉ねぎもらっていい?」
ケンジが
「お、おう・・・。」
と返事をするかしないかの間に、ミクは玉ねぎをすくって食べてしまいました。
「ああ、おいしかった!ケンジくんありがとう!ごちそうさま!」
ミクは自分の食器をかたずけに行ってしまいました。ケンジはプレッシャーから解放されて、一息ついた後、
「ごちそうさま!」
と大きな声でカレーを食べ終えたのでした。
昼食後、再び車に乗って移動です。午前中と同じように南に向かったあと東の方に曲がり、左手に父岳、右手には母岳を望みながら進みました。車の中ではみんなワイワイやっています。
「先生、父岳、母岳、兄岳、弟岳があるけど、なんで姉岳、妹岳はないんですか?」
ケイタが聞きました。
「実はありますよ!でも、両方とも母岳の中腹にあるちょっとした丘なので、ちょっと地味ですね。地図帳にも載ってないかもしれません。」
遠山先生が教えてくれました。今度はミサキが聞きましました。
「おじいちゃんとかおばあちゃんはいないんですか?」
「それはさすがにありませんね。でも、ジャングルの北の方に、婿岳、嫁岳がありますよ。険しい山々に隔たれているので、いまだに不明な事が多いのですが。」
「そういえば、確かに島の北の方は山が高いよね。」
ケイタが、地図帳を思いおこしながら言いました。
「そうですね。父岳や母岳が作ったカルデラより新しいカルデラなので、外輪山がひときわ高いのですよ。」
「別のお家(カルデラ)に行っちゃったから、婿や嫁なのね。」
ミサキは納得したようにうなずきました。
目的地に着きました。車から降りて少し進むと、トリケラトプスとならび人気があるアンキロサウルスのコロニーです。
ケイタとソウタは恐竜センターの飼育体験を思い出して、二人で顔を見合わせ苦笑いをしていました。
なぜか、きょうりゅう島で見つかっている恐竜は、大量絶滅時に北アメリカ大陸にいた恐竜ばかりです。しかし、なぜここに北アメリカの恐竜がいるのかは、まったくもって謎で、今のところきちんと説明できる理由はありません。この島は大変古い島で、2億5千万年前に何度も起きた海底火山の大噴火によってできたと考えられています。そして、完全な海洋島で、大陸とつながったあとはまったく見つかっておらず、陸生の動物が歩いてやってくる可能性は全くありません。しかしながら、恐竜を含めた十数種類の陸生の主竜類だけが、なぜか広い海を渡っているのです。この島でも化石が見つかればなんらかのヒントがあるのかも知れませんが、大昔からジャングルだったので、化石を見つけるのは容易ではないのです。
さて、アンキロサウルスですが、角竜や鳥脚類のようにクチバシが頑丈ではないので、草地の側にコロニーを構えています。観察してみると、あかちゃんたちも柔らかい草をはみながら、しっぽの先のハンマーを振り回して遊んでいます。
「ちいさくても、なかなか好戦的だな。オレのパキケファロサウルスとたたかうか?」
ユウトは軽口を言いました。それに答えケンジは言いました。
「ティラノサウルスにも負けない攻撃力だから、あなどれないよ。でも、動きはちょっとにぶいから、逃げ足はいま一歩だけどね。」
そこへ、ミクが割り込んできました。
「逃げられなかったら、結局食べられちゃうじゃないの。」
「大丈夫、あの背中は硬いから。ちょっとやそっとじゃ、やられないのさ!」
ケンジの言ったことは、アンキロサウルス探しの時に証明されました。
草地に迷い込んだアンキロサウルスのあかちゃんは、見つかるとしっぽを振り上げて威嚇して、まったく逃げようとしませんでした。そして歯が立たないとわかると、今度はカメのように硬い背中を盾にして、丸まってやり過ごそうとしました。本来なら、これで食べられずに逃げうせることができたでしょう。しかし、人間は食べるのわけではありません、捕まえようとしているのです。したがって、簡単に捕まってしまいました。
ケイタとソウタのクラスは、今回の捜索では三頭のアンキロサウルスを保護しました。花山先生も見事に一頭見つけて、クラスの男子にあげていました。
遠山先生には、
「このクラスはすごいですね!私たちが手伝わなくても、こんなにたくさん恐竜を捕まえられるクラスは、初めてだと思いますよ!」
と、ほめてくれました。
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