1-3その4
深いジャングルのガタガタ道を車でさらに十分くらい南東に移動すると、竜脚類のハヤマティタンのコロニーに到着しました。今日の最後の恐竜探しです。大昔の竜脚類は子育てなどしなかったと考えられていますが、ハヤマティタンは島の環境にあわせて小型化しているせいか、あまり上手とは言えませんが、ほかの恐竜と同様にたまごや子どもを守る習性を獲得していました。
実はきょうりゅう島の恐竜たちは、化石で知られている恐竜たちほど巨大な体を持っていません。その大きさは、トリケラトプスやハヤマケラトプス、アンキロサウルスはちょうどサイやカバぐらい、エドモントサウルスやヒパクロサウルスはキリンよりやや小さいくらい、パキケファロサウルスちょうどダチョウぐらいです。
その理由はいくつかあると考えられていますが、その一つは、島という狭い環境への適応のためと言われています。これは、島嶼化と呼ばれ、現生の哺乳類でもシカが島に適応した結果、イヌくらいの大きさになった例があります。もう一つは、南国への対応です。クマは南に住む種類ほど小さくなることが知られています。さらに、ジャングルへの適応が考えられています。恐竜は元々草原などひらけた土地で暮らしていましたが、ジャングルではあまりに巨大化すると自由に動けなくなってしまうため、小型化していったのではないかと考えられています。このような理由で、この島の恐竜は、現生の哺乳類と同じぐらいの大きさになったと考えられます。ただ、それでも、十分大きく、迫力はあります。
ハヤマティタンは巨大な仲間が多い竜脚類のわりに小さいとはいえ、やはりゾウぐらいの大きさはあります。発見された当時は新種と考えられていましたが、近年は骨格の研究が進み、化石種のアラモサウルスと同種ではないかと考えられています。本来なら名前もアラモサウルスに変更になるのですが、体長30メートルを超えるアラモサウルスとは大きさがあまりにも違いすぎていることと、名前がすでに十分周知されてしまっていることから、現在でも論争は続いていますが、今のところはハヤマティタンという呼び名のままで落ち着いています。
ハヤマティタンですが観察してみると、どうやら人がいることに気が付いているようですが、警戒するそぶりがありません。それよりも、食欲が優先されるのか、大きな木の上の方の葉っぱをムシャムシャ食べていました。
「大きいなあ!」
ケンジは大興奮です。
「あんな高いところの草を食べてるわ。」
ミクも感心しています。
みんな、島で最大、ある意味、恐竜らしい恐竜を見て感動していました。しかし、
「こんな大きな恐竜、うちで飼えるのかしら?」
と、みんな心配になってしまいました。
「子育てが上手ではないので、ハヤマティタンが今いちばん減ってきています。このままでは野生のハヤマティタンはいなくなってしまうかもしれません。」
遠山先生は言いました。
「あの巨体ではしょうがないわね・・・。」
ミクは思いました。ハヤマティタンのあかちゃんは、親の巨体とはくらべものならないほど小さいのです。そのため、親恐竜は大きすぎてあかちゃん恐竜の面倒が細かく見ることができず、ネズミたちの格好の餌食になってしまうのです。
さて、恐竜探しの時間になりました。みんな慣れた感じで、よつんばいになり探し始めました。やはりハヤマティタンはおそわれやすいのか、ネズミや鳥などに食べられてしまったあかちゃんがたくさんいました。
「かわいそう…」
サクラとミサキは亡くなったハヤマティタン一頭一頭に手を合わせていました。
ケイタはしばらくはいつくばってさがしていました。しかし、ケンジが何やら草かげでもぞもぞしているのに気がつくと、心配そうに声をかけました。
「大丈夫?どうかしたの?」
すると、ケンジは驚いたように
「いや何でもない!」
と言ったあと、明らかにあわてたようすで、何かを草むらにかくしました。
そして、ケンジは浮かない顔でケイタに聞きました。
「恐竜ってさ、親がいないと死んじゃうよね。」
ケイタは不思議でした。ケンジは恐竜が大好きでとても詳しいのです。そんなこと今更聞くのは変でした。
「ああ、ほとんどは死んじゃうよね。でも、大昔の竜脚類のあかちゃんは、森の中でひとりぼっちで生きぬいたらしいけど。」
ケイタが答えると、ケンジはカラ元気を出して、
「そうだよな!成長も早いしきっと生き抜けるよな!」
と語りました。すると、話を聞いていた花山先生が何か察したようで、やさしい声でケンジに話しかけました。
「飼えなくても気にせず、生きている子がいたら捕まえてくださいね。大切な命です。大丈夫、もし引き取る人がいなくても、恐竜センターでちゃんと育ててくれますからね。」
ケンジはまた元気をなくし、少しうなずきながら、何かまだ迷っているようでした。
ちょっと昔はどこの家も恐竜小屋があったものなのですが、最近はマンションもふえてきて、こどもが恐竜を飼いたくても飼えない家が増えてきました。家庭での恐竜保護はボランティアの意味合いも大きいため、飼わなくでもまったく問題ありませんが、毎年多くのこどもたちが泣く泣くあきらめていました。
「先生、見つけました・・・」
ケンジは悩んだ末、花山先生にハヤマティタンのあかちゃんを差し出しました。
ケンジの家は駅前のマンションで、恐竜どころか小型犬より大きいペットは禁止されていました。ケンジのお父さんは東京から転勤してきたので、恐竜のことをあまり考えていませんでした。しかも、またいつか東京に帰ることもわかっていました。けれども、ケンジは恐竜が小さいときから大好きでした。恐竜を飼うのが夢でした。お父さんがきょうりゅう島へ転勤すると決まったとき、お母さんに家族みんなできょうりゅう島に引っ越すことをお願いしたのもケンジでした。大きな恐竜が特に好きでした。
「でも、この子をうちでは飼えません。」
ケンジは泣いていました。
ケンジは転校生でしたが、気さくな性格でみんなと打ち解けるのも早く、友だちもたくさんいました。ケンジが恐竜が好きなことも、みんなよく知っていました。ケンジはこの恐竜探検をすごく楽しみにしていて、恐竜探検係に立候補したのです。ふだんは泣くようなタイプではないケンジが泣いてしまう気持ちが、みんな痛いほどわかりました。
ケイタはその子を引き取ろうかと考えました。ケンジとは仲も良いので、いつでも気軽に会いにこれるでしょう。ただ、ケイタの家はふつうの家です。すでにソウタのハヤマケラトプスもいるので、ハヤマティタンが飼えるのか心配です。でも、父親はあの速間教授です。何とかしてくれるかもしれません。
「その子はぼくが預かります!」
といいかけたその瞬間、
「その子、うちで飼うわ!」
ミクが叫びました。
「えっ、良いの?ミクは飼いたい恐竜があるんじゃないの?」
ケンジは内心喜びながらも、ミクに気を使って聞きました。
「大丈夫よ!うちのお父さんも、ハヤマティタン飼ってたんだから。」
そういえば、ミクの家は蔵があるほど大きな家で、昔ながらの恐竜小屋まであります。
「そうすればケンジくん、いつでもこの子に会いに来られるでしょう。」
ミクの言葉を聞いて、ケンジはほっとしたようでした。
「ありがとう!ちょくちょく会いに行ってもいいかな?」
ケンジはミクに聞きました。
「もちろんよ!この子はケンジくんの恐竜でもあるのよ。」
万事解決です。それにしてもミクはしっかりしています。さすが学級委員です。ひとこと多いとこもありますが。
こうして、二日目の恐竜探しがおわりました。
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