1-2その4

 恐竜初捕獲の後もしばらく同じ場所で探しましたが、

「そろそろ移動の時間ですよ!」

花山先生の掛け声を合図に、ケイタとソウタたちは、整列しました。結局、ケイタとソウタのクラスでは、トリケラトプスは一頭しか見つけられませんでした。

「ぐぬぬ・・・」

ユウトは再び悔しそうにうめき声をあげました。

「最初から一頭でも見つかれば上出来ですよ!それでは、次の場所に移動しましょう。」

遠山先生はそう言って歩き出しました。

「また一時間ほど歩きますよ!頑張りましょう!」

「うへぇ、また歩くのか・・・」

一部ボヤいている子もいましたが、ほとんど子は

「次はどんな恐竜のあかちゃんだろう?」

「次はわたしも見つけたいな!」

などと話しながら、遠山先生の後に付いて元気よく歩き出しました。花山先生も、

「さて、何の恐竜でしょう?」

「次も誰か見つけられると良いね!」

とか、生徒たちと仲良く話しながら、みんながはぐれないように一番後ろを歩いていました。


 そろそろ目的地に着こうかという頃、先の方から

「ブォー。ブォー。」

と不思議な音が聞こえてきました。

「なんの音かしら?」

ミサキは誰ともなく聞きました。すると近くを歩いていたミクが答えました。

「きっと、恐竜の鳴き声よ。」

しかし、あまり自信がないらしく、恐竜に詳しいケンジに助けを求めました。

「そうよね。ケンジくん」

「あれはエドモントサウルスの声じゃないかな。恐竜センターでよく聞いたからきっと間違いないよ。」

「さすがケンジくん!」

ケンジの博識に、ミクは感心しました。

 着いた先は予想通り、鳥脚類のエドモントサウルスのコロニーでした。

「エドモントサウルスはトリケラトプスと並んできょうりゅう島にたくさんいる恐竜で、比較的飼いやすいのが特徴です。」

遠山先生が教えてくれました。

「草食で大人しいのですが、声がちょっと大きいところが、玉に傷ですね。」

 このコロニーでも、少し近くに寄って観察しました。エドモントサウルスは普段は四本足で歩きますが、高い枝の葉を食べる時などは二本足で立つこともあります。あかちゃんたちも二本足で立とうとしていますが、まだ上手に立てずすぐに前足をついてしまいます。がんばって立ち上がる子もいますが、やはり転んでしまいます。中にはズルをして、別の子の背中を踏み台にする子もいましたが、立ち上がったかと思うと、踏み台にされた子が仕返ししてたおしたり、もつれて転がったりしていました。

「やっぱりあかちゃんは落ち着きないのね。」

ミクはつぶやきました。


 恐竜探しの時間になりました。遠山先生に探す場所を教えてもらうと、みんなよつんばいになって探しはじめました。先程ソウタが見つけた方法をみんなが真似したのですが、今回は下草だけでなく背の高い木々も混ざっていたので、ゴツンと木に頭をぶつける子が続出しました。

しかし、探し始めてから十数分ほどで、

「捕まえた!」

と叫び声が聞こえました。クラスメイトの誰かがさっそく捕まえたようです。さらに、数分後にもう一頭、別のクラスメイトが捕まえました。

こんなに立て続けに見つかることはあまりないそうで、遠山先生は、

「このクラスは優秀ですね!」

とびっくりしていました。

 一方ケイタもソウタたちと一緒に、よつんばいになってしっかり探していました。すると、ついに草陰にわずかに動く物を見つけました。

「やった!見つけた!」

と思いましたが、よく見ると毛におおわれています。エドモントサウルスではなさそうです。

「うわっ、ネズミだ!」

なんと体長三十センチはあろうかという、大きなネズミでした。ネズミはケイタに気がつくと一目散に草陰の奥に逃げこんで、見えなくなってしまいました。そしてあとには、食べられてしまったエドモントサウルスのあかちゃんが、無惨な姿をさらしていました。そこへ、ソウタたちも駆け寄ってきました。みんなは、その姿を見て言葉を失ってしまいました。

「かわいそう。」

ミサキは涙ぐんでいました。ソウタは報告するために遠山先生を呼んできました。

「草食恐竜はたまごをたくさん産みますが、大人なれるのはほんの一部なのです。ほとんどはたまごやあかちゃんのうちに食べられてしまうのです。」

ケイタたちはそう教えてもらいました。トリケラトプスの時は気が付きませんでしたが、恐竜探しのロープの中にはよくよく見てみると骨みたいな物がけっこう落ちています。過酷な世界です。ケイタやソウタたちは数頭だけでも助けてあげられてよかった。と心の底からと思いました。

 エドモントサウルス探しが終わったら、午前中の恐竜探しはおしまいです。花山先生はみんなに、

「一度観察基地に戻りますよ。お昼ご飯の時間ですからね。」

と伝えました。

 ジャングルの中では基本的に野外で食事をしてはいけないことになっています。食べこぼしなどでジャングルに食べ物を残してしまうと、野生動物には毒になるかも知れませんし、逆に味をしめておそって来ないともかぎりません。そもそも、ジャングルが汚れてしまいます。細かいことですが、ジャングルをできるだけ自然のままに残すためには、大切なことなのです。


 みんな、幸先の良い出だしに意気揚々と観察基地に戻っていきました。ただし、ユウトだけは、悔しそうでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る