1-2その3
いよいよ恐竜のあかちゃん探しです。
みんなは少し移動して、トリケラトプスのコロニーから木や藪で死角になっている、大人の背たけほどもある下草の茂みを、探し始めました。花山先生が、みんなに声をかけました。
「迷子にならないように!ロープの外には出ないようにしてくださいね!」
沼などにはまらないよう、事前に恐竜センターの研究員さんが安全に探せる範囲をロープで囲ってくれているので、安心です。また、コロニーからは少し離れているので、多少騒いでも大丈夫そうです。
遠山先生は探し始めたみんなに、
「恐竜のあかちゃんは思ったより小さいですから、草陰に身を縮めて潜んでいることが多いですよ。」
とアドバイスをしてくれました。しかし、多くのクラスメイトは立ったまま背が高い草を足でよけながら、その根本ばかり探していました。背の高い草は下の方には葉っぱが少なく意外とスカスカです。あかちゃんが隠れていそうな感じがしません。
「そうそう簡単には見つかりませんから、もっと下草の下などを、しっかり探しましょうね!」
遠山先生が言った通り、なかなか見つかりません。
そこでソウタは遠山先生のアドバイスを参考に、よつんばいになって重なりあった背の低いシダの茂みを手でかき分けながら、丹念に探してみました。トリケラトプスを見つけたいサクラもソウタを見習ってよつんばいになって、下草を丁寧に手でめくりながら、さらに下を探しました。
三十分ほどたったでしょうか、なかなか見つからない恐竜探しにそろそろ飽きてきた子がチラホラ出てきました。しかし、ソウタとサクラ、あと一番最初に捕まえると宣言しているユウトは諦めませんでした。ソウタとサクラはずっとよつんばいで膝小僧が痛くなってきましたが、粘り強く探し続けていました。
すると、ソウタがついに見つけました。のぞいたシダの葉の陰に、小さい体をさらに小さくしてふるえているトリケラトプスのあかちゃんがいたのです。ソウタは近くにいたサクラに目くばせして、知らせました。ちなみに、恐竜のあかちゃんは素手で捕まえます。草陰ではアミは役立ちませんし、傷つけてはいけないので程よい道具もありません。したがって、普通のすべり止めのゴムがついた軍手と自分の腕だけが頼りです。
「見つけても静かに近寄ればトリケラトプスのあかちゃんは、固まったままで動きませんよ。ただし、捕まえようと手を伸ばしたぐらいのタイミングで逃げ出すので、一気に捕まえましょう。そんなに動きは早くはないので、焦らずにね!」
事前に押しててくれた遠山先生の助言通り、ソウタは音を立てずに手が届くか届かないかくらいまで近寄ってから、素早くトリケラトプスのあかちゃんを手で押さえ込もうとしました。
「えいっ!」
運動神経に自信のあるソウタは、トリケラトプスに飛びかかり、地面にうまく押さえ込むことができました。
「やった、捕まえた!」
しかし、うまくいったと思ったのも束の間、必死なトリケラトプスのあかちゃんは身をよじらせて、押さえつけていた手からスルッと抜け出してしまいました。どうやら、ずっとよつんばいだったせいで、手にしっかりと力が入らなかったようです。
それを見たサクラは、急いでトリケラトプスの逃げた方に先回りしてゆく手をふさぐと、
「やあっ!」
と飛びかかりました。しかし、トリケラトプスはびっくりしてきびすを返し、もと来た方向へ逃げていき、空振りになってしましました。ところが、今度はそこにうまいことソウタが待ち構えており、今度はがっちりとつかむことに成功しました。
ソウタは叫びました。
「捕ったどー!」
サクラもソウタに向かって叫びました。
「やった!捕まえたね!」
ソウタはトリケラトプスのあかちゃんをしっかりと抱きかかえてから、答えました。
「ありがとう!サクラ。おかげで逃がさないですんだよ。本当にありがとう!」
コロニーからほんの数十メートル。人間なら見えるぐらい距離ですが、小さなあかちゃんにとっては命に関わる距離なのです。
「先生!捕まえました!」
ソウタとサクラは遠山先生と花山先生に報告しました。
「このクラスは幸先が良いですね。普通はこんなに早くに見つからないですよ。すごいですね。」
遠山先生はほめてくれました。
花山先生やクラスのみんなが、クラスで初めて捕えた恐竜のあかちゃんを見るため、ソウタとサクラの周りに集まってきました。
その中、
「ぐぬぬ・・・」
ユウトはあんなにこだわっていた一番乗りを、よりによってソウタに取られてしまい、うなり声ともつかぬ声あげてくやしがっていました。
サクラはトリケラトプスのあかちゃんをさっそく抱かせてもらいました。
「かわいい!」
あかちゃんは、最初のうちはじたばたしていましたが、サクラに頭やのどをコリコリしてもらうと、気持ちが良いのかすっかりおとなしくなりました。
「いいコ、いいコ!」
サクラはすっかり気に入ってしまったようでした。トリケラトプスのあかちゃんもなついているみたいです。
ソウタはその姿をみて、少し迷いましたが、思い切って言いました。
「この子、サクラが飼いなよ。」
「えっ!ソウタくんが捕まえたのに、いいの?」
「サクラがいなきゃ捕まえられなかったから、半分サクラが捕まえたようなもんだよ。やっぱりハヤマケラトプスが気になるし、ぼくは大丈夫さ!」
飼うことのできる恐竜は一人一頭と決まっています。やっぱり父さんが発見したハヤマケラトプスを飼うと決めたソウタは、いさぎよくサクラにゆずってあげることにしました。
「ありがとうソウタくん!大切に育てるわ。」
サクラは大喜びして、トリケラトプスのあかちゃんをしっかりと抱きしめました。
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